【仮想通貨自体の差押の分類(日本円/仮想通貨建て債権)】
1 仮想通貨の差押の分類(日本円/仮想通貨建て)
2 ビットコイン建て請求権→ビットコイン自体の差押|具体例
3 ビットコイン建て請求権→ビットコイン自体の差押|『引渡』請求
4 ビットコイン建て請求権→日本円の差押|具体例
5 ビットコイン建て請求権→日本円の差押|『外国通貨』の規定流用
6 日本円建て請求権→ビットコインの差押(概要)
1 仮想通貨の差押の分類(日本円/仮想通貨建て)
仮想通貨は『差押』ができるかどうか,は非常に大きな影響を持つ解釈論です。
これを考えるにあたって『差押のタイプ』がいくつかあります。
ここをしっかりと分類しないと効率的な考察ができません。
最初に『仮想通貨の差押』をカテゴリ別に分類・整理します。
以下,便宜的に,代表的な仮想通貨であるビットコインを用いて表記します。
<仮想通貨の差押の分類(日本円/仮想通貨建て)>
本来の請求権の内容(何建てか)→ | ビットコイン | レガシー金銭(日本円) |
ビットコイン自体を差押 | 未開 | 未開 |
ビットコイン返還請求権を差押 | 未開 | 理論的に可能性あり |
日本円を差押 | 代償請求として可能性あり | 可能(レガシー) |
元々の請求内容が『ビットコイン建てor日本円』なのかで当然法的扱いは異なります。
また『何を差し押えるのか』によっても結論が違います。
以下,順に説明します。
なお『ビットコイン返還請求権の差押』は,より複雑なので別記事にまとめています。
詳しくはこちら|ビットコイン『返還請求権』の差押|基本|ウォレットを預貯金と同じ方式で差押
2 ビットコイン建て請求権→ビットコイン自体の差押|具体例
<差押の具体例|ビットコイン→ビットコイン>
AがBに『100BTC』で自動車を売った
Bがビットコインを支払わない(送金しない)
Bはビットコインを多量に持っている
Aとしては『Bが持っているビットコイン』を差し押さえたい
3 ビットコイン建て請求権→ビットコイン自体の差押|『引渡』請求
ビットコインの請求権を元にビットコインを払わせる,ということを前提にします。
この点,ビットコインの法的性質は『通貨(金銭)』とはされていません。
詳しくはこちら|仮想通貨(ビットコイン)の法的性質についての主要な見解(全体)
『引渡請求権』の強制執行の方法は全部で3つがあります。
<ビットコインの『引渡』請求>
あ 直接強制→NG
『直接的有形力行使』による『BTC送金手続実行』の現実的・合理的方法がない
※民事執行法168条〜170条
い 代執行→NG
『暗号』を知らない限り『送金操作の代行』ができない
※民法414条2項,3項,民事執行法171条
う 間接強制→可能
理論上オールマイティー
債務者がBTC送金手続をおこ合わない場合
→間接強制金(日本円)の強制執行が可能となる
ただし間接強制金(日本円)は『BTCの評価額』とは違う
※民事執行法172条
詳しくはこちら|強制執行・一般論|直接強制・代替執行・間接強制|間接強制金・金額相場
4 ビットコイン建て請求権→日本円の差押|具体例
<差押の具体例|ビットコイン→日本円>
AがBに『100BTC』で自動車を売った
Bがビットコインを支払わない(送金しない)
Bは日本円で多額の預貯金を持っている
Aとしては『Bが持っている日本円の預貯金』を差し押さえたい
5 ビットコイン建て請求権→日本円の差押|『外国通貨』の規定流用
日本円,つまり通常の銀行の預貯金の差押は一般的な方法として古くから活用されています。
ここでは,ビットコイン建ての請求を元に『日本円(預貯金)』を差し押えることを検討します。
似ている制度として『外国通貨建ての請求権による差押』があります。
これを元にビットコインに応用する方法をまとめます。
<外国通貨建ての請求権→日本円の差押|流用>
あ 結論=可能
次のいずれかの構成により日本円の差押が可能
い 『代用請求権』として
『為替レートでの換算』が認められる場合がある
※民法403条
※淺木愼一『外国通貨債権と民事執行』神戸学院法学p5〜
う 損害賠償請求権・不当利得返還請求権として
『ビットコイン不払い』による『損害』を『日本円』で評価・算定する
訴訟上『代償請求』として用いる手法と同様
《代償請求》
将来,本来の請求が履行不能or執行不能となる場合に備えて金銭の請求をする手法
※民法415条,703条,417条
『財産的な取引』が存在する以上は2つの方式のいずれかによって『日本円の差押』は可能となるはずです。
6 日本円建て請求権→ビットコインの差押(概要)
日本円建ての請求権をもとにして,債務者の持つビットコインを差し押さえるタイプがあります。
これはごく通常の『金銭債権による債務者の財産の差押』というカテゴリになります。もともと現行法で,債務者のいろいろな財産が差押の対象となっています。
その1つとして仮想通貨を含めて扱うことができるか,という解釈の問題です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|現行法の差押・破産・再生での仮想通貨の扱い(差押ヘイブン)