【預貯金(債権)と仮想通貨の比較】
1 仮想通貨と債権の性格や預貯金との比較(総論)
2 『債権』の一般的定義
3 債権への該当性(預貯金と仮想通貨の比較)
4 仮想通貨の債権への該当性
5 仮想通貨と預貯金の消滅時効
1 仮想通貨と債権の性格や預貯金との比較(総論)
一般的な決済手段の性格として『債権』という性格のものもあります。
この点,仮想通貨は債権の性格がありません。
ところで,典型的な債権としては預貯金が挙げられます。
本記事では,仮想通貨についての債権の性格の検討や預貯金との比較について説明します。
2 『債権』の一般的定義
まずは債権の一般的な定義をまとめておきます。
<『債権』の一般的定義>
『ある者=債権者』が『特定の相手方=債務者』に対して
一定の行為(給付)をするように請求できる権利
※内田貴『民法3 債権総論・担保物権 第3版』東京大学出版会p4
3 債権への該当性(預貯金と仮想通貨の比較)
仮想通貨について,債権の性格の有無をまとめます。比較のために,預貯金の性格も含めて整理します。
<債権への該当性(預貯金と仮想通貨の比較)>
比較項目 | 仮想通貨 | 銀行預金 |
債権者 | 仮想通貨所持者 | 預金者 |
債務者 | (存在しない) | 銀行 |
請求する給付 | (存在しない) | 預金返還請求権 |
消滅時効(後記※1) | 適用なし | 適用あり |
4 仮想通貨の債権への該当性
前記のように,仮想通貨は債務者や請求する内容が存在しません。そこで『債権』の性格はないといえます。ビットコインを前提にして,この判断プロセスをまとめます。
<仮想通貨の債権への該当性>
あ 債権に該当しない根本的理由
『債務者』に相当する者がいない
い 『債務者不在』の根本的性質
特定の運営者・発行者がいない
=分散型システム
=中央集権型ではない
う 債務者に類似するもの
次のいずれも『関係者』ではあっても『債務を負う』立場にない
ア 中本哲史(なかもとさとし)氏
ビットコインの根本部分を作成したとされる人物
《同氏作成物》
・ビットコインプロトコル
・ソフトウェアBitcoin-Qt
イ P2Pシステムの参加者全員
ビットコインのシステム上『取引記録』は膨大な参加者が共有している
結局,現行法・解釈を前提にすると,仮想通貨を『債権』として捉えることは困難です。
5 仮想通貨と預貯金の消滅時効
債権という性質は消滅時効と関係します。仮想通貨と預貯金の比較を含めてまとめます。
<仮想通貨と預貯金の消滅時効(※1)>
あ 預貯金
ア 基本的事項
金融機関への返還請求権である
→消滅時効の対象となる
イ 事項期間
金融機関によって5年or10年である
詳しくはこちら|債権の消滅時効の期間(原則(民法)と商事債権・商人性の判断)
い 仮想通貨
発行母体がない
『請求権(債権)』という関係がない
→消滅時効の対象とならない