【私立大学の補助金(私学助成金)の基本(公的規制・減額や不交付)】

1 私立大学の補助金(私学助成金)の基本
2 私立大学の補助金の合憲性(概要)
3 私学大学の補助金(私学助成)の分類と交付方式
4 私学事業団の法的性格
5 経常費補助金の交付の上限と方式
6 経常費補助金の減額・不交付
7 施設・装置・設備整備費補助金の減額・不交付
8 私立大学の補助金についての監督(概要)

1 私立大学の補助金(私学助成金)の基本

私立大学の運営では,収入のうち約10%という高い割合が公的な補助金となっています。
詳しくはこちら|私立大学の運営|資金調達ルート拡張の必要性・収益事業・擬似マーケット
本記事では,私立大学の補助金(私学助成金)に関する基本的な法令や法的問題を説明します。

2 私立大学の補助金の合憲性(概要)

私立大学は文字どおり私的な団体です。そこで,公的な資金を私立大学に交付することは税金の使い方として適していないとも思えます。これは,憲法89条の規定に抵触するかどうか,という問題につながっています。
詳しくはこちら|私立大学の補助金(私学助成金)の合憲性(公の支配に属するか否か)

3 私学大学の補助金(私学助成)の分類と交付方式

私学助成金の内容は,経常費施設や設備の費用の補助の2つに分類できます。
経常費補助金は,私学事業団が交付します。
施設や設備の費用の補助金は,政府(文部科学大臣)が交付します。

<私学大学の補助金(私学助成)の分類と交付方式>

あ 経常費補助金

ア 細かい分類

一般補助 私学助成法4条
特別補助 私学助成法7条

イ 補助金の交付方式(概要) 私学事業団(後記※1)を通じて交付する(後記※2
※私学助成法4条

い 施設・装置・設備整備費補助金

文部科学省大臣が直接交付する
※私学助成法10条
※私立学校法59条

4 私学事業団の法的性格

経常費補助金を交付するのは,政府ではなく私学事業団です(前記)。私学事業団は,特殊法人で,出資者は政府です。政府の認可を得て設立されています。
結局,経常費補助金は,政府の資金が私学事業団を通じて,間接的に交付されているといえます。

<私学事業団の法的性格(※1)

あ 正式名称

日本私立学校振興・共済事業団

い 法的性格

政府出資の特殊法人
旧文部大臣・大蔵大臣の認可を受けて設立されている
※私学事業団法3条,附則3条

5 経常費補助金の交付の上限と方式

経常費補助金は,政府が直接交付するのではなく,私学事業団を通じて交付します。この間接補助方式は,直接的な政府のコントロール・介入を隠す機能を果たしているという指摘もあります。

<経常費補助金の交付の上限と方式(※2)

あ 交付の上限

研究・教育に要する経常的経費の2分の1以内の金額を交付する
”2分の1を超える割合(金額)に増額することも可能である
※私学助成法4条1項,7条

い 交付方式=間接補助方式

私学事業団を通じて交付する
※私学助成法11条

い 間接補助方式を採る理由

私学の自主性尊重と政府のコントロールのバランスをとる
→憲法89条への配慮にもなっている
詳しくはこちら|私立大学の補助金(私学助成金)の合憲性(公の支配に属するか否か)

え 間接補助方式への批判

“官の隠れ蓑・“ひも付き補助金隠しという位置付けである
※石村耕治『規制緩和時代の私立大学運営と税財政法務』p515

6 経常費補助金の減額・不交付

補助金は公金ですので,政府が一定のコントロールをしています。
補助金のうち経常費補助金については,減額・不支給というクリティカルな措置(コントロール)が可能です。

<経常費補助金の減額・不交付|政府のコントロール>

あ 減額

一定の事由に該当する場合,国は補助金の減額ができる
※私学助成法5条

い 不交付

『減額事由』に該当する+その状況が著しく,補助の目的を有効に達成することができない
→国は,補助金を交付しないことができる
※私学助成法6条

当然,減額や不支給の判断は政府が自由裁量でできるわけではありません。
法律上,減額や不支給の措置を取ることのできる事由が列挙されています。

<私学助成法所定の減額・不交付事由>

ア 法令の規定,法令の規定に基づく所轄庁の処分又は寄附行為に違反している場合イ 学則に定めた収容定員を超える数の学生を在学させている場合ウ 在学している学生の数が学則に定めた収容定員に満たない場合エ 借入金の償還が適正に行われていない等財政状況が健全でない場合オ その他教育条件又は管理運営が適正を欠く場合 ※私学助成法5条

このように,減額・不支給の事由には,評価・判断でブレるものが多く混ざっています。
減額・不支給の手続については,また別の条文でルールとして規定されています。

<経常費補助金の減額・不交付の手続>

あ 減額・不交付の手続の遂行

私学事業団が行う

い 手続規定

ア 私立学校等経常費補助金取扱要領 私学事業団理事長が裁定したもの
イ 私立学校等経常費補助金交付要綱+別添補助金取扱要領 文科大臣が裁定したもの

7 施設・装置・設備整備費補助金の減額・不交付

補助金のうち施設や設備の費用の補助金の交付は間接補助方式ではありません。交付方式として,政府の直接的コントロール下にあるのです。減額や不交付も,政府は大きな裁量を持っています。

<施設・装置・設備整備費補助金の手続>

全面的に文科大臣が直接交付決定などを遂行する
※私学助成法10条

8 私立大学の補助金についての監督(概要)

私学助成金は公的な資金なので,以上のような減額・不交付という形で政府の一定のコントロールが及んでいます。
それ以外にも,いろいろな形で政府や納税者の監督が及んでいます。これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|私立大学の運営や私学助成金についての政府や納税者による監督

本記事では,私立大学の補助金(私学助成)の基本的事項を説明しました。
実際に私立大学の補助金に関する具体的問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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