【IT重説ガイドライン・不合理性|法的位置付け・理論構成】

1 IT重説ガイドライン|法的位置付け|引用

IT重説ガイドラインは、前提となる法解釈・法的位置付けに不合理性があります。
詳しくはこちら|IT重説による非対面の重要事項説明解禁の制度の導入経緯
本記事では不合理性のうち『法的位置付け』について説明します。
まずはガイドラインの中で、法的位置付けに関する記載を引用します。

IT重説ガイドライン|法的位置付け|引用

社会実験の法的位置づけ
本ガイドラインに基づいて社会実験として実施されるIT重説は、宅建業法第35条に規定する重要事項説明として位置付けられる。
逆に、本ガイドラインによらずに行われた IT重説は、宅建業法第35条に規定する重要事項説明には当たらず、宅建業法違反となる場合があることに留意する必要がある。
なお、社会実験は、重要事項説明を非対面で行うことを可能とするものであり、重要事項説明書及び宅建業法第37条第1項又は第2項に基づき交付する書面は、電磁的方法によって交付することはできず、書面にて交付する必要がある。
(改行のみ筆者)
※ガイドラインp2『2(3)』

2 IT重説ガイドライン・法的位置付け|国交省ヒアリング

ガイドラインの法的位置付け・理論構成について、国交省に聞いてみました。
詳しくはこちら|IT重説ガイドライン・不合理性|全体・非対面NG解釈
国交省としてのコメント・説明内容を紹介します。

IT重説ガイドライン・法的位置付け|国交省ヒアリング

あ 例外が認められる理由

ア 『非対面NG』の例外が認められる理由 社会実験であるから
イ 社会実験であれば解釈が変わる法的根拠 明確な説明はできない
法的根拠を聞かれても困る
国土交通省の『裁量の行使方法』を表明したようなもの

い 国土交通省として表明した内容

ガイドラインに沿ってIT重説が行われた場合
→ペナルティを課さない、ということを表明したものである
登録なしor事業者の責務違反でIT重説が行われた場合
→ペナルティを課すことになる

IT重説がOKとなる理論構成は完全には理解できないコメントです。
ただ、検討材料は揃いました。
ここからの考察内容は次に説明します。

3 IT重説ガイドラインの理論構成(考察)

IT重説ガイドラインの法的位置付け・理論構成を考察してみました。
ガイドライン全体やヒアリング結果から消去法的に理解できました。

IT重説ガイドラインの理論構成(考察)

あ ガイドライン全体からの考察

『宅建業法からガイドラインへの委任規定』がない
宅建業法のルール自体をガイドラインでは変えられない
国土交通省独自の裁量で可能なことは『行政処分に関する裁量』である
IT重説の理論的な扱いは次のようになると考えられる

い IT重説の理論的な扱い

『宅建業法35条違反である+行政処分は行わない』

う ガイドラインの位置付け

一定の範囲内であれば『行政処分は行わない』ことを宣言した

え 国土交通省ヒアリング

国土交通省による説明も以上の解釈に沿ったものである

この考察の中でのポイントは重要事項説明義務違反に関する法律上の規定です。
次に説明します。

4 重要事項説明義務違反の法的責任

宅建業法で、重要事項説明は義務付けられています。
違反があった場合のペナルティ=法的責任も明確に規定されています。
これを踏まえると上記の考察が理解しやすくなります。
まずは重要事項説明義務違反の法的責任についてまとめます。

重要事項説明義務違反の法的責任

あ 前提

重要説明義務に違反が行われた

い 行政責任|種類

ア 指示処分イ 業務停止ウ 免許取消

う 行政処分|手続・裁量

監督機関が個別的な違反内容に応じて判断する
監督機関=国土交通大臣or都道府県知事
※宅建業法65条、66条
詳しくはこちら|宅建業者に対する監督処分の基本(種類・対象行為)

え 刑事責任

行政処分の中の業務停止命令に違反した場合に刑事罰の対象となる
重要事項説明義務違反自体には直接刑事罰は適用されない
※宅建業法79条4号
詳しくはこちら|宅建業法違反の刑事責任(刑事罰)の規定

重要事項説明義務違反には直接刑事罰が適用されないのです。
行政処分の対象になるだけ、ということです。
行政処分なので、文字どおり行政行=監督機関=国交省の裁量が大きいのです。
以上がガイドラインの法的位置付けの検討でした。
不合理な点がいろいろとあります。
不合理性については、以下、順に説明します。

5 IT重説ガイドラインの不合理性|形式論

ガイドラインの法的位置付けは不合理な点がいくつかあります。
まずは形式的な点から指摘します。

IT重説ガイドラインの不合理性|形式論

ガイドラインの文言
IT重説を『重要事項説明として位置付け(る)』と書いてある
→『宅建業法違反である(が行政処分を行わない)』とは読みにくい
※ガイドラインp2『2(3)』

ガイドラインを順守してもIT重説は『宅建業法違反』である、とはガイドラインに書きにくいのでしょう。

6 IT重説ガイドラインの不合理性(行政裁量の範囲)

法的位置付けは実質面でも不合理と言えます。
『行政裁量の範囲』という点を指摘できます。

IT重説ガイドラインの不合理性(行政裁量の範囲)

『法令違反の行為』であることが前提となる
→行政処分を行う/行わないは行政庁の自由裁量ではない
ただし、一定の範囲で裁量は認められる
司法判断はやや行政の救済・追認的姿勢がある
詳しくはこちら|比例原則・平等原則|行政処分は不公平だと無効となる|取消訴訟

7 IT重説ガイドラインと公務員の告発義務→抵触なし(参考)

ところで、公務員は犯罪、つまり刑事罰の対象となる行為を職務上発見した場合は告発する義務があります。この点、重要説明義務違反が刑事罰の対象となる行為であれば、見過ごすことは許されず、告発する義務があることになります。しかし、前述のように、重要説明義務違反は刑事罰の対象(犯罪)にはなっていません。そこで告発義務は発生しません。

IT重説ガイドラインと公務員の告発義務→抵触なし(参考)

あ 告発義務(条文)

官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない
※刑事訴訟法239条2項

い 重説義務違反の位置づけ

重要説明義務違反は、監督処分の対象ではあるが、(それだけで)犯罪(刑事罰の対象)ではない
→公務員の告発義務は発生しない

8 IT重説ガイドラインの不合理性|憲法問題=人権・権力分立

法的位置付けは『憲法』のルールとの抵触も指摘できます。
大げさかもしれませんが、理論的に整合しないところがあるのです。

IT重説ガイドラインの不合理性|憲法問題

経済活動の自由・職業選択の自由の制約に関するルール設定
→民主プロセスで判断・決定すべきである
=国会による立法以外の『ルール設定』は無効となる
※日本国憲法22条1項、29条、前文

上記内容については、いくつか説明を補足します。

9 行政裁量の肥大化|例え

不合理性として『国会以外のルール設定』を指摘しました(前記)。
ちょっと分かりにくいと思います。
そこで、より分かりやすい例え・典型例を挙げてみます。
分かりやすさ重視なのでやや極端な内容にしてあります。

行政裁量の肥大化|例え

あ 警視庁作成のガイドライン|仮想

今月は1万円以下の窃盗は検挙しません。
警視庁の権限でこのように決めました。

い 合法賄賂=天下り推奨ガイドライン|仮想

A行政庁のOBを役員・相談役として受け入れる業界団体について
→行政処分・違反行為の調査の遂行を緩めます
会社法の社外取締役制度を有効活用することを推奨します
詳しくはこちら|天下り×法律・制度→合法賄賂|特別会計・円借款

本来は国会で決めることだ、ということが理解しやすいと思います。

10 IT重説ガイドライン×憲法前文→無効のはず

本来国会で決めるべきことを他の機関が決めるのは問題です(前記)。
このようなことになったらどうなるか、憲法の前文に書いてあります。
小中学生の時に目にした有名なフレーズを引用して紹介します。

IT重説ガイドライン×憲法前文→無効のはず

あ 憲法前文|一部引用

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

い 解釈

民主化プロセスは政治の本質的なメカニズムである
国民の代表が決めたルールに抵触するルールは排除する=無効とする
※厳密な解釈だといろいろな論点があるがここでは省略する

11 IT重説ガイドラインの不合理性|マーケットメカニズム

ガイドラインの法的位置付けは『マーケットメカニズム』の点からも不合理です。

IT重説ガイドラインの不合理性|マーケットメカニズム

あ 構造的現象

本来自由であるべき経済活動の自由・自由競争が妨害される

い 自由競争阻害の効果

『ユーザー=国民』から『事業者+癒着する行政』への利益移転が生じる

立場 利害
ユーザー=国民 損失
事業者 不当な利益獲得
癒着する行政 不当な利益獲得

もともと、法規制は普遍的・構造的に『競争妨害』に働きます。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
詳しくはこちら|業法・法規制の悪影響|『クオリティ確保』の逆効果|評価システム導入ハードル
この現象・構造は不動産流通業界に特有のもの、というわけではないのです。

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