【イラスト・似顔絵・似顔マスクと肖像権(ありのままと創作の境界問題)】
1 肖像権の侵害に該当する行為(概要)
2 イラスト・似顔絵の特殊性
3 イラスト・似顔絵による他の権利侵害
4 イラスト・似顔絵の使用に関する実例・話題
5 『ありのまま』と創作の区別とテクノロジー
1 肖像権の侵害に該当する行為(概要)
本記事ではイラスト・似顔と肖像権の関係について説明します。
まず最初に,肖像権の基本的な内容の概要をまとめておきます。
<肖像権の侵害に該当する行為(概要)>
個人の容貌・姿態をありのまま記録or公表する行為
→被写体を機械的に記録すること
例;写真撮影,ビデオ撮影など
※東京高裁平成15年7月31日;脱ゴーマニズム宣言事件
詳しくはこちら|肖像権|人物の撮影→公表は肖像権侵害になる|差止・損害賠償請求
2 イラスト・似顔絵の特殊性
撮影による肖像権侵害とイラスト・似顔絵は大きく違うところがあります。イラスト・似顔絵の特殊性をまとめます。
<イラスト・似顔絵の特殊性>
あ イラスト・似替えの特殊性
イラスト・似顔絵(※1)について
作者の技術により主観的に特徴を捉えて描く
→作者の主観的,技術的作用が介在する
い イラスト・似顔絵と肖像権
人物の容貌・姿態の情報をありのまま取得・公表したとは言えない
→肖像権(権利)侵害に該当しない
イラストの著作という表現の自由としての尊重の要請もある
う 例外的な肖像権侵害
写真と同程度に対象者の容貌・姿態を写実的に正確に描写すること
例;肖像画
→肖像権侵害に該当することがある
※1 判決文では『絵画』と表記している
※東京高裁平成15年7月31日;脱ゴーマニズム宣言事件
なお,『ありのまま』なのか,創作なのかという境界の判断は別の問題です。これについては後述します。
3 イラスト・似顔絵による他の権利侵害
イラストや似顔絵は,一切権利の侵害にならないということはありません。肖像権以外にも法律上の権利に抵触する可能性はあります。
<イラスト・似顔絵による他の権利侵害>
あ 名誉権・プライバシー権侵害
イラスト・似顔絵の公表について
肖像権侵害にならない場合でも
別途,他の人格的権利の侵害に該当することはある
例;名誉権,プライバシー権
※東京高裁平成15年7月31日;脱ゴーマニズム宣言事件
い パブリシティ権侵害
商業的利用価値が高い場合
→パブリシティ権侵害に該当することはある
詳しくはこちら|著名人の氏名や画像・動画はパブリシティ権が認められる
4 イラスト・似顔絵の使用に関する実例・話題
イラストや似顔絵は実際に問題・話題となることがあります。実例をまとめます。
<イラスト・似顔絵の使用に関する実例・話題>
あ ビートルズ
『(写真をつかうとうるさいので)チエを絞ってマンガ風にあしらつた』ポール・ジョージ・リンゴ・ジョンの4人の似顔絵をプリントしたハンカチが東京・西銀座のデパートで1枚80円で売り出された
※『回転窓/朝日新聞』昭和41年6月24日
※大家重夫『肖像権』新日本法規出版p18
い 似顔マスク事件(昭和)
ア 事案
郷ひろみ氏が自分の顔そつくりの人形を製造販売している名古屋のスキヨ人形研究所を肖像権侵害で,侵害差止と300万円の損害賠償を求め,東京地裁に訴えを提起した
※昭和52年7月15日付新聞各紙
※大家重夫『肖像権』新日本法規出版p20,21
イ 結果
公的刊行物には結果は示されていない
パブリシティ権の侵害は認められた可能性がある
う 似顔マスク特需(21世紀)
ドナルド・トランプ氏の似顔マスクの売れ行きが好調である
ヒラリー氏もあるらしい
※2016年11月11日各種オンラインニュース
5 『ありのまま』と創作の区別とテクノロジー
肖像権は『ありのまま』の情報だけが対象となります(前記)。実際には『ありのまま』か創作か,という判断が難しいこともあります。
特にテクノロジー進化とともに不明瞭なモノは一気に増えてゆくと思います。
<『ありのまま』と創作の区別とテクノロジー>
あ 区別・判別の困難性
次の2つの区別が明確にできないことがある
ア 機械的な記録=写真・写実的な肖像画イ 作者の個性を反映したイラスト・マスク・彫像
い テクノロジー進化との関係
画像の処理技術が進化しつつある
→次の2つの境界が不明確になってきている
ア 機械的な画像の修正イ 人為的な創作
う 3D化による問題の拡大
3Dのテクノロジーが急速に進んでいる
例;3D動画・3Dプリンタによる立体的再現
→従来の法的解釈に当てはまらないものが増える