【不動産仲介業における内見・重要事項説明へのIT活用に関する法律問題】
1 不動産仲介業における内見・重要事項説明へのIT活用に関する法律問題
2 内見・重要事項説明へのIT活用の具体例
3 表面的な手数料ディスカウントによる依頼者の利益侵害(参考)
4 内見のコストを打ち破れば社会的な有益性が大きい
5 拠点単位・宅建取引士配置ルール
6 スマートキー活用による内見案内無人化
7 重要事項説明アウトソースのメリット
8 重要事項説明と宅建取引士『雇用』ルール
9 宅建取引士のアウトソースと名義貸し・従業業者登録の関係
1 不動産仲介業における内見・重要事項説明へのIT活用に関する法律問題
不動産の売買・賃貸(流通)の促進のためには『仲介業者』が必要です。
しかし,制度設計が古いため,設計改良により,飛躍的に利便性向上・コスト削減が図れる状態にあります。
大幅なシステム改良=イノベーションへの期待が高まっているのです。
特に『内見・重要事項説明』が改良の余地が大きいと言えます。本記事では,内見や重要事項説明についてITを活用する方法と,これに関する法律上の問題を説明します。
2 内見・重要事項説明へのIT活用の具体例
内見・重要事項説明にITを活用する具体例としては,アウトソース(外注)やリモート(遠隔)での操作やコミュニケーションがあります。
<内見・重要事項説明へのIT活用の具体例>
あ 内見×コスト削減
ア 無人化
・スマートキーを使って入室する
・設置したキャメラで撮影→オンラインで閲覧する
イ 人員リソースのコスト削減
内見案内スタッフのクラウド方式
い 重要事項説明×コスト削減
オンラインでの説明
→既存のルール・既存事業者がこれを阻んでいた
平成27年8月から一定の範囲でIT重要事項説明が解禁された
詳しくはこちら|IT重説による非対面の重要事項説明解禁の制度の導入経緯
このような方法については,既存の法規制との抵触が主張される可能性もあります。
これについては後述します。
3 表面的な手数料ディスカウントによる依頼者の利益侵害(参考)
イノベーションによるコスト削減の結果,ユーザーの負担,つまり仲介手数料のディスカウントが期待されています(前記)。
ところで表面的な手数料ディスカウントの名を借りた不正も従来からあります。ユーザーの利益になる構造で手数料のディスカウントを図らないといけません。
<表面的な手数料ディスカウントによる依頼者の利益侵害(参考)>
専任媒介を勧める
→『成約価格』をコントロールできる
→成約価格を下げる×販売の手間を削減する
=『売主(依頼者)の損失』を『仲介業者の利益』にする手法
詳しくはこちら|仲介の不正|囲い込み以外|干す+値こなし|コンサル料|買いカード捏造
次に,新しい工夫と古い設計の法規制との抵触に関して説明します。
4 内見のコストを打ち破れば社会的な有益性が大きい
不動産仲介業のうち,一定のコストを要するのは,内見の案内です。
従業員の時間(リソース)を結構消費するからです。
逆に言えば,この部分のリソース消費を抑制できれば,コスト削減→手数料ディスカウント,が可能になる,ということです。
この点,不動産流通業のシステム的な改善に取り組むベンチャー(スタートアップ)事業者も数多く存在します。
発想として,通常の雇用による社員ではなく,例えば1時間単位での『外注』によって,コストの最小化を図るというものがあります。
『外注』にはクラウドソーシングを利用する,というアイデアもあります。
5 拠点単位・宅建取引士配置ルール
この場合,『外注先』の個人は『宅地建物取引士』ではなくても構いません。
『内見』は『宅地建物取引士の独占業務』には該当しないからです。
ただし,物件の現地やその付近に拠点を設置すると別の問題があります。
<拠点単位・宅建取引士配置ルール>
あ 『事務所』
スタッフの5分の1の人数の宅地建物取引士を設置する必要がある
い 案内所・展示会場
マンションや新築住宅の『現地案内所・展示会場』など
→最低1名の宅地建物取引士を配置する必要がある
※宅地建物取引業法15条1項,2項,施行規則6条の2
詳しくはこちら|専任宅地建物取引士|基本|設置義務・登録・違反への措置
6 スマートキー活用による内見案内無人化
一方で,ITをフル活用した内見の無人化に取り組む事業者も存在します。
これ自体は法規制とは関わりませんが,内見システムの改良によるイノベーション例として挙げます。
<スマートキー活用による内見案内無人化>
入居候補者のスマホにオンラインでキーを送信する
受信者が,キーを受信したスマホの操作により対象物件の玄関を解錠できる
これにより,セキュリティを維持しながら無人内見が実現できます。
7 重要事項説明アウトソースのメリット
重要事項説明の実施は,ある程度成約の方向性となった段階で行われます。
詳しくはこちら|重要事項説明義務の基本(説明の相手方・時期・内容)
『成約可能性の低い件について現地に直接移動する』という内見とは違って,『頻度(回数)』は少ないです。
実際には,少なくとも賃貸の仲介においては,宅建業者の事務所で行われることが多いです。
この場合,この部分を外注(アウトソース)にすることによってコストが削減される,ということはないです。
しかし,一定の場合,当事者が一同に集まれない→宅地建物取引士が当事者に会える場所に移動して重要事項説明を実施ということもあります。
この場合は,『実施場所』に近い者への外注によってコスト削減が図れることになります。
8 重要事項説明と宅建取引士『雇用』ルール
宅建取引士のアウトソースでは『雇用』に関するルールも抵触する可能性があります。
<重要事項説明と宅建取引士『雇用』ルール>
3.従業者証明書携帯の制度
宅建業者は、従業者にその従業者であることを証する証明書(従業者証明書)を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはなりません(略)
従業者には、宅建業者と雇用契約関係にある正規雇用社員だけではなく、契約社員・パート等の一時的に雇用された従業者、派遣社員等の非正規社員も含まれ、また、社長以下非常勤の役員も含まれます。
※公益社団法人全日本不動産協会のHPより引用
別サイト|法律・税務・賃貸Q&A|公益社団法人全日本不動産協会
この見解によれば『雇用していない宅地建物取引士に重要事項説明を外注すること』自体は宅建業法の違反とはなりません。
9 宅建取引士のアウトソースと名義貸し・従業業者登録の関係
宅建取引士のアウトソースは,宅建業者の『名義貸し』に該当すると違法となってしまいます。
ところで,宅建取引士の登録上,従業する宅建業者も登録簿に記録されます。この従業先の業者は1つだけであることが想定されています。1人の宅建士が複数の宅建業者からアウトソースを受けるということは想定されていないという解釈も一応あり得ます。
<宅建取引士のアウトソースと名義貸し・従業業者登録の関係>
あ 宅建業者の名義貸し禁止の条文
宅地建物取引業者は,自己の名義をもつて,他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
※宅地建物取引業法13条1項
い 宅建業者の名義貸しの判断基準(目安)
実質的な業務量・収益分配割合の大部分が『受注者(宅建取引士)側』にある場合
→宅建業者(免許)の名義貸しに該当する
う 宅建業者の名義貸しを認めた実例(裁判例)
分配割合が80%であった
→高率である
→『名義貸し』に認定された
※名古屋高裁平成23年1月21日
え 宅建取引士資格登録簿への『従業先』登録
ア 登録制度
宅建取引士は,宅地建物取引士資格登録簿に従事する宅地建物取引業者(商号または名称及び免許証番号)を1箇所だけ登録する
※宅建業法18条2項,宅建業法施行規則14条の2第1項5号,様式第4号(8)
イ 解釈論
宅建取引士が複数の宅建業者に従業することについて
→宅建業法上認められない,という解釈がなされる可能性もある
もちろん,法規制以外の部分,具体的には監督という部分での実効性・責任が問題になることはありましょう。
本記事では,不動産仲介の内見や重要事項説明へのIT活用に関する法律問題を説明しました。
実際のサービス内容の設計においては,他の法規制についても検討する必要がでてくることもあります。
実際に不動産仲介に関するサービスを設計,検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。