【出資法の『出資金・預り金』の規制の規定内容と基本的解釈】
1 出資金の受入制限の構成要件・罰則
2 預り金の禁止の構成要件・罰則
3 預り金の禁止の適用除外
4 出資金と預り金の規制内容の比較(まとめ)
1 出資金の受入制限の構成要件・罰則
出資法による,資金の受入れに関する規制は『出資金』と『預り金』があります。
本記事では『出資金』『預り金』に関する規制の基本的事項を説明します。
解釈の前提となる,条文の規定内容を順に説明します。
まずは『出資金』の受入制限についての構成要件と罰則をまとめます。
<出資金の受入制限の構成要件・罰則>
あ 構成要件
不特定かつ多数の者に対して
後日出資の払戻をすることを表示した(後記※1)
出資金の受入をした
い 払戻の表示内容(※1)
出資金の全額orこれを超える金額に相当する金銭を支払う
明示・暗黙の表示のいずれも含む
※出資法1条
う 法定刑
『あ』or『あ』を潜脱する行為をした場合
→懲役3年以下or罰金300万円以下
併科あり
※出資法8条3項
え 両罰規定
罰金刑について
→両罰規定あり
※出資法9条1項3号
お 詐欺罪との関係
詐欺罪が成立する場合
→出資法違反は成立しない
※出資法8条4項
2 預り金の禁止の構成要件・罰則
資金の受入れに関する規制のもう1つは『預り金』の禁止です。
『預り金』の禁止についての構成要件と罰則をまとめます。
<預り金の禁止の構成要件・罰則>
あ 構成要件
業として預り金をする
他の法律に特別の規定のある者を除く(後記※2)
※出資法2条1項
い 『預り金』の定義
不特定かつ多数の者からの金銭の受入れである
次のいずれかに該当する
ア 預金・貯金・定期積金の受入れイ 『ア』と同様の経済的性質を有するもの
社債・借入金などの名義には関わらない
う 法定刑
『あ』or『あ』を潜脱する行為をした場合
→懲役3年以下or罰金300万円以下
併科あり
※出資法8条3項
え 両罰規定
罰金刑について
→両罰規定あり
※出資法9条1項3号
3 預り金の禁止の適用除外
預り金の禁止に関しては適用が除外されるものがあります。
銀行や信用金庫のような金融機関が,適用除外の典型です。
<預り金の禁止の適用除外(※2)>
あ 適用除外の規定
他の法律により業として預り金をすることを認められている者について
→適用を除外される
※出資法2条
い 他の法律による特別の規定
法律 | 分類 | 現存の有無 |
銀行法 | 銀行 | 存続 |
長期信用銀行法 | 長期信用銀行 | 現在は存在しない |
貯蓄銀行法 | 貯蓄銀行 | 現在は存在しない |
相互銀行法 | 相互銀行 | 現在は存在しない |
信用金庫法 | 信用金庫・同連合会 | 存続 |
農業協同組合法 | 農業協同組合 | 存続 |
労働金庫法 | 労働金庫 | 存続 |
※津田実『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律』曹時6巻7号p30
う 平等原則への抵触
宗教法人が預り金をしたケースについて
事業者によって預り金の可否が異なること
→憲法14条違反ではない
※最高裁昭和36年9月8日
一定の免許・認定を得た事業者だけが『預り金』のサービスを行えるのです。
これについて,平等ではないという主張がありましたが,最高裁は合憲と判断しています。
4 出資金と預り金の規制内容の比較(まとめ)
出資法による資金の受入れの規制は出資金・預り金の2種類があります(前記)。
この2つの区別はとても分かりにくいです。
条文の規定からの違いをまとめておきます。
条文には違いがありますが,実務では通常『預り金』として扱います。現実的には『出資金』の規制は無視しておいて良いと言えます。
<出資金と預り金の規制内容の比較(まとめ)>
あ 共通事項
元本の返還が保証される『資金の拠出』である
不特定かつ多数の者が拠出者である
法定刑に違いはない
い 資金の種類と規制内容(比較)
規制対象の資金の種類 | 出資金 | 預り金 |
金融機関の適用除外 | なし | あり |
勧誘相手が不特定多数 | あり | あり |
業として | なし | あり |
出資法の規定 | 1条 | 2条 |
う まとめ
金融機関以外であれば実質的に違いはない
実務ではほぼすべて『預り金規制』の対象として扱っている