【発信者情報開示請求|具体的手続|開示・消去禁止×仮処分・本訴】
1 インターネッツ上の『違法行為』×発信者情報開示請求
2 第1段階|コンテンツプロバイダへの『開示』仮処分
3 通信記録×保管期間|相場|記録を消去されることが多い
4 第2段階|接続プロバイダへの『消去禁止』仮処分
5 消去禁止仮処分|和解で終わる例
6 第3段階|接続プロバイダへの『開示』本訴
7 第4段階|『開示された契約者』に賠償請求or発信者特定要求
8 『プロバイダ契約者』から先が特定しにくい問題
9 発信者情報開示請求×裁判所の管轄・弁護士費用
1 インターネッツ上の『違法行為』×発信者情報開示請求
インターネッツ上の『違法な投稿』には法的責任が生じます。
被害者としては法的な対応を取ることができます。
法的な対応・手続の全体的な事項は別記事にまとめてあります。
(別記事『誹謗中傷・対応まとめ』;リンクは末尾に表示)
法的対応のうち,初期段階では『発信者情報開示請求』が重要なものです。
本記事では『発信者情報開示請求』の手続について詳しく説明します。
2 第1段階|コンテンツプロバイダへの『開示』仮処分
まずは『投稿』のある場所=投稿のゴール=コンテンツプロバイダ,からアプローチを始めます。
そして,最終的には『加害者の特定情報を持っている接続プロバイダ』へ到達するという『逆走』するわけです。
この『逆走』プロセスは3〜4段階に分かれます。
ちょっと複雑です。
順に説明します。
まずは『投稿』のある場所=投稿のゴール=コンテンツプロバイダ,から逆走を始めます。
<第1段階|発信者情報開示仮処分命令申立>
あ 相手
コンテンツプロバイダ
い 主な開示対象情報
ア 加害者のIPアドレス(接続プロバイダ)イ 加害者のユーザーIDウ 携帯端末の識別番号エ SIMカード識別番号オ 投稿のタイムスタンプ ※プロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報を定める省令
う 被保全権利
発信者情報開示請求権
※プロバイダ責任制限法4条
<仮処分決定後の手続の流れ>
仮処分決定
↓
保全執行の申立
↓
開示の実行(情報獲得)
3 通信記録×保管期間|相場|記録を消去されることが多い
プロバイダは通信記録を持っています。
しかし,この通信記録自体が比較的早く消去されてしまいます。
<通信記録×保管期間|相場>
あ 一般的・平均的な情報保管期間
事業者 | 保管期間・目安 |
プロバイダー | 6か月程度 |
通信キャリアー | 1~2か月程度 |
い 注意
公的なルールはない
各社が独自のルールにより運用している
実際にはこれとは異なる場合もある
当然『消去された後』には開示請求をしても意味がなくなります。
『消去されること』を防ぐ必要があるのです。
4 第2段階|接続プロバイダへの『消去禁止』仮処分
第1段階によって,『加害者のIPアドレス(接続プロバイダ)が獲得できます。
そこで次に,『接続プロバイダ』まで逆走を進めます。
ストレートに『接続プロバイダ』に『加害者の特定情報開示』を求めたいところです。
この点,『開示請求の仮処分』であればスピーディーですが,『緊急性』が否定される可能性が高いです。
そのため,『開示請求の訴訟(本訴)』が必要となります。
一方,本訴は一定の時間を要します。
判決に至った時点では『過去の接続情報(ログ)が既に削除済だった』となるでしょう。
そこで,『開示』ではなく『消去禁止』の仮処分を行ないます。
<第2段階|発信者情報の消去禁止仮処分命令申立>
あ 相手
接続プロバイダ
い 消去禁止対象情報
・IPアドレス
・接続のタイムスタンプ
う 被保全権利
発信者情報開示請求
※プロバイダ責任制限法4条
実務上では,決定に至る前に『和解』で終了することも多いです。
5 消去禁止仮処分|和解で終わる例
消去禁止仮処分が和解で終わるとスピーディーに『消去回避』が実現します。
<消去禁止仮処分が和解で終わる例>
あ 裁判所から接続プロバイダに任意の要請
消去をしない,という要請です。
い 和解
接続プロバイダが(消去せずに保管しておくことに)応じる,という内容です。
う 仮処分決定と同様の結果
事実上『消去回避』が実現
6 第3段階|接続プロバイダへの『開示』本訴
逆走の最後です。
『接続プロバイダ』に『加害者の特定できる情報』の開示を請求する訴訟です。
<第3段階|発信者情報開示請求訴訟>
あ 相手
接続プロバイダ
い 開示請求の対象情報
発信者(プロバイダ契約者)の次の情報
ア 氏名・名称イ 住所ウ 電子メールアドレス
※プロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報を定める省令
<参考情報>
・LIBRA13年9月p2〜
・民事保全の実務 第3版 東京地裁保全研究会編著 上巻p336〜
・発信者情報の開示を求める仮処分の可否 鬼沢友直ほか p4〜
外部サイト|発信者情報開示関係ガイドライン|プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会
7 第4段階|『開示された契約者』に賠償請求or発信者特定要求
この時点で『プロバイダ契約の契約者』が特定できています。
この『契約者』が加害者=投稿者,という可能性が高いです。
しかし『契約者』≒『発信者』という場合もあります。
典型例は,『発信者』=『契約者の家族や職場の人間』ということです。
いずれにしても,『契約者』に損害賠償の請求や『発信者の特定』についての要請を行ないます。
8 『プロバイダ契約者』から先が特定しにくい問題
『プロバイダ契約者』の特定まで進んでも,その先に進まない,ということがあります。
<『プロバイダ契約者』の先が特定しにくい典型例>
あ 公衆無線LAN(接続提供サービス)
い 漫画喫茶などのネット接続提供サービス
公衆無線LAN・漫画喫茶の場合,通常,ルータを設置した店舗・運営者が『プロバイダ契約者』となっています。
実際の発信者は『接続を借りた人』です。
『契約者』としての立場ではないのです。
なお,無線LAN設置店舗によっては,接続の際『身分証明書』の情報を求めることが増えています。
この場合,店舗サイドの記録・情報(MACアドレス)により,特定の投稿をした顧客が特定できることもあります。
ただ一般的にハードルは非常に高いです。
9 発信者情報開示請求×裁判所の管轄・弁護士費用
発信者情報開示請求を行う場合には付随的な問題もあります。
利用する裁判所の管轄や弁護士費用の負担です。
インターネッツの特性に基づく特殊な事情があります。
手続の所要時間についても数か月単位になるのが通常です。
これらについては別記事で説明しています。
(別記事『付随的問題』;リンクは末尾に表示)