【仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の全体像】
1 仮想通貨の交換所の法規制の新設(概要)
2 仮想通貨の定義(概要)
3 仮想通貨交換業の定義(概要)
4 仮想通貨交換業の登録制度
5 登録の審査(基本)
6 登録の拒否要件
7 仮想通貨交換業の主要な行為規制
8 資金決済法・内閣府令の『業務』に関する条文
9 内閣総理大臣の調査権限
10 監督処分
11 犯罪収益移転防止法の義務
12 法令とガイドラインの情報ソース
1 仮想通貨の交換所の法規制の新設(概要)
仮想通貨に関連するサービスは開発・普及しつつあります。そして法整備も進められています。
詳しくはこちら|仮想通貨に関連するサービスと法規制(全体と賭博罪)
最初に法規制として具体化したものは改正資金決済法です。
本記事では,改正資金決済法の内容について説明します。
まずは,法規制の内容の基本的事項として,法令や公布・施行日などについてまとめます。
<仮想通貨の交換所の法規制の新設(概要)>
あ 法改正
平成28年6月に資金決済法が改正された
仮想通貨交換業の登録制度が作られた
い 施行日と特例期間
平成29年4月1日に施行された
平成29年10月1日までは特例期間が設定されている
一定条件のもと,登録なしで仮想通貨交換業が行える
詳しくはこちら|仮想通貨交換業の登録制度の施行日と平成29年10月までの特例期間
2 仮想通貨の定義(概要)
以下,改正資金決済法の内容を説明します。
最初に『仮想通貨』の定義の内容をまとめます。
<仮想通貨の定義(概要)>
あ 1号仮想通貨(決済機能からの定義)
『ア〜ウ』のすべてに該当するもの
ア 物品を購入するor借り受けるor役務の提供を受ける場合に,これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができるイ 不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(※1)であるウ 電子情報処理組織を用いて移転することができる
※資金決済法2条5項1号
い 2号仮想通貨(交換機能からの定義)
『ア・イ』の両方に該当するもの
ア 不特定の者を相手方として『あ』に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値(※1)であるイ 電子情報処理組織を用いて移転することができる
※資金決済法2条5項2号
う 『財産的価値』の補足説明
『財産的価値』(前記※1)とは
電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限る
本邦通貨・外国通貨・通貨建資産を除く
※資金決済法2条5項1号
詳しくはこちら|仮想通貨の定義と該当性判断の方法(改正資金決済法とガイドライン)
3 仮想通貨交換業の定義(概要)
改正資金決済法の規制の対象となるサービスは『仮想通貨交換業』です。『仮想通貨交換業』の定義の内容をまとめます。
<仮想通貨交換業の定義(概要)>
『仮想通貨交換業』とは,『ア〜ウ』のいずれかを業として行うことをいう
ア 仮想通貨の売買or他の仮想通貨との交換イ 『ア』の行為の媒介or取次ぎor代理ウ 『ア・イ』の行為に関して,利用者の金銭or仮想通貨の管理をすること
※資金決済法2条7項
詳しくはこちら|仮想通貨交換業の定義と判断の方法(資金決済法とガイドライン)
4 仮想通貨交換業の登録制度
仮想通貨交換業の規制の内容の大きなものは『登録制』です。
<仮想通貨交換業の登録制度>
あ 登録制度
内閣総理大臣への登録が必要である
※資金決済法2条7項,63条の2
い 主な登録要件
最低資本金=1000万円
純資産額がマイナスではない
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令9条
う 違反への罰則
登録を受けないで仮想通貨交換業を行った
法定刑=懲役3年以下or罰金300万円以下
併科あり
※資金決済法107条5号
5 登録の審査(基本)
仮想通貨交換業の登録の審査の基本的事項をまとめます。
<登録の審査(基本)>
次の『ア・イ』のいずれかに該当する場合
→登録は拒否される
ア 登録拒否要件
登録拒否要件(後記※1)のいずれかに該当する
イ 虚偽の記載・記載附則
登録申請書・添付書類の重要な事項について
虚偽の記載があるor重要な事実の記載が欠けている
※資金決済法63条の4第1項
6 登録の拒否要件
実質面で,登録が拒否される事情は多くのものが規定されています。
<登録の拒否要件(※1)>
あ 日本に所在する会社
株式会社or外国仮想通貨交換業者のいずれでもない
外国会社は日本国内に営業所を有するものに限る
い 国内の代表者
外国仮想通貨交換業者の場合
国内における代表者がない
代表者は国内に住所を有する者に限る
う 財産的基盤
仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する財産的基盤を有しない
基準は内閣府令で定める
え 事務遂行体制
仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない
お ルール遵守体制の整備
仮想通貨に関する資金決済法の規定を遵守するために必要な体制の整備が行われていない
か 商号の類似・誤認
『ア・イ』のいずれかの商号・名称を用いている
ア 他の仮想通貨交換業者が現に用いている商号・名称と同一イ 他の仮想通貨交換業者と誤認されるおそれがある
き 資金決済法に関する登録取消の処分歴
『ア・イ』のいずれかの処分から5年を経過していない
ア 資金決済法に基づく仮想通貨交換業の登録を取り消さたイ 資金決済法に相当する外国の法令の規定により当該外国において受けている同種類の登録を取り消された
登録に類する許可その他の行政処分を含む
く 資金決済法などに関する罰金の処分歴
資金決済法,出資法,これらに相当する外国の法令の規定に違反し,罰金の刑に処せられた
その刑の執行を終わりorその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過していない
け 他事業の反社会性
他に行う事業が公益に反する
こ 役員の欠格要件
『ア〜オ』のいずれかに該当する役員がいる
役員=取締役・監査役・会計参与・外国仮想通貨交換業者の国内の代表者
ア 成年被後見人,被保佐人イ 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者ウ 外国の法令上『ア・イ』のいずれかに相当する者エ 禁固以上の刑に処せられ,その刑の執行を終わりorその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者オ 資金決済法,出資法,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律,これらに相当する外国の法令の規定に違反し,罰金の刑に処せられ,その刑の執行を終わりorその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者カ 仮想通貨交換業者が資金決済法に基づく仮想通貨交換業の登録を取り消された場合or法人が資金決済法に相当する外国の法令の規定により当該外国において受けている同種類の登録を取り消された場合において,その取消日前30日以内にその法人の役員であった者で,当該取消日から5年を経過しない者
※資金決済法63条の5
仮想通貨交換業の登録の申請の手続や審査方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仮想通貨交換業の登録申請の全体像と申請書記載事項・添付書類
7 仮想通貨交換業の主要な行為規制
仮想通貨交換業の運用上の規制も多くの規定があります。行為規制のうち主要なものを整理します。
<仮想通貨交換業の主要な行為規制>
あ 情報の安全管理措置
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令12条〜
い 利用者財産管理(分別管理・区分管理)
ア 金銭の管理方法
次のいずれかにより保管する
・銀行への預金
・信託銀行への金銭信託
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令20条1項
イ 仮想通貨の管理方法
交換業者(or管理する第三者)と利用者の仮想通貨の明確な分離
仮想通貨と帰属する利用者が判別できる状態にする
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令20条2項
う 分別管理監査
毎年1回以上,会計士or監査法人による監査を受ける
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令23条
え 利用者財産の管理に関する報告書
3か月ごとに金融庁長官に提出する
残高証明書などを添付する
※仮想通貨交換業者に関する内閣府令30条
このうち金銭・仮想通貨の管理方法については,他の規制との比較など,改良する要請もあります。
詳しくはこちら|仮想通貨交換業の規制(改正資金決済法)に関する問題・課題
8 資金決済法・内閣府令の『業務』に関する条文
前記以外にも資金決済法には行為規制の規定があります。
条文上は5つの項目に分かれています。それぞれの内容について,内閣府令でさらに細かい内容が規定されています。
項目ごとに条文規定そのものをまとめてあります。
<資金決済法・内閣府令の『業務』に関する条文>
あ 情報の安全管理
詳しくはこちら|資金決済法63条の8(情報の安全管理)と内閣府令の条文規定
い 委託先に対する指導
詳しくはこちら|資金決済法63条の9(委託先に対する指導)と内閣府令の条文規定
う 利用者の保護等に関する措置
詳しくはこちら|資金決済法63条の10(利用者保護措置)と内閣府令の条文規定
え 利用者財産の管理
詳しくはこちら|資金決済法63条の11(利用者財産の管理)と内閣府令の条文規定
お 指定仮想通貨交換業務紛争解決機関との契約締結義務等
9 内閣総理大臣の調査権限
仮想通貨交換業は,行政の監督を受けます。その中の1つが内閣総理大臣の調査権限です。
<内閣総理大臣の調査権限>
あ 基本的事項
内閣総理大臣は次の調査を行うことができる
い 仮想通貨交換業者
仮想通貨交換業者に対する次の調査
ア 報告or資料の提出の命令イ 職員による営業所その他の施設への立ち入り調査ウ 職員による質問エ 職員による帳簿書類その他の物件の検査
※資金決済法63条の15第1項
う 外部委託業者
仮想通貨交換業者から業務の委託を受けた者に対する
『い』と同様の調査
※資金決済法63条の15第2項
10 監督処分
仮想通貨交換業者の監督として,各種の監督処分の内容が規定されています。
<監督処分>
あ 基本的事項
処分する機関=内閣総理大臣
仮想通貨交換業者に対して『い〜え』の処分をすることができる
い 業務改善命令
※資金決済法63条の16
う 登録取消・業務停止
ア 登録の取消イ 6か月以内の業務停止 ※資金決済法63条の17
え 登録の抹消
※資金決済法63条の18
お 監督処分の公告
一定の監督処分については公表(公告)する
※資金決済法63条の19
11 犯罪収益移転防止法の義務
仮想通貨交換業の規制は,改正資金決済法によるものだけではありません。犯罪収益移転防止法もこれに合わせて改正され,仮想通貨交換業の規制が設定されています。
<犯罪収益移転防止法の義務>
あ 『特定事業者』の定義への追加
『特定事業者』の定義について
仮想通貨交換事業者が追加された
※犯罪収益移転防止法2条31号
い 主な特定事業者の義務
マネーロンダリング対策の具体的内容が適用される
ア 口座開設時の本人確認義務
※犯罪収益移転防止法4条
詳しくはこちら|犯罪収益移転防止法による仮想通貨交換業者の取引時確認(本人確認)
イ 疑わしい取引の行政庁への届出義務
※犯罪収益移転防止法8条
なお,平成30年のコインチェック・NEM流出事件の後,疑わしい取引の判断・届出義務の適用や解釈の問題が生じています。
詳しくはこちら|仮想通貨交換業者のマネーロンダリング対策義務(盗難コインチェック義務)
12 法令とガイドラインの情報ソース
以上のように,改正された資金決済法として仮想通貨交換業の規制(ルール)ができました。
規制の細かい内容は,内閣府令が定めているものも多くあります。
さらに,金融庁の運用や解釈については事務ガイドラインとして公表されています。
これらの情報のソースをまとめておきます。
<法令とガイドラインの情報ソース>
あ 資金決済法
次の資料のp56〜の部分
外部サイト|金融庁|情報通信技術の環境変化対応法
い 仮想通貨交換業者に関する内閣府令
う 事務ガイドライン(仮想通貨交換業者関係)
本サイトでは『仮想通貨交換業者ガイドライン』と呼ぶ
外部サイト|金融庁|事務ガイドライン第3分冊
仮想通貨交換業の登録には多くの細かいルールや運用上の傾向があります。
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