【仮想通貨を『価値記録』とする公的見解(答弁書・中間報告・WG報告)】

1 仮想通貨を『価値記録』とする公的見解
2 ビットコインの法的性質に関する政府見解(平成26年答弁書)の要点
3 平成26年3月内閣総理大臣「答弁書」の法的性質部分の引用
4 ビットコインの法的性質|平成26年6月|自民党『中間報告』
5 ビットコインの法的性質|中間報告|適用されない法規制
6 ビットコインの法的性質|中間報告|安全性確保
7 ビットコインの法的性質|中間報告|課税=消費税・キャピタルゲイン
8 ビットコイン×政府見解|背景=『待ったなしのテクノロジー育成』
9 決済高度化WG報告の情報ソース
10 決済高度化WG報告の抜粋(供託・信託)
11 資金決済法の改正(概要)

1 仮想通貨を『価値記録』とする公的見解

仮想通貨(暗号資産)の法的性質については,法律上明確に定めたものはなく,議論が交わされており,統一的な公的見解はまだない状況です。本記事では,代表的な仮想通貨であるビットコインを前提として,示されている公的見解を整理,紹介します。

2 ビットコインの法的性質に関する政府見解(平成26年答弁書)の要点

政府は,平成26年3月に,「答弁書」としてビットコインの法的性質や法律上の扱いについて公表しました。まずはこの「答弁書」の要点をまとめます。

<ビットコインの法的性質に関する政府見解(平成26年答弁書)の要点>

あ 『通貨』→該当しない

ビットコインは『通貨・法貨』に該当しない
※通貨・貨幣発行法7条,日本銀行法46条2項,民法402条

い 『外国通貨』→該当しない

ビットコインには強制通用力がない
→『外国通貨』に該当しない
※外為法6条1項

う 『有価証券』→該当しない

ア 「権利」性→否定 ビットコインは通貨でも権利を表象するものでもない
→金商法の「有価証券(取引)」に該当しない
※金商法2条1項,2項

え その他の資産に対する投資→該当可能性あり

ビットコインへの投資について
『有価証券又はデリバティブ取引に係る権利以外の資産に対する投資』
→該当する可能性がある(趣旨)
※金商法35条2項6号,7号,金融商品取引業等に関する内閣府令68条19号

お 結論の要約

ア 銀行は扱えないイ 流通・使用自体を禁止しない 通貨高権に抵触しない
※内閣総理大臣『答弁書』内閣参質186第28号;平成26年3月7日

3 平成26年3月内閣総理大臣「答弁書」の法的性質部分の引用

前述の「答弁書」の内容は多いですが,その中でビットコインの法的性質や法的扱いを示す中心となっている箇所を引用しておきます。権利を否定しているところが重要です。

<平成26年3月内閣総理大臣「答弁書」の法的性質部分の引用>

三について
我が国において通貨とは、貨幣については通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(昭和六十二年法律第四十二号)第七条で額面価格の二十倍まで、日本銀行券については日本銀行法(平成九年法律第八十九号)第四十六条第二項で無制限に、それぞれ法貨として通用するものとされているところであり、ビットコインは通貨に該当しない。
民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二条第一項及び第二項における「通貨」とは、強制通用の効力(以下「強制通用力」という。)を有する貨幣及び日本銀行券であって、これを用いた金銭債務の弁済が当然に有効となるものをいうと解されており、強制通用力が法律上担保されていないビットコインは、当該「通貨」には該当しない。
また、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第六条第一項における「通貨」とは、強制通用力のある銀行券、政府紙幣又は硬貨と解されており、ビットコインは、これらのいずれにも該当しないため、日本円を単位とする通貨と規定する「本邦通貨」、本邦通貨以外の通貨と規定する「外国通貨」のいずれにも該当しない。
さらに、その他の法律においても、ビットコインを通貨の定義に含めている規定は存在しない。
また、ビットコインは通貨ではなくそれ自体が権利を表象するものでもないため、ビットコイン自体の取引は、通貨たる金銭の存在を前提としている銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第二項に規定する銀行業として行う行為や、有価証券その他の収益の配当等を受ける権利を対象としている金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項又は第二項に規定する有価証券等の取引には該当しない。
その他の法律においても、ビットコインを明確に位置付けているものは存在しないと承知している。
※内閣総理大臣『答弁書』内閣参質186第28号;平成26年3月7日
外部サイト|参議院|『答弁書』内閣参質186第28号

4 ビットコインの法的性質|平成26年6月|自民党『中間報告』

平成26年6月に,自民党が関係省庁の見解を取りまとめて『中間報告』を作成しました。

<『価値記録』への対応に関する『中間報告』>

あ タイトル・作成者・日付

ビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する『中間報告』
自民党IT戦略特命委員会 委員長 平井たくや
同 資金決算小委員会 小委員長 福田峰之
平成26年6月19日

い 仮想通貨・暗号通貨の定義

これまで『仮想通貨・暗号通貨』と呼ばれていたものを『価値記録』とする
『電子マネー(資金決済法上の前払式支払手段)』に該当するものを除く

う 『価値記録』の語義

『価値記録』の意味=価値を持つ電磁的記録

え 『価値記録』の位置付け・定義

『通貨』『物』のいずれにも該当しない
新たな分類に属するものと位置付ける
※平成26年6月自民党『中間報告』

5 ビットコインの法的性質|中間報告|適用されない法規制

中間報告ではビットコインの法的性質について,より詳しい見解がまとめられています。
『金銭』に対する法規制の大部分の適用を受けないことが明記されています。

<中間報告|『価値記録』に適用されない法規制>

あ 基本的事項

『価値記録』は次の『い〜お』に該当しない

い 出資法

預り金規制は適用されない

う 銀行法

為替取引には該当しない

え 資金決済法
お 犯罪収益移転防止法

※平成26年6月自民党『中間報告』

か 補足説明

資金決済法・犯罪収益移転防止法(『え・お』について)
この『中間報告』の後に,法改正がなされた
→仮想通貨交換業が規制対象として規定された
詳しくはこちら|仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の基本

法規制を適用しない,という判断の要因は『普及促進』です。

6 ビットコインの法的性質|中間報告|安全性確保

ビットコインの普及促進の一方で『安全性確保』も必須となります。
これについても中間報告ではまとめられています。

<中間報告|『価値記録』利用への安全性確保>

あ 『価値記録』に関する業界団体設立

『価値記録協会(仮称)』
→事後的にJADAが成立された
行政庁が相談・助言を行う
例;経済産業省・金融庁・消費者庁・警察庁・国税庁など

い 交換所ガイドライン策定

ア 届出制 対象事業者=『交換所』
イ 本人確認 交換所が利用者口座を開設する時
ウ 情報開示 犯罪捜査などにおける法令に基づいた開示要請に応じる
エ セキュリティ 交換所のシステム・セキュリティランクについてP2Pネットワーク内で評価を行う
※平成26年6月自民党『中間報告』

7 ビットコインの法的性質|中間報告|課税=消費税・キャピタルゲイン

ビットコインの『課税』についても見解が整理されています。

<中間報告|『価値記録』に対する課税方針>

あ 消費税

次の『交換』は消費行為に該当する
→消費税の課税対象である
ア 通貨と『価値記録』イ 『価値記録』と物・サービスウ 『価値記録』と別の『価値記録』

い キャピタルゲイン課税

『価値記録』によるキャピタルゲインは課税対象とする
交換所のモニタリングのためのシステム投資は求めない
※平成26年6月自民党『中間報告』

8 ビットコイン×政府見解|背景=『待ったなしのテクノロジー育成』

ビットコインについての政府見解の背景には『新テクノロジー育成・普及』という意向があります。
長期的・将来的な国家としての経済状態を考えるとマストと言える方向性と考えられるのです。
詳しくはこちら|ビットコイン→政府の『普及促進スタンス』|自民党福田氏コメント

9 決済高度化WG報告の情報ソース

金融庁が関与する団体でも仮想通貨についての理論的な検討がなされています。ワーキンググループの報告について紹介します。まずは作成者などの情報とソースをまとめます。

<決済高度化WG報告の情報ソース>

あ タイトル・作成者・日付

金融審議会
決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ
報告~決済高度化に向けた戦略的取組み~
平成27年12月22日

い 情報ソース

外部サイト|金融庁|報告~決済高度化に向けた戦略的取組み~

10 決済高度化WG報告の抜粋(供託・信託)

前記の報告の中の,分別管理の項目で,供託や信託ができないという見解が示されています。

<決済高度化WG報告の抜粋(供託・信託)>

(3)利用者保護のための規制のあり方
(ロ)分別管理
利用者が交換所に預託した金銭・仮想通貨の分別管理の方法に関して、分別管 理に係る我が国の金融法制では、①供託の方法で保全するもの、②信託の方法で 保全するもの、③自己の資産と顧客資産を明確に区分し、直ちに判別できる状態で管理するものに大別される。
仮想通貨については、現時点では、私法上の位置付けも明確でないため、供託・信託を行うことができないとの制約がある。また、そうした中で、金銭についてのみ供託・信託を行うこととしても、どこまで利用者保護の実効性があるか疑問であるとの指摘、あるいは、現実に、交換所が金銭の信託等を行うことが可能かとの指摘もある。
これらを勘案すると、少なくとも現時点では、顧客資産との区分管理を基本と し、現に国内の交換所において顧客資産が消失した事例が発生していることも踏まえ、区分管理の状況について、公認会計士又は監査法人による外部監査を義務付けることが適当と考えられる。
※報告書p29

11 資金決済法の改正(概要)

平成28年に資金決済法が改正され,仮想通貨交換業者の規制がつくられました。平成29年4月に施行される予定となっています。
この改正法の中で仮想通貨の定義などが示されました。正式な公的な定義といえます。
これについては別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の基本

本記事では,仮想通貨の法的性質や法的扱いについての公的見解を説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に仮想通貨に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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