【マルチ商法=連鎖販売取引=適法だが規制あり|ねずみ講=無限連鎖講=違法】
1 マルチ商法|連鎖販売取引の定義
2 連鎖販売取引の具体例|『あっせん』+『1円以上の対価支払』
3 連鎖販売取引と通常の紹介料の比較
4 連鎖販売取引の規制内容(概要)
5 無限連鎖講|ねずみ講は違法
6 『無限連鎖講=違法』と『連鎖販売取引=適法』の違いは『商品』の有無
1 マルチ商法|連鎖販売取引の定義
いわゆる『マルチ商法』は,これ自体が違法というわけではありません。
特定商取引法上の『連鎖販売取引』として一定の規制が適用されるのです。
まずは『連鎖販売取引』の定義からまとめます。
<連鎖販売取引|定義>
次のすべてを満たす取引
あ 商品・サービスの販売
物品の販売or役務の提供の事業
い 受託販売orあっせん
(『あ』についての)再販売・受託販売・販売のあっせん
う 特定利益
『い』により『特定利益=紹介・あっせんの対価』が得られる
例;紹介料・販売マージン・販売ボーナス
え 特定負担
『い』のために特定負担が伴っている(徴収した)
例;入会金,商品購入費,研修費等などの財産(金銭)的な負担
※特定商取引法33条
このように,条文上の定義(要件)は,ちょっと分かりにくいです。
噛み砕いて説明します。
2 連鎖販売取引の具体例|『あっせん』+『1円以上の対価支払』
『連鎖販売取引』を大雑把に=分かりやすく,まとめ直します。
<大雑把な『連鎖販売取引』の対象システム>
あ 大雑把な『連鎖販売取引』の対象
『紹介(あっせん)する立場』の入手のために『金銭・その他の財産』が必要というシステム
い 『紹介する立場』の具体例|特定利益
『紹介したら紹介料をもらえる立場』
『(紹介・あっせん)システムの会員』
う 支払う金銭(金品)の名称の具体例|特定負担
『紹介料』
『取引料』
『入会金』『会費』『加盟料』『保証金』
『システム料』
『サンプル商品代』『商品代』
<連鎖販売取引の具体例>
あ システム内容=特定利益|例
ア 値引き販売
システムAに入会すると『通常価格』の4割引で商品を買える
→入会者が別の者に『通常価格』で販売することが想定されている
イ 勧誘→入会→紹介料
友人を勧誘して友人がシステムAに入会すると紹介料1万円がもらえる
い システムに入会する対価=特定負担|例
システムAに入会するためには入会金が必要(1円以上)
3 連鎖販売取引と通常の紹介料の比較
一般的に,商品販売に関与した者が紹介料をもらうということはよくあることです。
顧客(候補者)の紹介には経済的価値が認められるからです。
紹介料は業種によっては個別的に禁止されていますが,原則は適法です。
詳しくはこちら|資格業・士業|紹介料・広告の規制・受任義務・公定価格
連鎖販売取引も,この通常の紹介と似ているところがあります。しかし根本的に大きく異なります。このふたつの違いや同じところを整理しておきます。
<連鎖販売取引と通常の紹介料の比較>
あ 連鎖販売取引
会員(紹介料をもらえる立場)になるために入会金を支払う必要がある
会員が新しい顧客を紹介すると紹介料をもらえる
い 通常の紹介料
紹介料をもらえる立場になるために何かをする(金銭を支払う)必要はない
加盟店や代理店(紹介料をもらえる立場)になるとしても,そのために入会金を支払う必要はない
新しい顧客を紹介した人が紹介料をもらえる
根本的な違いは紹介料をもらえる立場になるためにその対価(金銭)を支払う必要があるかどうかということになります。
4 連鎖販売取引の規制内容(概要)
連鎖販売取引はこれ自体は違法ではありません。
一定の規制が適用されるのです。
これらを遵守しない場合はもちろん違法となります。
<連鎖販売取引の規制|順守事項>
あ 書面交付
契約締結前や契約締結時の書面交付の義務(※1)
い 広告
広告への一定事項の表示の義務・誇大広告の禁止
う 勧誘
不適切な勧誘行為の禁止
例;不実告知・威迫困惑行為
え クーリングオフ
期間は20日間(一般の訪問販売は8日間)
お 中途解約権
中途解約ができるものとする
※特定商取引法33条の2〜37条
<交付する書面の記載ルール(上記※1)>
あ 注意事項
次の事項を『赤枠の中』に『赤字』で記載する
ア 『書面をよく読むべき』イ 『クーリング・オフの事項』
い 文字の大きさ
字の大きさは8ポイント以上
連鎖販売取引に適用される規制の内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特商法による連鎖販売取引(マルチ商法)の規制の全体像(行政規制・民事規制)
5 無限連鎖講|ねずみ講は違法
いわゆる『ねずみ講』は,法律上『無限連鎖講』として禁止されています。
まずは『無限連鎖講』の定義をまとめます。
<無限連鎖講(配当組織)の定義>
先に加入した会員(先順位者)に続いて段階的に後続の会員(後順位者)が連鎖する
先順位者は,2人以上の後順位者を持つことができる
連鎖(段階)の制限がない
会員は金銭その他の財産を先順位者に支払う(支出する)
『先順位者が後順位者から受領する金銭』は『先順位者自身が支出した金銭』を上回る
※無限連鎖講防止法2条
無限連鎖講に一定の関与をした者に対しては刑事罰が定められています。
<無限連鎖講の罰則>
態様 | 法定刑 | 無限連鎖講防止法 |
開設・運営 | 懲役3年以下or罰金300万円未満 | 5条 |
業としての勧誘 | 懲役1年以下or罰金30万円以下 | 6条 |
(一般)勧誘 | 罰金20万円以下 | 7条 |
6 『無限連鎖講=違法』と『連鎖販売取引=適法』の違いは『商品』の有無
無限連鎖講は違法であり,一方,連鎖販売取引は適法です。
両方の定義を比べると,『違い』が分かります。
『違い』だけをまとめます。
<無限連鎖講と連鎖販売取引の違い>
取引・組織の種類 | 商品・サービスの動きの有無 | 違法性 |
連鎖販売取引 | あり(販売の紹介・あっせん) | 適法 |
無限連鎖講 | なし | 違法 |
連鎖販売取引は,大雑把に言えば,紹介・あっせんの一環なのです。
自由経済における当然の経済的取引の形態の1つなのです。
目的とする適法な行為に結びついているのです。
無限連鎖講は,組織内の金銭の移動以外の目的とする取引がないのです。
そこで終局的に破綻するという性質だけとなり,これを合理化する理由を欠くのです。
本記事では,マルチ商法(連鎖販売取引)やねずみ講(無限連鎖講)の規制を全体的に説明しました。
実際には,個別的な事情(販売手法の内容)によって適用される規制は違ってきます。
実際に会員組織による販売や配当に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。