【『出資金』に関する元本保証・既遂時期・脱法行為の解釈論】

1 払戻し=元本保証の意思表示の内容
2 元本保証の意思表示の具体例
3 元本保証には該当しない例
4 出資金の受入の脱法行為の禁止
5 出資金の受入そのものと脱法行為の判別
6 出資の払戻しの具体例
7 出資金の受入行為の内容・既遂時期

1 払戻し=元本保証の意思表示の内容

本記事では『出資金』の規制に関する『受入れ』以外の細かい解釈を説明します。
なお,実務では『出資金』の規制はほぼ適用されません。本記事の解釈論は実務では使わないと言えます。
『出資金』に関して禁止されるのは元本保証です。条文上は『出資の払戻し』という表現が使われています。
この解釈の基本的事項をまとめます。

<払戻し=元本保証の意思表示の内容>

あ 前提

『出資金』に関する禁止行為について
→『出資の払戻しの表示行為』が含まれる

い 『出資の払戻し』の意味

共同事業から脱退する
脱退の際,提供した財産の返還を受ける

う 出資の払戻しの意思表示の内容

出資金全額以上を払い戻す旨の意思表示
つまり,元本返還を約束・保証することである
明示的・暗黙の表示のいずれも含む
※出資法1条
※吉田淳一『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律の概要』捜研17巻10号p42

2 元本保証の意思表示の具体例

出資金に元本保証があると違法となります(前記)。
実際には,元本保証はいろいろなバラエティーがあります。具体例をまとめます。

<元本保証の意思表示の具体例>

あ 元本+利益を保証する

出資金元本に加え,確定利息・利益配当の支払を約束する

い 『元金』回避のための『配当』名目

『出資金元本』という名目での返還はしない
『配当』という名義で実質的な出資金元本の払戻を約束する

う 明言ではないが実質的な保証

過去における出資金の払戻状況一覧表を示す
内容は,常に出資金の全額orこれを超える金額に該当している

え 『安心確実』というセールストーク

過去において出資金額以上を返還した事例を示す
『したがってこの出資は安全確実である』旨の文言を付加する
※齋藤正和『新出資法〜条文解釈と判例解説〜』青林書院p46

3 元本保証には該当しない例

元本保証に近いけど該当しない,という状況もあります。該当しないものの具体例をまとめます。

<元本保証には該当しない例>

次のような事情は『元本保証』には該当しない
ア 『有望である』『有利確実である』などの宣伝イ 高率の配当を期待させる文言 ※齋藤正和『新出資法〜条文解釈と判例解説〜』青林書院p46

4 出資金の受入の脱法行為の禁止

出資金の受入れは違法とされています(前記)。この点,受入れ行為そのものに該当しなくても,これに近い行為も違法となります。
いわゆる『脱法行為の禁止』という規定があるのです。これについてまとめます。

<出資金の受入の脱法行為の禁止>

あ 条文の規定

『前号に掲げる規定に係る禁止を免れる行為をした者』
※出資法8条3項2号
前号=出資金の受入の禁止

い 脱法行為に該当する具体例

商法の匿名組合契約による出資の受入れを行った
集金者が次の内容の表示を行った
『出資金は全額払い戻す。但し,商法542条但書の適用は妨げない』
→厳密には元本を保証したことにはならない
しかし,元本保証であるとの誤解を生じさせる危険性を有している
→脱法行為に該当する

う 商法542条但書の規定内容

出資が損失によって減少した場合は,その残額を返還すれば足りる
※齋藤正和『新出資法〜条文解釈と判例解説〜』青林書院p48

5 出資金の受入そのものと脱法行為の判別

出資金の受入れの脱法行為は違法となります(前記)。とは言っても,脱法行為として認められるケースは少ないです。
実際には,出資金の受入れ行為そのものが解釈上,広く適用される傾向があるのです。
脱法行為ではなく,受入れ行為そのものに該当する具体例を紹介します。

<出資金の受入そのものと脱法行為の判別>

あ 具体例

集金者が次の内容の表示を行った
『毎月出資金の1割を配当し,10か月で元がかえります』

い 解釈論

形式的には『配当』の名目である
しかし実質的には,出資金の払戻しを約束していると言える
→『脱法行為』ではなく出資法1条の表示に該当する
=出資金の受入そのものである
※小田部胤明『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律と判例の解説 増補第5版』東洋企画p56
※吉田淳一『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律の概要』捜研17巻10号p42

6 出資の払戻しの具体例

以上の説明は,受入れ,つまり,資金が拠出される場面の解釈論でした。
ここで,出資金の規制は『払戻し』が約束されているものが対象です。
資金を受け入れた後に『返還・払戻し』があるということです。
そこで,出資の払戻しの具体例をまとめます。

<出資の払戻しの具体例>

あ 民法上の組合

民法上の組合員の脱退の際の持分の払戻し
※民法681条

い 匿名組合

匿名組合契約の終了の際の『返還』
※商法542条

う 会社の清算

残余財産の分配
※会社法105条1項2号
※吉田淳一『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律の概要』捜研17巻10号p42

7 出資金の受入行為の内容・既遂時期

改めて,出資金の受入れの規制の対象を説明します。
事後的な払戻しが約束されている出資金を『受け入れること』が禁止されているのです。
つまり,出資金の『受入れ』が犯罪行為となるのです。『受入れ』され完了すれば『既遂』に達します。
逆に『未遂』という状況は考えにくいです。実際に未遂を処罰する規定自体がありません。

<出資金の受入行為の内容・既遂時期>

あ 構成要件

構成要件=違反行為について
→出資金を『受入』れること
※出資法1条
→出資者から出資金の給付を受けること
給付は,出資金の全額・一部のいずれも該当する

い 『受入』の具体例

次のいずれも該当する
ア 通常の弁済イ 代物弁済ウ 出資金の受入れと同様の利益を受け入れること

う 犯罪成立時期

『受入』れた時点で既遂に達する
未遂犯処罰規定はない

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