【『出資金・預り金』規制の罪数と詐欺罪との関係】
1 出資金の受入制限違反の罪数
2 預り金禁止違反の罪数
3 預り金禁止違反と詐欺罪の関係(全体)
4 預り金禁止違反と詐欺罪の関係(各見解)
1 出資金の受入制限違反の罪数
出資法の出資金・預り金の規制違反は多くの資金提供者が存在することが前提となります。そうすると,成立する犯罪の数が問題となります。
勧誘・宣伝が同一であれば,いわば1つの商品であり,罪も1つとなります。
逆に,勧誘・宣伝の内容が別であれば,別の商品として,罪も複数となります。
<出資金の受入制限違反の罪数>
あ 前提事情
Aが,複数の出資者から出資金を受け入れた
い 包括一罪となるケース(※1)
宣伝内容が同趣旨である場合
→同一の共同事業に関して受け入れられる出資金である
→包括一罪となる
う 併合罪となるケース
一連・同趣旨ではない宣伝による場合
→同一の共同事業とは言えない
→併合罪となる
※齋藤正和『新出資法〜条文解釈と判例解説〜』青林書院p48
2 預り金禁止違反の罪数
預り金禁止違反の裁判例で罪数を判断したものがあります。この事例は,同一の勧誘・宣伝が前提となっているようです。結局,上記の出資金の罪数の判断基準と同様と言えるでしょう。
<預り金禁止違反の罪数>
不特定多数の者から多数回にわたり金銭を受け入れた場合
→包括的に預り金禁止違反の1罪として処断すべきである
※仙台高裁昭和30年4月11日;旧貸金業取締法の事例
出資金の受入に関する判断(上記※1)に相当する
3 預り金禁止違反と詐欺罪の関係(全体)
資金の受入れのプロセスに『詐欺罪』に該当する行為が含まれるケースもあります。この場合は,預り金禁止違反と詐欺罪の両方に該当します。この2つの罪の関係についての解釈論を説明します。まずは,重複する複数の罪の関係の一般論として2とおりの扱いがあります。ここまでの状況を整理します。
<預り金禁止違反と詐欺罪の関係(全体)>
あ 2つの罪に該当するケース
預り金の受入れについて詐欺手段があった場合
→詐欺罪・出資法2条違反の両方に該当する
い 重複する2つの罪の関係の一般論
大きく次のように分類できる
ア 法条競合イ 科刑上1罪
観念的競合
※刑法54条前段
牽連犯
※刑法54条後段
4 預り金禁止違反と詐欺罪の関係(各見解)
重複する2つの罪の扱いは2とおりがあります(前記)。預り金禁止違反と詐欺罪との関係についての解釈は,観念的競合・法条競合の2つの見解があります。いずれも,実質的には詐欺罪だけが適用されるという結論になります。見解による現実的な違いはありません。
<預り金禁止違反と詐欺罪の関係(各見解)>
あ 基本
出資法の預り金禁止違反と詐欺罪の関係について
→次の『い・う』の見解がある
い 観念的競合という見解
2罪の法益が異なる
→観念的競合に該当する
※野村稔『経済刑法の論点』現代法律出版p145
う 法条競合により詐欺罪だけ成立する見解
詐欺罪によって経済的侵害・危険は評価し尽くされる
→法条競合
→預り金禁止違反は詐欺罪によって吸収される
※神山敏雄『出資法上の犯罪』犯罪と刑罰8号p29〜