【両手仲介・双方受託|メカニズム|矛盾発生・利益相反→裏切り】
1 双方受託×誠実義務|形式的理想状態
2 双方受託×誠実義務|矛盾点
3 双方受託×利益相反|全体
4 契約当事者・利害対立
5 双方受託×利益相反|独自の利益
6 双方受託→委託者への裏切り|基本
7 双方受託→委託者への裏切り|具体的手法
8 双方受託→裏切り|優位的な立場の悪用
1 双方受託×誠実義務|形式的理想状態
宅建業者が当事者双方から受託することが蔓延しています。
双方受託・両手仲介がさまざまな害悪の根源となっています。
本記事では,害悪発生・誘引のメカニズムを説明します。
まずは,誠実義務という仲介の本質から考えます。
誠実義務については別に説明しています。
詳しくはこちら|仲介契約|基本|当事者・誠実義務・信頼関係
誠実義務から理想状態を想定します。
<双方受託×誠実義務|形式的理想状態>
あ 基本
仲介業者が双方から受託した場合
→仲介業者は次の義務を負う
い 正当な任務|抽象論
当事者双方の利益を均しく,かつ最大限に追求・実現する
この目的で条件交渉・調整をする
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265
う 正当な任務|具体的内容
ア 中立公平に価格査定を行うイ この価格をもって両者の間に立って取引交渉を適正に行う
え 禁止される交渉方法
当事者の一方の意向を反映した価格について
→これをもって他方と取引交渉すべきではない
※岡本正治ほか『全訂版詳解不動産仲介契約』大成出版社p77
2 双方受託×誠実義務|矛盾点
上記はあくまでも理論的な理想的な状態です。
実際には別の問題=矛盾を生じます。
<双方受託×誠実義務|矛盾点>
あ 前提事情
同じ仲介業者が当事者双方から受託している
い 構造的ジレンマ発生
一方に対する誠実義務を果たそうとすればするほど
→他方に対する誠実義務を果たせなくなる
※岡本正治ほか『全訂版詳解不動産仲介契約』大成出版社p76
3 双方受託×利益相反|全体
双方受託は本質的なところで矛盾を抱えます(前記)。
これが具体的な問題を発生することになります。
まずは基本的事項をまとめます。
<双方受託×利益相反|全体>
あ 基本
1人の媒介業者が次の任務を遂行すること
→『い・う』の問題点がある
→極めて困難である
い 契約当事者・利益相反
両当事者の利害が相矛盾する(後記※1)
う 仲介業者独自の利益相反
仲介業者自身の利益が相反する(後記※2)
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265
4 契約当事者・利害対立
双方受託は,2つの点で『矛盾』を生じます。
1つ目が『契約当事者』の利害対立です。
<契約当事者・利害対立(※1)>
あ 基本
売主・買主(貸主・借主)の間で利害が対立する
典型的な対立する事項は次のものである
い 取引価格
う 取引条件|例
瑕疵担保免責条項
担保責任期間の短縮の特約
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265
5 双方受託×利益相反|独自の利益
2つ目の矛盾は『仲介業者自身』の利害に関するものです。
<双方受託×利益相反|独自の利益(※2)>
あ 全体構造
仲介業者が双方から受託した場合
→成約して初めて報酬請求権が発生する
=不成立になれば報酬を取得できなくなる
→成約を強く志向する
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265
い 構造分析
仲介業者は次のことにより大きな利益を得られる
ア 早期の成約
コストが大幅に削減できる
イ 報酬獲得
成約により大きな報酬を得られる
※岡本正治ほか『全訂版詳解不動産仲介契約』大成出版社p77
6 双方受託→委託者への裏切り|基本
以上のように矛盾が生じた結果『裏切り』が誘引されます。
裏切りが生じるメカニズムの基本的部分をまとめます。
<双方受託→委託者への裏切り|基本>
仲介業者は早期の成約によって報酬を得たい
当事者の利益よりも自己の利益を優先するおそれは十分にある
現実に適正に取引交渉を適正に行えるかは甚だ疑問である
※岡本正治ほか『全訂版詳解不動産仲介契約』大成出版社p77
7 双方受託→委託者への裏切り|具体的手法
『裏切り』の具体的内容・典型例を紹介します。
<双方受託→委託者への裏切り|具体的手法>
あ 基本
双方受託の仲介業者は成約に持ち込む傾向が強い
→そのため,次の手段を用いる傾向がある
い 不正手段|方針
一方の委託者にとって不利な条件・情報を正確に報告しない
他方の委託者の提示した取引価格で契約締結をするよう強く説得する
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265
う 不正手段|具体例
ア 売主への説明
『そのような取引価格では売れない』と説明する
イ 買主への説明
『これ以上安くはならない』と説明する
※岡本正治ほか『全訂版詳解不動産仲介契約』大成出版社p77
8 双方受託→裏切り|優位的な立場の悪用
『裏切り』は,強い効果を生じます。
効率的に炸裂する構造を整理します。
<双方受託→裏切り|優位的な立場の悪用>
あ 前提事情
仲介業者は当事者の状況・内情を熟知している
い 内情|具体例
ア 資金繰り計画イ 売り急ぎ・買い急ぎの状況ウ 具体的条件の範囲
例;最大限譲歩できる取引価格
※岡本正治ほか『改訂版逐条解説宅地建物取引業法』大成出版社p265