【財産開示手続の制裁(罰金・懲役)と実効性】

1 財産開示手続の制裁(罰金・懲役)と実効性

債務名義を取得した債権者や先取特権をもつ債権者は、裁判所の財産開示手続を利用して債務者の財産の調査をすることができます。
詳しくはこちら|裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)
財産開示手続では、債務者が開示して初めて債権者が情報を取得できます。そこで、債務者が協力しない場合には制裁が用意されています。本記事では、財産開示手続における制裁と、財産開示手続の実効性について説明します。

2 財産開示手続に関する制裁→懲役・罰金

(1)財産開示手続に関する制裁→懲役・罰金

財産開示手続では、債務者に、財産開示期日への出頭、そこで宣誓すること、その上で財産(情報)を開示することが義務付けられています。これらの義務に違反した場合のペナルティとして、6か月以下の懲役と50万円以下の罰金が規定されています。

財産開示手続に関する制裁→懲役・罰金

あ 債務者の対象行為

ア 出頭拒否イ 宣誓拒否ウ 開示拒否(宣誓した上で)エ 虚偽開示(宣誓した上で)

い 罰則の内容

陳述拒絶等の罪(民事執行法213条1項6号)があることを説明
法定刑=6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
※民事執行法213条1項5号、6号

(2)開示義務者→法人の場合は代表者個人

ところで、ペナルティを受けるのは債務者ですが、法人である場合は法人の代表者(個人)ということになります。

開示義務者→法人の場合は代表者個人

債務者本人、その法定代理人、法人であるときの代表者

(3)公示送達→罰則可能

なお、財産開示手続の実施決定の送達は、送達の一般的ルールが適用されます。状況によっては公示送達でなされることになります。
詳しくはこちら|民事訴訟における公示送達の要件(公示送達を使える状況)
公示送達がなされた場合、債務者は現実には手続のことを知らないのが通常ですが、その場合でも罰則が適用されないということにはなりません。

公示送達→罰則可能

・・・決定や呼出状の送達は、公示送達によって行うことができるが、その場合でも、処罰は可能である。
※山﨑雄一郎稿/中島弘雅ほか編著『実務からみる 改正民事執行法』ぎょうせい2020年p84

3 令和元年改正前の制裁

(1)令和元年改正前の制裁→過料

ところで、以前のペナルティは30万円以下の過料でした。金額もペナルティの種類も軽い、という批判があり、令和元年の民事執行法改正(令和2年施行)で重くなった、という経緯があるのです。

令和元年改正前の制裁→過料

30万円以下の過料
※民事執行法206条1項(改正前)

(2)過料の制裁の発動に関する手続

法改正の前と後の違いを説明するため、改正前の「過料」の制度についての説明を続けます。
法律上は過料の制裁は裁判所の職権です。当事者が申し立てるというような手続は規定されていません。
しかし、実務では、債権者が裁判所に書面提出によって働きかける運用がなされていました。

過料の制裁の発動に関する手続

あ 債権者からの働きかけ(基本)

債権者から執行裁判所に対して
債務者に対する過料の制裁を行う希望を意見として提出する
書面で提出することが望ましい
例=意見書・上申書

い 判断結果の連絡の要請

『あ』の書面に次の内容を記載しておく
→実務上、裁判所は債権者に知らせてくれる
記載内容=職権発動/不発動の結果を知らせて欲しい

う 東京地裁民事執行センターの運用

債権者からの意見(上申書)提出によって
過料の制裁を立件するか否かを審査する
債権者が希望すれば結果を通知する
※東京地方裁判所民事執行センター実務研究会『民事執行の実務 債権執行編(下)』p324

(3)過料の制裁に関する裁判所の判断→発動傾向大

前述のように、過料の制裁は裁判所の裁量で判断されます。実際の運用傾向として、少なくとも債務者が下式業者である場合は、開示拒否は悪質だといえるので、過料が発動される傾向がありました。金額は20万円が相場となっていました。

過料の制裁に関する裁判所の判断→発動傾向大

あ オール発動傾向

現在は、過料の制裁については、債権者から上申書を出せば、ほぼ確実に過料の制裁を科されているわけですけれども、・・・
※第198回国会法務委員会第8号議事録(平成31年4月3日)・参考人三上理氏発言

い 対貸金業者の実情→20万円の過料発動

・・・まず、執行裁判所に対して、開示義務者に対して過料の制裁がなされるように上申書を提出した。
・・・過料事件の結果として、開示義務者である貸金業者の代表者は20万円の過料に処せられた(筆者の経験では、債務者が貸金業者である場合には、全て20万円の過料に処せられている)。
※大賀宗夫稿『財産不明の場合における金銭債権の執行手続~財産開示手続の活用事例~』/『月報司法書士537号』日本司法書士連合会2016年11月p26

う 債権者の欠席の影響→過料発動否定方向

ア 財産開示期日への債権者出席→必須ではない(前提) 債権者(申立人)が財産開示期日に出席することは必須ではない
詳しくはこちら|財産開示手続の管轄と手続の流れ
イ 過料の判断への影響→不発動方向 申立人が財産開示期日に出頭しない場合には、開示義務者が財産陳述義務に違反した場合でも過料制裁をしない取扱いをする裁判所もあると伝え聞くので、この点については留意が必要である。
※大賀宗夫稿『財産不明の場合における金銭債権の執行手続~財産開示手続の活用事例~』/『月報司法書士537号』日本司法書士連合会2016年11月p30

(4)開示拒否の実情→4割程度(概要)

以上のように、過料の制裁は弱いながらも発動されることは多かった、という実情がありました。実際にどの程度の件数が開示に至ったのか、というと、統計としては4割未満でした。
詳しくはこちら|裁判所による債務者の財産調査に関する令和元年民事執行法改正

4 制裁アップの影響→重くなったが発動ハードル高め

(1)罰金・懲役と過料の違い

現行法の説明に戻ります。令和元年の法改正で制裁が過料から懲役・罰金に変わりました。この中で過料罰金も金銭を支払うことになるのは同じですが、罰金は刑罰(犯罪)です。前科になります。上限金額が30万円から50万円に大きくなっただけではなく、制裁の種類が重くなったのです。

罰金・懲役と過料の違い

あ 罰金→刑罰である

「罰金」や「懲役」は、刑罰である
検察官が処分をするかどうか(起訴するか不起訴とするか)の判断をする
検察官が起訴した後、裁判所が判断する(略式手続は除く)
処せられると前科となる
「罰金」を納付しないと労役場留置の対象となる

い 過料→刑罰ではない

過料刑罰ではない
(検察官は関与せず)裁判所が発動するかどうかを判断する
前科にはならない
納付しない場合でも労役場留置という代替措置はない

(2)実務における制裁の発動傾向→発動も重い

法改正で制裁が重くなったのは間違いないですが、実際に発動するかどうかに着目すると、逆効果が生じた、ともいえます。まず、制裁発動の手続(形式)として、刑罰は検察官が捜査をした上で起訴するかどうかを判断します。次に発動ハードルとしても、検察官が、そこまで悪質ではないから起訴しない(不起訴にする)と判断することもあります。
逆にいえば、過料の時代は、ペナルティとして軽い分、手続もハードルも軽かった、つまり容易に発動されていたともいえます。

実務における制裁の発動傾向→発動も重い

あ 制裁の重さ

債務者が開示に応じない場合のペナルティについて
罰金・懲役は改正前の過料よりも重い

い 制裁発動ハードル

起訴するかどうかの判断については検察官に大きな裁量(起訴裁量)がある
検察官が不起訴とすることもある
改正前の過料は裁判所が発動することが比較的多かった

(3)制裁のコンプライアンスへの影響

ところで、制裁があるとどのような影響があるでしょうか。たとえば罰金を処せられると金銭的ダメージを受けるのは当然として、それ以外にも悪影響が生じます。たとえば銀行融資では過去の刑事罰(犯罪)の申告が求められます。罰金刑を受けたことがある場合は融資の審査にとおらないということがあります(虚偽の申告をして融資を受けたらこれ自体が詐欺罪にあたります)。なお、改正前の過料も同じような影響を生じることがありました。

制裁のコンプライアンスへの影響

債務者が刑事罰(や改正前の過料)を課された場合、一般的なレピュテーションリスク、資金に関する取引への影響が生じることがある
例=融資・助成金などを受けることができなくなる
詳しくはこちら|レピュテーション・リスク|村八分システム×無法地帯→官僚統治

5 和解成立(支払実現)への影響→20%程度は和解成立

財産開示手続は本来、債権者が情報を取得して、その情報を使って差押をする、その結果債権回収を実現する、という機能があります。ただ、実際には財産開示手続がきっかけとなり、自主的に返済する、つまり和解が成立するということもそれなりにあります。債務者に情報を開示させるのが制裁の目的ですが、実際には債務者が差押を受けるのは嫌だからそれ以前に返済しようと考える、ということもよくあるのです。

和解成立(支払実現)への影響→20%程度は和解成立

統計上20%程度は和解が成立している(改正前)
和解内容=債務を支払う(分割または一括)

6 関連テーマ

(1)債権回収における財産開示手続の活用の実例

債権回収の場面では、前述のように財産開示手続が役立つことがあります。事案によって、いろいろな工夫をすることで債権回収の可能性がアップします。実例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|債権回収での財産開示手続の工夫や活用の実例

(2)令和元年民事執行法改正

前述のように、令和元年の民事執行法改正で、財産開示手続の制裁が過料から懲役・罰金に変わりました。法改正については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|裁判所による債務者の財産調査に関する令和元年民事執行法改正

7 参考情報

参考情報

※園部厚著『実務解説 民事執行・保全 第2版』民事法研究会2022年p271〜274

本記事では、財産開示手続の制裁と実効性について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産開示手続など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【債権回収での財産開示手続の工夫や活用の実例】

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