【行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業】
1 行政肥大化→グレーゾーン生成機能
日本の行政の特徴として『肥大化=官僚統治傾向』が指摘できます。
その結果、事業のグレーゾーンが作られるという現象が生じています。
行政肥大化→グレーゾーン生成機能
あ 行政→暴走傾向
『法令』の根拠・委任がない行政の措置・行為が多い(後記※1)
民主的プロセスを欠く
→不合理・不明確なものが生じやすい
い 不明確→グレーゾーン生成
効力が不明確なルール・処分の傾向が多く存在する
そのような事業ドメインについて、次のような現象が生じる
・大手企業・順法意識の強い企業→参入しない
・リスクテイカー→参入する
う ベンチャーの聖域
『グレーゾーンはベンチャーの聖域』という現象が生じる
詳しくはこちら|グレーゾーンはベンチャーの聖域|濃いグレー・薄いグレー|大企業バリアー
このように、産業全体に大きな影響を与えているのです。
2 行政の不合理な措置・行為の種類
(1)不合理な措置・行為あれこれ
事業に関する監督官庁(行政庁)は、実際にいろいろな形で監督しています。
その内容は、法令の根拠のあるものから、根拠のない、いわば非公式のものまで幅広いです。
不合理な措置・行為あれこれ(※1)
あ 行政処分=個別的な「処分」
次のような個別的な行政処分
ア 不許可処分イ 営業停止処分ウ 許可取消処分
い 行政指導=個別的な「指導」
個別的に行政が要請、指示をする(法的拘束力はない)(後述)
う その他のルール制定
通達・ガイドライン・手引きなど
『あ』と『い』の中間的なものと言える
(2)行政指導の濫用・悪用の横行
行政の権限濫用は、行政指導として行われる、つまり、行政指導が濫用、悪用されることが横行しています。このような実情から、法律上もそれを抑制する規定がわざわざ作られています。
詳しくはこちら|行政指導の一般原則(濫用が多いので禁止・行政手続法32条)
(3)外国からみた日本の行政指導と三権分立の機能不全(中島聡氏)
本来、行政の権限濫用はもともと想定されていて、国会、裁判所がそれを要請するという制度設計がなされています。しかし、日本ではその制度がうまく機能していない、ということも指摘されています。
外国からみた日本の行政指導と三権分立の機能不全(中島聡氏)
あ 司法の謙抑性(米国の積極性)
(FTCが独占禁止法違反を理由としてMicrosoftによるActivisionの買収差止の仮処分の申立をしたのに対して、裁判所がこれを却下した話題について)
米国での話なので、「縁がない」と感じるかも知れませんが、これはまさに「行政」からのリクエストを「司法」が拒否したケースであり、米国において「三権分立」が十分に機能している証拠です。日本の場合、こんな風に裁判所が行政側の主張にケチをつけることは滅多にありません。
い 日本の「行政指導」の悪用(行政の肥大化の話し)
それどころか、裁判所からの命令などに頼らずに、行政側が「行政指導」という形で、国会(立法)にも裁判所(司法)にも頼らずに、企業に対して指導や勧告が出来てしまうのが大きな問題です。三権分立が機能している外国にはこんな仕組みがないため、行政指導の英語表記は”Gyosei-Shido”だそうです(参照:行政指導)。
※中島聡氏「週刊Life is beautiful2023年7月18日号」(メールマガジン)
3 行政の不合理な行為|法的救済措置=行政訴訟
行政の監督行為が不当である場合には、これを是正する救済手段があります。
行政訴訟、つまり裁判所が行政の適法性をチェックするという機能です。
3権分立のシステムの根幹の1つです。
行政の不合理な行為|救済措置=行政訴訟
あ 前提理論|法の支配
行政の判断よりも裁判所の判断が優先される
最終的には裁判所が『優劣』を判断する
※憲法81条、前文
い 救済措置|典型例
裁判所が行政処分を取り消す
う 救済措置|前提
当事者が訴訟提起・遂行をする必要がある
条例や通達の『法律との優劣』に関しては別に説明しています。
要するに条例や通達の有効性ということです。
詳しくはこちら|条例による規制の限界|法律との関係・抵触|徳島市公安条例事件
詳しくはこちら|通達の意味・種類・法的性質(国民・企業・裁判所への法的拘束力)
4 行政訴訟×ハードル|処分性|概要
行政訴訟にはいくつかのハードルがあります。
まずは『処分性』という法律上のハードルをまとめます。
行政訴訟×ハードル|処分性|概要
あ 処分性の要件
行政訴訟には『処分性』が必要である
い 非公式措置×処分性
行政の非公式な措置は『処分性』が否定される
例;通達・ガイドライン・行政指導
→行政訴訟の対象にはならない
=却下となる
う 解釈論
原則論のままでは不合理である
→例外的に救済を認める範囲が拡がりつつある
詳しくはこちら|行政訴訟・取消訴訟|処分性|基本|処分の定義・給付請求との並立
5 コスト・ブロック現象|基本
理論的には行政の不合理な行為を是正する手段はあります(前記)。
しかし、現実には大きなハードルがあります。
コスト・ブロック現象の基本的部分をまとめます。
コスト・ブロック現象|基本
あ コスト→行政訴訟断念
行政訴訟提起・遂行には多くの『コスト』を要する(※2)
『コスト』は事業者が負担する
→事業者が訴訟提起を断念する方向性
い 行政の不当助長効果
行政の見解・行為を是正する機会が排除される
=行政の暴走・肥大化を抑制できない状態
適正化がコストの壁にブロックされてしまう現象です。
この現象が行政の暴挙を支える構造となっています。
壁となる『コスト』の内容は次に説明します。
6 コスト・ブロック現象|コスト内容
『コスト』の内容を整理します。
コスト・ブロック現象|コスト内容(上記※2)
あ 時間的コスト
解決までに一定の期間が必要となる
それまでの間の営業機会を喪失する
い 金銭的コスト
訴訟のために要する費用
ア 弁護士報酬イ 手続の実費
例;各種調査費用・訴状貼付印紙
う 精神的エナジー・コスト
対立状態に関わっていることによる精神的負担
え レピュテーション・コスト
レピュテーション・リスクを負担すること
詳しくはこちら|レピュテーション・リスク|村八分システム×無法地帯→官僚統治
7 コスト・ブロック現象|典型|小規模事業
コスト・ブロック現象が発現しやすい状況がいくつかあります。
まずは『小規模事業』について、発現メカニズムをまとめます。
コスト・ブロック現象|典型|小規模事業
あ 発現条件
予定する事業規模が小さい
い コスト・ブロック現象発現
『コスト』を負担するリスクが不相応に大きい
→行政訴訟提起を断念する傾向が強い
8 コスト・ブロック現象|典型|大企業
『大企業』タイプの発現メカニズムをまとめます。
コスト・ブロック現象|典型|大企業
あ 発現条件
事業主体がコンプライアンスを特に重視する企業である
例;上場企業・上場を予定する会社
い コスト・ブロック現象発現
レピュテーションリスクが大きい
→行政訴訟提起を断念する方向性
9 行政と事業者との密接な関係という実情(概要)
以上のように、行政が事業者に対して不当な妨害をした場合に、事業者が救済を受ける法的な手段は存在します。
しかし、現実的なハードル(ブロック)があるので機能しない傾向が強いのです。
そこで、事業者と監督官庁は(良い・悪いは別として)密接な関係を持つ実情があります。
このことは国会(委員会)のコメントとしても登場しています。
詳しくはこちら|ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度の違い(比較)