【ドローンの弊害・悪用vs物理的防衛・警備|撃ち落とし×正当防衛】

1 法規制以外の『弊害・悪用』への対応|物理的防衛・警備
2 ドローン×防衛テクノロジー・拡がるマーケット
3 過去に生じたラジコンヘリの悪用リスク|実は政府が対応に悩んだ歴史がある
4 ドローンの悪用→防衛のため撃ち落とし→『損壊』|法的責任
5 ドローンの悪用→防衛|民事・刑事ともに『正当防衛』がある
6 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|窓から盗撮ケース
7 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|住宅上空から盗撮ケース
8 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|要所警備ケース

1 法規制以外の『弊害・悪用』への対応|物理的防衛・警備

ドローンの悪用・事故が生じると『法規制』と安直に考えがちです。
しかし『悪用・事故の被害防止』のための手段は『法規制』だけではありません。
首相官邸のような要所や,一般の住居の警備として想定される方法をまとめます。

<ドローン×警備|物理的対応|感知>

感知タイプ 概要
音系(音紋) プロペラの音を感知するテクノロジー;ALSOCが実用化
熱系 モーターの熱を感知するテクノロジー
視界(画像)系 キャメラ撮影の画像→分析するテクノロジー

<ドローン×警備|物理的対応|攻撃>

電波系(後述) 現在ではGPS受信を妨害する手法が主流
レーザー系 高出力レーザー照射→機能停止に陥らす
ミラーナイト方式 防衛用ドローンがネットを持って敵機をくるむなど
棒系 古典的な方法;クレーンなどの大規模化テクノロジー併用も可
網系;ネット発射機 古典的手法;海上の不審ボードでの実績あり
水系;水圧銃・インパルス銃 古典的手法;あさま山荘事件などの実績あり
風系;空気砲 ドローンは特定の角度の風に煽られると容易に制御不能となる
火系;火炎放射 太平洋戦争で実用実績あり
氷系 RPGの魔法でお馴染み→現代テクノロジーで実用化
動物系 鷹師が鷹でドローンを捕獲する;フランス空軍の例

※読売新聞平成27年5月23日参照

このように防衛自体がテクノロジー活用の場面・マーケットと言えます。
防衛テクノロジーはさらなる発展が期待されます。

2 ドローン×防衛テクノロジー・拡がるマーケット

『物理的防衛』が必要な場所は非常に多いと思われます。
ドローンの普及と平行的に『防衛テクノロジー・ガジェット』の発展・普及も想定されます。

<防衛に関するリスク=防衛テクノロジーの需要>

あ GPS受信妨害方法の不都合|例

敵機が予測できない方向に飛行する
バッテリー切れ・障害物との接触→落下が生じる

い 必要なテクノロジー

衝撃がなく敵機を着地させる
→『不時着』テクノロジー

3 過去に生じたラジコンヘリの悪用リスク|実は政府が対応に悩んだ歴史がある

ラジコンヘリの悪用への物理的な対応を国家機関が検討した事件がありました。
過去の実例・歴史として今後の対策を考える上で貴重な資源です。

<古くから存在する『小型ヘリの悪用』>

あ 過去に実際に生じた悪用リスク

オウム真理教がラジコンヘリを2機入手した
→ガス噴霧などへの利用が想定された

い 警察が実施した対応・準備・検討

ア 電波攻撃 操縦に使う電波と同周波数の電波を発射
→操縦不能に陥れるオペレーション
イ コブラ(リアルヘリ)投入 リアルサイズ攻撃ヘリコプターAH-1Sコブラの投入

う 実際の結末

AUMが操縦訓練に失敗→墜落→損壊
※麻生幾『極秘捜査―政府・警察・自衛隊の対オウム事件ファイル』文春文庫

結果的に危険が具体化することはありませんでした。
しかし,警察は,大きな危機感を持ち,緊張して検討・苦慮していたようです。

4 ドローンの悪用→防衛のため撃ち落とし→『損壊』|法的責任

『悪』に対する『防衛=正』という構図でも『法的責任』に配慮すべきです。
『防衛行為』も犯罪や民事的責任につながるのです。

<防衛行為が形式的には法的責任を生じる>

あ 具体例

ア ドローンの侵入 ドローンが私有地に入ってきた
イ 居住者の防衛 居住者がレーザー・棒などを用いて『墜落させた』
→ドローンが損壊した

い 形式的に該当する法的責任|刑事
罪名 法定刑 刑法
器物損壊罪 懲役3年以下or罰金30万円以下 261条
威力業務妨害罪(※1) 懲役3年以下or罰金50万円以下 234条
う 威力業務妨害罪の前提(前記※1

ドローン飛行が『業務』に該当する場合
例;アマゾン・プライム・エアで配送中であった場合

え 形式的に該当する法的責任|民事

不法行為による損害賠償責任
※民法709条

5 ドローンの悪用→防衛|民事・刑事ともに『正当防衛』がある

『適切な防衛』については,もちろん『正当防衛』として適法となります。
詳しく言うと,刑法上・民法上の責任のいずれについても『正当防衛』の制度があります。
概要をまとめます。

<刑法・民法上の正当防衛|概要>

あ 要件|概要

違法・不法な加害行為
『法益を防衛する』目的で防衛した
『防衛した法益』と『防衛行為による結果(損害)』の均衡が概ね合理的である
他に効果的・合理的な防衛手段がない

い 効果

ア 刑法上の正当防衛 違法性が阻却される→犯罪が成立しない
イ 民法上の正当防衛 不法行為が成立しない→損害賠償責任が生じない

詳しくはこちら|刑法上の正当防衛|必要性・相当性|過剰防衛=任意的減免
詳しくはこちら|民法上の正当防衛|加害行為の違法性の要否|必要性・相当性|防衛の意思

次に,具体的に『正当防衛』として適法となるかどうかを説明します。

6 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|窓から盗撮ケース

上記の『正当防衛の基準』を元に,いくつかの具体例について結論を導いてみます。

<ドローン撃ち落とし×正当防衛|窓から盗撮タイプ>

ドローンを使った権利侵害の態様 窓から撮影
侵害される法益 プライバシー
他の防衛手段 カーテンを閉める
ドローン損壊→正当防衛該当性 否定(有罪)方向

7 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|住宅上空から盗撮ケース

既に諸外国も含めて『セレブの豪邸を上空からパパラッチ』というケースが生じています。

<ドローン撃ち落とし×正当防衛|戸建て住宅上空から盗撮タイプ>

ドローンを使った権利侵害の態様 戸建て住宅の庭など全体を移動しつつ撮影
侵害される法益 プライバシー
他の防衛手段 『敷地全体を覆う』ことは非現実的
ドローン損壊→正当防衛該当性 肯定(無罪)方向

8 ドローンによる侵害×正当防衛|刑法・民法共通|要所警備ケース

公的な重要拠点の警備として『ドローンを撃ち落とす』発想もあります。

<ドローン撃ち落とし×正当防衛|官邸・皇居などの要所警備タイプ>

ドローンを使った権利侵害の態様 官邸・皇居などの要所の飛行
侵害される法益 テロ・機密情報取得などの一般的なリスクが大きい
他の防衛手段 『敷地全体を覆う』ことは非現実的
ドローン損壊→正当防衛該当性 肯定(無罪)方向

なお,立法により,一定条件下での『防衛的損壊』を適法化する手法もあり得ます。

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