【提訴前照会制度(利用場面・回答義務と除外事項・照会書の記載事項)】
1 提訴前照会の基本的事項
本記事では提訴前照会の制度について説明します。これは、平成15年の民事訴訟法改正によって作られた制度の1つです。
詳しくはこちら|提訴前照会・証拠収集処分の制度の基本と提訴予告通知
まずは提訴前照会の制度の基本的・重要な事項をまとめます。
提訴前照会の基本的事項
あ 利用できる者と期限
利用できる者 期限 提訴予告通知の発信者 通知を行った日から4か月以内 提訴予告通知の相手方 通知を受領した日から4か月以内
い 照会できる事項
訴訟の主張・立証の準備に必要であることが明らかな事項
※民事訴訟法132条の2、3
う 当事者照会との比較
従前より当事者照会の制度がある
当事者照会と提訴前照会は似ている
当事者照会が利用できるのは提訴『後』のみである
※民事訴訟法163条
2 提訴前照会の利用場面
提訴前照会は、文字どおり提訴していない段階で、裁判所を通さずに利用できます。時間・経済的なコストがとても小さいのです。適切に利用すると非常に効率的・効果的です。
利用が好ましい状況の典型例をまとめます。
提訴前照会の利用場面
あ 主要な照会事項
訴訟における求釈明事項
い 拡張的な照会事項
ア 相手の知識や認識イ 相手が運用する制度の一般論
う 活用が期待できる状況
紛争の原因が相手方の専門的地位・知識にある場合
→『い』の事項の照会を行う
→回答内容や相手の対応が有利な結果に結びつくことがある
ア 有利な証拠として利用するイ 訴訟前の交渉が促進される
3 提訴前照会の方法
提訴前照会の制度を利用する具体的な方法をまとめます。
提訴前照会の方法
あ 提訴前照会の方法(規定)
照会の書面と回答の書面を相手方に送付する
→相手方に『書面で回答する』ことを求める
相当の期間を定める
※民事訴訟法132条の2、3、民事訴訟規則52条の4第1項
い 提訴前照会の方法(実務)
内容証明郵便を用いることが望ましい
提訴予告通知と提訴前照会を兼ねることも可能である
4 提訴前照会の回答義務(基本)
提訴前照会を受けた者には回答義務があります。条文上の基本的な規定をまとめます。
提訴前照会の回答義務(基本)
あ 原則
照会の相手方は回答義務を負う
い 例外(※1)
次の『ア〜ウ』に該当する場合
→照会の相手方は回答義務を負わない
ア 当事者照会の除外事項(後記※2)イ 私生活の秘密
相手方or第三者の私生活についての秘密に関する事項
回答すると社会生活において支障を生ずるおそれがある
ウ 営業秘密
相手方or第三者の営業秘密に関する事項
※民事訴訟法132条の2第1項ただし書、同条の3第1項後段
5 当事者照会の除外事項
提訴前照会が回答義務が除外される事項の1つに『当事者照会』の除外事項があります。別の制度である当事者照会の規定を流用しているということです。
当事者照会の回答義務が除外される事項をまとめます。
当事者照会の除外事項(※2)
詳しくはこちら|刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権
※民事訴訟法163条
6 提訴前照会への回答義務違反
提訴前照会を受けた者は回答義務があります(前記)。一方、回答を拒否した場合には一般的な罰則はありません。間接的には一定の影響が生じます。
回答義務違反についての法的扱いや影響を整理します。
提訴前照会への回答義務違反
あ 罰則
直接的な罰則の規定はない
い 訴訟の審理への影響
回答義務に違反して回答しない場合
→回答義務者に不利な事実認定につながることがあり得る
照会者は『回答義務違反』を主張・立証すると良い
う 公的な規律への違反
回答義務者の立場に基づく公的規律に反することもある
例;弁護士→弁護士職務基本規程違反
7 予告通知書・提訴前照会書の記載事項
(1)予告通知書の記載事項(概要)
提訴前照会を使う場合、法律上、2つの書面を送付することになります。提訴を予告する予告通知書と、質問本体の照会書です。実務では2つの書面を1つにまとめる(兼ねる)ことが多いです。
まず、予告通知書の記載事項につては、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|提訴前照会の予告通知書の記載事項(民事訴訟法132条の2、規則52条の2)(解釈整理ノート)
(2)提訴前照会書の記載事項
次に、提訴前照会書に記載する事項は次のように定められています。予告通知書と照会書を兼ねた書面では、当然、2つの書面の記載事項の両方が含まれている必要があります。
提訴前照会書の記載事項
8 提訴前照会の回答事項
提訴前照会を受けた者が回答する時の記載事項も定められています。
提訴前照会の回答事項
本記事では、提訴前照会の制度について説明しました。
実際には、個別的な事情を元にして、利用する調査手段とタイミングを最適化する必要があります。
実際の情報(証拠)収集に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。