【真実・意図を隠した取引×詐欺罪|理論・判例|個別財産説】
1 真実・意図を隠した取引×詐欺罪|基本的理論
2 譲渡の意図×預金口座開設→詐欺罪|判例
3 暴力団×預金口座開設→詐欺罪|判例
4 暴力団同伴×ゴルフ施設利用→詐欺罪|判例
5 意図を隠した取引×取引の違法性
1 真実・意図を隠した取引×詐欺罪|基本的理論
『取引』の当事者が料金を払ったのに『詐欺罪』になることがあります。
まずは基本的な理論を整理します。
<真実・意図を隠した取引×詐欺罪|基本的理論>
あ 前提事情
一定の事実・意図を隠して取引を申し込む
相手は『仮に真実を知っていたら』拒否するはずである
相手は『真実を知らないために』取引に応じた
い 客観的側面
取引は通常の代金・サービス・商品の交換が行われた
経済的・客観的な『損失』は生じていない
う 法的解釈論|個別財産説
個別的損害は認められる
→『知っていたら交付・提供しなかった財物・サービス』
え 結論
詐欺罪が成立する
※刑法246条
具体的なケースは,判例になったものを次に紹介します。
2 譲渡の意図×預金口座開設→詐欺罪|判例
『振り込め詐欺』のような『口座を悪用する』ニーズがあります。
そこで『口座・通帳を譲渡する』ということが生じています。
その前提として『新たに口座を作る』というプロセスがあります。
このような背景で『真意を隠して預金口座を開設する』ケースがあります。
判例となった事案を紹介します。
<譲渡の意図×預金口座開設→詐欺罪|判例>
あ 事案
被告人は預金通帳を第三者に譲渡する意図があった
銀行に預金口座の開設を申し込んだ
銀行は口座を開設し,被告人に預金通帳を交付した
い 裁判所の判断
銀行は仮に真実を知っていれば拒否したはずである
→詐欺罪が成立する
※刑法246条1項
3 暴力団×預金口座開設→詐欺罪|判例
預金口座開設で『真実を隠した』事例はほかにもあります。
『暴力団員であること』を隠したという判例を紹介します。
<暴力団×預金口座開設→詐欺罪|判例>
あ 銀行の約款
銀行の約款において次の規定が存在した
規定内容=暴力団員の口座開設申込を拒絶する
い 口座開設申込→通帳交付
被告人は暴力団員であった
被告人は銀行に口座開設を申し込んだ
この際『暴力団員ではない』と表明・確約した
銀行は口座を開設し,被告人に預金通帳を交付した
う 裁判所の判断
銀行は仮に真実を知っていれば拒否したはずである
→詐欺罪が成立する
※刑法246条1項
※最高裁平成26年4月7日
4 暴力団同伴×ゴルフ施設利用→詐欺罪|判例
ゴルフ場の利用という取引において『真実を隠した』ケースです。
<暴力団同伴×ゴルフ施設利用→詐欺罪|判例>
あ 入会時の誓約
ゴルフ倶楽部の入会時に『誓約』が要求されていた
誓約事項=暴力団関係者を同伴しない
い 施設利用・申込
被告人がゴルフ倶楽部に入会した
被告人は会員としてゴルフ場の施設利用を申し込んだ
同伴者に暴力団関係者が含まれていた
被告人はこのことを申告していなかった
う 裁判所の判断
ゴルフ場は仮に真実を知っていれば拒否したはずである
→詐欺罪が成立する
※刑法246条2項
※最高裁平成26年3月28日
5 意図を隠した取引×取引の違法性
以上のように『意図を隠した取引』では詐欺罪が成立することがあります。
この点『もともと取引が違法であった』場合はまた別の解釈となります。
むしろ『違法行為の調査・捜査』というニュアンスになってきます。
この場合は基本的に『適法』という判断になる傾向です。
いわゆる『おとり捜査』として多くの判例があります。
これについては別に説明しています。
(別記事『おとり捜査|基本』;リンクは末尾に表示)
また,民事的にも刑事的な扱いと同じように考えられます。
つまり,基本的に,民事的な違法性も否定されます。