【刑事・民事・家事手続の不服申立(控訴・上告・抗告)の書面提出期限】
1 刑事・民事・家事手続の不服申立(控訴・上告・抗告)の書面提出期限
控訴・上告などの不服申立では期限切れによって手続が終わってしまうことがあります。提出期限をしっかり理解して,意識しておく必要があります。本記事では,いろいろな種類の不服申立の手続における書面の提出期限をまとめます。
2 控訴・上告の2段階書面提出システム
控訴・上告などの不服申立の手続では,申立の書面と理由を記載した書面(理由書)を2段階で提出することが想定されています。
刑事・民事で多少違いますが,2段階,という枠組みは同じです。
控訴・上告の2段階書面提出システム
あ 控訴状・上告状・上告受理申立書
最初の確定阻止という位置付けといえる
原則的な期限=原審判決言渡から2週間
い 理由書・趣意書
原審の不服部分の指摘というメインの内容である
手続による違いが大きい(後述)
3 控訴・上告の理由の書面の提出期限(まとめ)
2段階目の理由書・趣意書についてはバラエティに富んでいます。弁護士でも間違えるケースがたまに事故として生じています。最初に全体像をまとめておきます。
<控訴・上告の理由の書面の提出期限(まとめ)>
カテゴリ | 控訴の理由 | 提出期間 | 期限切れ | 上告の理由 | 提出期間 | 期限切れ |
民事 | 控訴理由書 | 50日 | 規定なし | 上告理由書 | 50日 | 却下決定 |
刑事 | 控訴趣意書 | 個別設定 | 棄却決定 | 上告趣意書 | 個別設定 | 棄却決定 |
次に,手続ごとのルールをまとめます。
4 民事訴訟の控訴の申立手続→目安
民事訴訟の控訴の申立の手続を整理します。
理由書の提出期限は規則上,公訴提起後50日と明記されています。
しかし期限切れの時に,棄却や却下とする,という規定がありません。少なくとも1日遅れたことが理由で手続が終わってしまう,ということはありません。あえて言えば目安ということもできます。
とはいっても,期限どおりに提出することが望ましいです(後述)。
民事訴訟の控訴の申立手続
あ 控訴状提出
期限=判決送達後2週間内
※民事訴訟法285条,286条
い 控訴理由書提出
ア 期限
控訴提起後50日以内
※民事訴訟規則182条
イ 期限切れ
条文上は規定なし
5 民事訴訟の控訴理由書の提出タイミングの実情
前述のように,控訴理由書の提出期限の50日というのは,これを過ぎてしまっても,却下などの措置がとられるわけではありません。実際に,この提出期限以降に控訴理由書が提出されることが多い,という実情もあります。
しかし,裁判所にしっかりと検討,判断してもらうためには期限までに提出することが好ましいです。
民事訴訟の控訴理由書の提出タイミングの実情
大段
・・・
それから1審と同じですが,控訴理由書を含めて,書面の提出については期限を守っていただきたいということです。
中西
今の点は,陪席裁判官や書記官から是非座談会で言ってもらいたいという希望がありました。
控訴理由書の提出は民訴規則で控訴提起から50日以内と決められているのですが,実際に守られているのは,感覚的には,せいぜい6割ぐらいです。
門口
それは延期申請もされないのですか。
中西
延期申請がされるのもありますが,ごく一部です,なかなか守られていません。
途中で言いましたように,控訴理由書が出て本格的な検討に入りますので,控訴理由書が出ないと,なかなか高裁の裁判官は検討に入れませんので,是非そこは守っていただきたいと思います。
※『裁判官に聴く 訴訟実務のバイタルポイント No15・完 控訴審』/『ジュリスト1529号』2019年3月p58
6 民事訴訟の上告の申立手続→却下
民事訴訟の上告については2種類に分けられます。不服の内容によって上告申立と上告受理申立があるのです。ただ,申し立てるフローについては同様です。
実質的な内容を記載するのは上告理由書です。提出期限が規則上明記されています。
上告理由書の期限切れの場合は却下決定となることが法律上明記されています。
控訴と同じように,多少遅れても督促されるだけだろう,と誤解してしまうと大変なことになります。期限から1日遅れた時点で却下を食らって驚くことになります。それで手続が終わってしまいます。
民事訴訟の控訴と上告では理由書の提出期限の部分で大きな違いがあるのです。
民事訴訟の上告の申立手続
あ 上告状・上告受理申立書提出
判決送達後2週間内
※民事訴訟法285条,313条,314条,318条5項
い 上告理由書提出
ア 期限
上告提起通知書の送達から50日
※民事訴訟法315条1項,318条5項,民事訴訟規則194条
イ 期限切れ
却下決定
※民事訴訟法315条,316条,318条5項
7 家事審判の即時抗告の申立手続(概要)→目安
家事審判についての不服申立方法は即時抗告です。
即時抗告についても申立書・理由書の2段階提出方式となっています。
理由書提出の期限切れの直接的なペナルティ規定はありません。ただし,印象レベルで不利に働くということもあり得ます。
家事審判の即時抗告の申立手続(概要)
8 家事審判に関する特別抗告・許可抗告の申立手続(概要)→却下・不許可
家事審判の即時抗告審の決定に対する不服申立手続として,特別抗告・許可抗告があります。いずれも,申立の書面・理由書の2段階提出方式となっています。理由書の提出期限切れだけで,却下や抗告不許可となってしまいます。
家事審判に関する特別抗告・許可抗告の申立手続(概要)
あ 抗告状・申立書提出
裁判の告知を受けた日から5日内
い 理由書提出
ア 期限
抗告提起通知書または抗告許可申立通知書の送達後14日
イ 期限切れ
特別抗告の却下または抗告不許可決定
詳しくはこちら|家事審判に関する特別抗告と許可抗告(第3審)
9 刑事訴訟の控訴・上告の申立手続→棄却
刑事訴訟では控訴と上告の手続は基本的に同様です。
不服内容を記載する書面は趣意書と呼ばれます。提出期限は条文・規則上特定されていません。個別的に裁判所が指定します。
指定された期限が切れてしまうと,棄却決定となります。それ以降の手続はシャットアウトされるのです。
刑事訴訟の控訴・上告の申立手続
あ 控訴申立書・上告申立書提出
期限=言渡から14日間
※刑事訴訟法373条,374条,414条
い 控訴趣意書・上告趣意書提出
ア 提出期限
個別的に裁判所が決定する
※刑事訴訟法376条1項,刑事訴訟規則236条
イ 期限切れ
棄却決定
※刑事訴訟法386条1項1号,414条
10 少年事件の抗告申立手続→1段階
少年事件は,刑事事件と似ているけどちょっと違います。
少年事件では原則的に判決ではなく審判として判断が下されます。審判に対する不服申立は控訴ではなく抗告です。
民事・刑事訴訟の控訴・上告では常識となっている2段階書面提出システムにはなっていません。民事・刑事同様に,抗告申立書は最小限の記載にとどめ,ゆっくり後日,理由書で詳しい主張を提出する,ということはできないのです。2週間で理由も書面化しないといけないのです。
少年事件の抗告申立手続
あ 抗告申立書提出
審判から2週間
※少年法規則43条2項
い 内容
理由も含める
後日理由書を提出する制度ではない
11 弁護士の過失による期限の経過の救済(否定)
控訴・上告やその他の手続で『期限』のルールはいろいろと設定されています。
代理人弁護士が付いている場合,弁護士のミスと言えるケースも多いです。
依頼者(本人)には落ち度がないので,救済措置があっても良いと思えます。しかし,判例では否定的です。依頼者(本人)は弁護士の選択にミスがあったというので救済しないという結果になっています。当事者としては,依頼する弁護士をしっかりと選ぶことが重要なのです。
弁護士の過失による期限の経過の救済(否定)
→上訴の追完は認められない
※最高裁昭和33年9月30日
12 期限切れにしてしまった弁護士の責任(概要)
実際に,弁護士が思い違いで書面提出期限を過ぎてしまった,という実例はたまに起きています。弁護士自身は,いろんな種類の責任を負うことになります。このことについては別の記事で説明しています。
関連コンテンツ|不慣れな弁護士のミス→賠償責任|控訴・上告の期限切れ編
本記事では,控訴や上告などの不服申立手続の書面の提出期限についてまとめて説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,裁判の不服申立を検討されている,または不服申立手続を進めていて悩みをお持ちの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。