【仮想通貨(ビットコイン)の法的性質についての主要な見解(全体)】

1 仮想通貨の法的性質の主要な見解
2 決済手段の法的性質の議論の実益
3 通貨の要件と仮想通貨の該当性(概要)
4 自由貨幣の要件と仮想通貨の該当性(概要)
5 有価証券と仮想通貨の該当性(概要)
6 仮想通貨の債権としての性格(概要)
7 仮想通貨を情報と位置付ける見解
8 仮想通貨を保有することの権利性(概要)
9 仮想通貨の財産としての扱い(概要)
10 ビットコイン強盗事件での財産上の利益としての扱い(概要)

1 仮想通貨の法的性質の主要な見解

ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)の法的性質についてはいろいろな見解があります。本記事では,仮想通貨の法的性質についての主要な見解を紹介,説明します。

2 決済手段の法的性質の議論の実益

最初に,仮想通貨を含む,決済手段一般についての法的性質の議論の背景や実益に関する指摘をまとめます。

<決済手段の法的性質の議論の実益>

あ 不完全な概念

通貨・貨幣発行法律・日本銀行法において
『通貨』『現金』という用語について統一性が保たれていない
※古市峰子『現金,金銭に関する法的一考察』日本銀行金融研究所『金融研究』14巻4号(1995年12月)p102〜104
外部サイト|日本銀行金融研究所|現金,金銭に関する法的一考察

い 法的性質の特定の実益

決済手段の法的性質そのものの議論について
→大きな実益がないと思われる
むしろ個別的な規定・制度の適用の有無を検討するとよい
※岡田仁志ほか『仮想通貨〜技術・法律・制度〜』東洋経済新報社p122参照

う 法制度と政策

個々の法制度・規制について
→政府の政策的な判断が前提となっている
詳しくはこちら|通貨高権・紙幣類似証券取締法と仮想通貨

逆にいえば,法的性質論は,具体的な法規制や規定と関係しています。
いずれにしても以下,法的性質を軸に説明を続けます。

3 通貨の要件と仮想通貨の該当性(概要)

まず,仮想通貨は『通貨』であるという発想があります。これについてまとめます。

<通貨の要件と仮想通貨の該当性(概要)>

あ 『通貨』の要件(概要)

強制通用力を持つ
=『法貨』という解釈

い 仮想通貨の該当性

仮想通貨は『強制通用力』を持たない
→『通貨』には該当しない
※内閣総理大臣『答弁書』内閣参質186第28号;平成26年3月7日
詳しくはこちら|仮想通貨に関する公的見解(答弁書・中間報告・WG報告)
詳しくはこちら|『通貨・法貨』の強制通用力と仮想通貨の該当性

4 自由貨幣の要件と仮想通貨の該当性(概要)

通常の『通貨』に準じる『自由貨幣』という概念もあります。仮想通貨は自由貨幣に該当するという見解もあります。

<自由貨幣の要件と仮想通貨の該当性(概要)>

あ 『自由貨幣』の概念(概要)

自由貨幣という概念がある
通貨に準じる決済手段という位置付けである

い 仮想通貨の該当性

仮想通貨について
→『自由貨幣』に該当するという見解も多い
詳しくはこちら|『自由貨幣』という概念と仮想通貨

5 有価証券と仮想通貨の該当性(概要)

一般的な決済手段は『有価証券』に該当するものもあります。仮想通貨は有価証券には該当しないでしょう。
ところで,有価証券は,これに関する取引の規制が多くあります。代表的な法規制は金商法です。この点,仮想通貨を原資産とするデリバティブが金商法の規制対象となることは考えられます。

<有価証券と仮想通貨の該当性(概要)>

あ 有価証券の定義(概要)

いろいろな法律で『有価証券』の定義がある
一般的に物理的な『証券』が前提(要件)である

い 仮想通貨の該当性

仮想通貨では物理的な『証券』がない
→該当しない方向性である

う 『金融商品』への該当性

金商法では『有価証券』とは別に『金融商品』という用語がある
仮想通貨を原資産とするデリバティブ取引について
→金融商品に該当する可能性がある
詳しくはこちら|金商法(金融商品取引法)・金融商品販売法と仮想通貨

6 仮想通貨の債権としての性格(概要)

仮想通貨は,銀行預金と似ているところもあります。ここで銀行預金は債権ですが,仮想通貨は債権の性格がありません。

<仮想通貨の債権としての性格(概要)>

あ 基本的事項

仮想通貨には特定の発行者・保管者が存在しない
→『債権』としての性格はない

い 消滅時効との関係

仮想通貨は『債権』の性格がないため
→消滅時効が適用されることもない
預貯金とは異なる特徴である
詳しくはこちら|預貯金(債権)と仮想通貨の比較

7 仮想通貨を情報と位置付ける見解

仮想通貨は一般的に価値のある情報という位置付けとみることができます。

<仮想通貨を情報と位置付ける見解>

あ 契約自由の原則との関係

『情報』の取引も認められる

い 物品の購入の分析

『価値のある情報=仮想通貨』と『商品』の『交換契約』となる
→『売買』の規定が準用される
→法的扱いは『売買』とニアリーイコールとなる
※民法586条

なお,政府の公式見解としても仮想通貨を価値記録としています。
詳しくはこちら|仮想通貨を『価値記録』とする公的見解(答弁書・中間報告・WG報告)

8 仮想通貨を保有することの権利性(概要)

仮想通貨を保有することで権利が認められるかどうか,という問題があります。仮想通貨は有体物ではないので所有権などの物権は否定されます。また,特定の者に対して何らかの請求をすることができるわけではないので債権も否定されます。特別法で知的財産権として定められているわけでもないので,無体財産権も否定されます。結局,権利性を否定する見解が有力となっています。
詳しくはこちら|仮想通貨(暗号資産)を保有することの「権利」性

9 仮想通貨の財産としての扱い(概要)

以上の法的性質とは多少次元が異なりますが,財産としての扱いは認められています。
これは破産手続の中で,ビットコインを財産として破産管財人が扱ったという実例です。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコインと返還請求権の法的扱い
さらに,改正資金決済法では,仮想通貨や,日本円などの金銭との交換を定義し,規制の対象としました。これも,財産としての扱いを公的に認めたといえるでしょう。
詳しくはこちら|仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の基本

10 ビットコイン強盗事件での財産上の利益としての扱い(概要)

仮想通貨の刑事的な法的扱いについては別の解釈論があります。
実際に捜査機関が財産上の利益としては認めていると思われる検挙事例があります。
詳しくはこちら|ビットコイン強盗殺人事件と刑法上のビットコインの扱い

本記事では,仮想通貨の法的性質についてのいろいろな見解を説明しました。
実際には,具体的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,仮想通貨の扱いに関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【仮想通貨(ビットコイン)の特徴と法律問題(全体)】
【仮想通貨自体の差押の分類(日本円/仮想通貨建て債権)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00