【送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)】
1 送達の意味
民事訴訟において裁判所が当事者に正式に通知をする手段を送達と言います。
代表的な例は、訴状や呼出状を被告に送付する時の特別送達です。
具体的には書留郵便に似ています。
宛名となっている者(被告等)が受領印を押して受領しないと送達されたことになりません(民事訴訟法101条)。
ここで、送達未了だと、裁判がスタートしません。
いわゆる訴訟係属は訴状の送達時、とされているのです。
最初に、送達の種類と、行なわれる状況についてまとめます。
個々の送達の内容は後述します。
2 送達の種類のまとめ
送達にはいくつかの種類があります。大まかに分類します。
送達の種類のまとめ
あ 住所や居所、勤務先が判明している場合
・住所や居所への送達;通常送達
↓送達不能の場合
・就業場所への送達
↓送達不能の場合
・付郵便送達
い 住所や居所、勤務先が不明という場合
・公示送達
3 通常送達
通常送達とは文字どおり原則的な送達です。
相手方の居場所が分かっている、原則的な方法です。
通常送達
ア 住所イ 居所ウ 営業所エ 事務所 ※民事訴訟法103条1項
住所・居所・営業所の意味については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)
詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)
詳しくはこちら|会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)
4 就業先送達
送達場所は、原則として住所や居所です(民事訴訟法103条1項;通常送達)。
要は、相手が個人であれば、プライベートマターはプライベート領域で行う、ということです。
勤務先は、本来プライベートの領域ではないですし、裁判所からの送付物があることはプライバシーの観点から好ましいものではないでしょう。
しかし、やむを得ない、という場合は別です。
就業場所送達として勤務先への送達が認められることがあります(民事訴訟法103条2項)。
就業場所送達を行うケースの例
・住所や居所が不明であるが、勤務先だけは判明している
5 補充送達
例えば自宅への送達(通常送達)で、自宅には受領すべき者(当事者本人)がいなくて、同居人が受領することもありえます。このような場合も原則的に送達として有効です。
補充送達
あ 規定(条文引用)
就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
※民事訴訟法106条1項
い 要点
同居人が受領した時についても送達として有効となる
就業場所送達には適用がない
6 付郵便送達(書留送達)
(1)送達を受領しないと無敵になってしまう
一般的な送達ができないという場合の方法として公示送達もあります(後記)。
しかし、公示送達は、あくまでも『住所や居所が不明』、という場合のみに行なわれます。
そこで、単に訴状などが裁判所から送付されても『受領しない』という場合は、公示送達は利用できません。
一方、送達が完了しない→訴訟が係属しない→相手は敗訴しない=無敵状態、となります。
ここで、この問題については、救済措置があります。
(2)付郵便送達は受け取らなくても受け取ったことになる
付郵便送達は、書留送達と呼ぶこともあります。
相手方の住所や居所への、通常送達ができない場合に利用できます(民事訴訟法107条)。
付郵便送達の場合、実際には書留郵便で訴状副本や呼出状が送付されます。
当然、通常送達でも受領しない者であれば、書留郵便でも受領しないはずです。
しかし、この付郵便送達では、相手が受け取っても受け取らなくても送達済として扱われます(民事訴訟法107条3項)。
これで、一方的に訴訟等の手続きは進められることになります。
7 公示送達
(1)相手が行方不明の場合の送達の不都合
取引先や金銭を貸与した先が、夜逃げをしたような場合、残された財産を速やかに押さえるべきです。
差押の前提として、訴訟を提起し、判決を取ることが原則として必要です。
ここで、相手方(被告)の所在がどうしても掴めない、という場合にも、訴訟、差押などの手続きは進める必要があります。
この部分で通常の送達ができないという問題が生じます。
(2)公示送達の利用
しかし、相手が行方不明になっただけで提訴など、裁判が利用できないとなると、裁判所の機能として不十分です。
そこで、民事訴訟法上、救済措置のルールが設けられています。
それが公示送達です。
(3)公示送達の内容
公示送達を行う方法は、裁判所の前の掲示板などに、訴状その他の送付物を掲示するというものです。
これにより、送達したことになるのです(民事訴訟法110条)。
(4)公示送達の要件と調査(概要)
公示送達が適用されるためには、実際に居場所が分からないということを証明する必要があります。
実務では一般的に、以前の住所地は不在である、などの『調査報告書』を作って裁判所に提出します。
公示送達が使える状況と調査の方法については、別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|民事訴訟における公示送達の要件(公示送達を使える状況)
8 刑事施設に収容されている者に対する送達(概要)
被送達者が刑事施設に収容されている場合には、未決であっても既決であっても、刑事施設の長に対して送達をすることになります。
詳しくはこちら|刑事施設に収容されている者に対する送達(民事訴訟法102条3項)
9 日本国外への送達(概要)
送達する場所が日本国外(外国)というケースもあります。この場合には、外国の政府(機関)の協力を得て送達をすることになります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民事訴訟・保全手続における日本国外への送達(方法・所要期間)
10 問題のある送達の有効性(概要)
以上のように、状況によって送達の方法(種類)は違います。
ところで、送達を実施したけれども、後から不正や不備があったという問題が発覚することもあります。このようなケースでは送達が無効となることもあります。
送達の有効性の問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|利害関係者・敵対当事者が受領した送達の有効性(再審・追認など)
本記事では民事訴訟の送達の基本的事項を説明しました。
実際には、具体的な状況によってどのような送達ができるのか、適しているかということは違ってきます。
実際に送達に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。