【特殊景品と3店方式の法的問題(実質的には金銭提供)と耳栓判決】
1 遊技の賞品×金銭|法的問題の所在
2 3店方式+特殊景品|内容・仕組み
3 3店方式+特殊景品|法的問題の所在
4 特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|概要
5 特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|内容
6 3店方式に関する内閣見解(平成26年参議院)
7 3店方式に関する内閣見解(平成28年衆議院)
8 特殊景品・3店方式の違法性により組合の成立を否定した裁判例(概要)
1 遊技の賞品×金銭|法的問題の所在
本記事では,一般的なパチンコ・パチスロにおける『特殊景品・3店方式』について説明します。
この問題の大前提・基礎となる法的問題を確認しておきます。
<遊技の賞品の換金の法的問題の所在(※1)>
あ 前提事情
パチンコなどの遊技の賞品が『金銭』である
→次のような法的問題が生じる
い 風俗営業法違反
パチンコなどの7号営業は『金銭』の賞品が禁止されている
詳しくはこちら|風営法の規制|賞品系遊技=7号・8号営業
う 賭博罪
『金銭を賭ける』場合
→『一時娯楽物』には該当しない
→原則として賭博罪が成立する
詳しくはこちら|賭博罪の適用除外となる『一時娯楽物』の判断基準・具体例・判例
このように,賞品が『金銭』である場合,2種類の法律に違反するのです。
この理論は非常に重要です。
これを踏まえて特殊景品・3店方式の問題点を説明してゆきます。
2 3店方式+特殊景品|内容・仕組み
まずは『3店方式・特殊景品』とはどのようなものか,についてまとめます。
<3店方式+特殊景品|内容・仕組み>
あ 3店方式|仕組み
『パチンコ店』は『景品交換所』で交換可能な『特殊景品』を用意する
顧客は球・メダルを『特殊景品』に交換する
顧客は『特殊景品』を『景品交換所』に持って行く
景品交換所は一定の金額で『特殊景品』を買い取る
最終的に『換金=現金の入手』が実現する
い 特殊景品
景品そのものの価値は低い
しかし景品交換所では一定の金額で換金(交換)できる
実質的には『金銭引換用のしるし・トークン』と言える
例;メダル・耳栓・ゴルフのティー
う 『3店』とは
ア パチンコ・パチスロ店舗イ 景品交換所ウ 景品問屋
3 3店方式+特殊景品|法的問題の所在
3店方式・特殊景品は法的な問題が含まれます。
問題の所在をハッキリさせておきます。
<3店方式+特殊景品|法的問題の所在>
あ 実質的な動き
次の3つの店舗全体で『賞品の換金』が実現する
実質的に『遊技の結果に応じて』『賞品として』現金が提供される
い 実質的解釈論
特殊景品は実質的に『金銭』と同等である
そこで次の問題が生じる(前記※1)
ア 風俗営業法違反イ 賭博罪成立
う 形式的解釈論
ア 風俗営業法
特殊景品そのものは『金銭・有価証券』ではない
→風俗営業法の『禁止行為』に違反していない
イ 賭博罪
特殊景品そのもの価値は『安価』である
→『一時娯楽物』の範囲内にとどまる
→賭博罪は成立しない
このように『金銭の提供』をどのように捉えるか,によって,適法/違法の判断結果が違ってくるのです。
これについて判断を示した判例を紹介します。
4 特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|概要
特殊景品・3店方式についての『賭博罪の成立』を正面から判断した判例があります。
『耳栓判決』と呼びましょう。
まずは前提となる事案の内容・結論の概要を整理します。
<特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|概要>
あ 事案
賞品の中に『耳栓』があった
客の多数は景品取引所で買い取ってもらっていた
全体を見ると『金銭を得る』状態であった
→賭博罪が成立するという見解があった
い 裁判所の判断|概要
ア 『特殊景品』としての扱いを否定したイ 賞品の価値は市場における耳栓販売価格を基準にするウ 結論としては賭博罪は成立しない ※判例内容は後記
結論としては『賭博罪は成立しない』という結論となりました。
この理由の詳しい内容について,次に説明します。
5 特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|内容
耳栓判決の考え方・理由の詳しい内容を整理します。
<特殊景品|現実を聞こうとしない耳栓判決|内容>
あ 『特殊景品』としての扱いを否定
交換後に第三者(景品交換所)に買い取ってもらうことを前提にしていた
『賞品の価格の判断』に当たっては,このような取引実態を考慮すべきかどうか
このような取引実態があるとしても,法解釈上は『特殊景品』という概念により,他の賞品とは異なった取扱いをすることは認めない
実際的にも,本件賞品の耳栓を客が本来の用途に利用することは何ら差し支えがない
※名古屋高裁平成13年5月29日
い 価値の基準=市場での耳栓の販売価格
賞品である耳栓はもともと一般用に販売されていたものである
特殊な包装が施されてパチンコ屋における交換景品としての性格を有するに至ったに過ぎない
特殊な包装が加えられたからといって,本件賞品にかかる耳栓が一般販売用の耳栓であるとの性格が失われるわけではない
したがって,本件賞品にかかる耳栓の価格は,市場における販売価格を基準に判断すべきである
※名古屋高裁平成13年5月29日
う 『客の判断』の介在を誇張
客が賞品を景品交換所に買い取ってもらうかどうかは,賞品を受領した後に,客の自由な判断によって行われる
実際に本件賞品を受け取った客の大部分が景品交換所に買い取ってもらっているとしても,
そのような事態を法や施行規則が前提としているわけではない
※名古屋地裁平成12年8月9日
要するに実質的な動きはスルーする=見逃す=考えない,というものです。
ブラックな事情を聞こうとしない,という意味で『耳栓判決』と呼ばれています。
また,ソープランドと並ぶ『黙認グレー』と呼ばれることもあります。
関連コンテンツ|グレーゾーンはベンチャーの聖域|濃いグレー・薄いグレー|大企業バリアー
6 3店方式に関する内閣見解(平成26年参議院)
3店方式については,裁判所だけではなく内閣でも検討されています。平成26年の参議院での答弁書に登場しています。
『3店方式』を知らないような口調で始まっています。本質的な回答内容は,パチンコ店営業者自身が賞品を買い取ることは風営法違反と賭博罪成立の可能性があるというものです。一般論として当然の前提となる理論だけです(上記※1)。
<3店方式に関する内閣見解(平成26年参議院)>
御指摘の『三店方式』の意味するところが必ずしも明らかでないが、ぱちんこ屋等の営業者が、その営業に関し、現金若しくは有価証券を賞品として提供し、又は客に提供した賞品を買い取った場合には、これらの行為を禁止した風営法第二十三条第一項第一号又は第二号違反となるほか、刑法(明治四十年法律第四十五号)の賭博罪等が成立する場合もあり得ると考えられる。
※平成26年11月4日『答弁書45号』内閣総理大臣安倍晋三
外部サイト|参議院|質問主意書|答弁書45号
7 3店方式に関する内閣見解(平成28年衆議院)
上記の内閣のコメントの約2年後にも似たような質問への回答がなされています。今度は3店方式は『知っているよ』というようなコメントとなっています。
<3店方式に関する内閣見解(平成28年衆議院)>
あ 質問(引用)
六 ぱちんこ屋で景品を得た後、その景品を金銭に交換している現実を政府として把握しているか。
い 答弁書(引用)
六について
客がぱちんこ屋の営業者からその営業に関し賞品の提供を受けた後、ぱちんこ屋の営業者以外の第三者に当該賞品を売却することもあると承知している。
※平成28年11月18日『答弁書』内閣総理大臣安倍晋三
外部サイト|衆議院議員緒方林太郎・ブログ
なお,この答弁書の中には,風営法の許可と賭博罪との理論的な関係の見解も含まれています。これは別テーマなので,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|賭博罪と風営法許可の関係(7・8号営業・公営ギャンブルとの比較)
8 特殊景品・3店方式の違法性により組合の成立を否定した裁判例(概要)
以上の説明は,特殊景品や3店方式が風俗営業法違反や賭博罪に該当する可能性についてのものでした。
これとは別に,共同出資をして特殊景品買取サービスを運営したケースについて,その違法性から民法上の組合の成立を否定した裁判例もあります。民事の裁判で特殊景品や3店方式の仕組みが指摘されたという変わった裁判例です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|パチンコの特殊景品・3店方式の違法性から組合の成立を否定した裁判例
本記事では,パチンコ・パチスロの特殊景品や3店方式の法的な問題について説明しました。
実際には具体的なサービスの内容(仕組み)によって結論は違ってきます。
実際にサービスの適法性を考える局面にある方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。