【判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲】

1 判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲
2 判例理論の法律上の特別扱い
3 判例理論との相反と上告審(民事)
4 上告受理事由の「判例」の内容(民事)
5 判例理論との相反と上告審(刑事)
6 判例変更の手続
7 『前に最高裁判所のした裁判』の意味
8 法廷意見と補足意見の違い(参考・概要)

1 判例理論の法的扱い(上告との関係・判例変更の手続)と対象範囲

最高裁の判例は法律上特別な扱いがされています。ただし,特別扱いの対象は最高裁の判決や決定の全文ではありません。
本記事では,最高裁判例の法律上の扱いやその対象範囲について説明します。

2 判例理論の法律上の特別扱い

最初に,「判例」の特別扱いの全体的な事項をまとめます。

<判例理論の法律上の特別扱い(全体)>

あ 基本的事項

判例理論は法律上特別な扱いがなされる
具体的な内容は『い・う』である

い 上告審の審理

裁判所が『判例理論』に相反する判断をした場合
→上告審の審理が認められる(後記※1)(後記※2

う 大法廷による審理義務

最高裁判所が過去の『判例理論』に反する判断をする場合
→大法廷による裁判が必要となる(後記※3

3 判例理論との相反と上告審(民事)

判例理論の特別扱いの1つは上告に関するルールです。民事・刑事でルールが違います。
まずは民事訴訟法の上告における判例理論の扱いについてまとめます。

<判例理論との相反と上告審(民事)(※1)

あ 判例理論違反と上告受理事由

『ア・イ』について
→最高裁は上告審として事件の受理を決定できる
ア 判例理論違反 最高裁判所の判例と相反する判断がある事件
=判例理論違反と呼ぶ
イ 重要解釈 その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件
※民事訴訟法318条1項

い 判例理論違反を受理しない裁量

最高裁による上告受理は『義務』ではない
判例理論違反であっても受理しないことは可能である

う 判例理論違反以外を受理する裁量

判例理論違反がない場合でも
重要な解釈を含むと判断すれば
上告受理をすることは可能である

え 判例理論違反の判断と上告

『判例理論違反』に該当するか否かという判断について
→上告受理する/しない,の結論に直結するわけではない
→この判断自体が問題とならない傾向にある
※笠井正俊ほか『新・コンメンタール民事訴訟法 第2版』日本評論社p1089

4 上告受理事由の「判例」の内容(民事)

「判例」に反する判断は,上告受理事由の典型的なものですが,この「判例」には,傍論も含まれるという見解が示されています。

<上告受理事由の「判例」の内容(民事)>

(民事訴訟法318条1項の「判例」について)
厳密には主文の結論に不可欠な判断である「主論」をいうと解すべきところであるが,従来最高裁判所が「傍論」で重要な判断を示し,それが先例としての意味を持つことがあったという実情にかんがみると,特に最高裁判所の「判例」からは傍論における判断を排除することはできないと思われる。
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p1089

5 判例理論との相反と上告審(刑事)

刑事訴訟法の上告における判例理論の扱いについてまとめます。

<判例理論との相反と上告審(刑事)(※2)

あ 判例理論違反と上告理由

『最高裁判所の判例と相反する判断』
=判例理論違反と呼ぶ
→上告の申立をすることができる
※刑事訴訟法405条2号

い 上告の審理の義務

裁判所は上告理由の有無を審理する義務がある
上告理由=判例理論違反
※刑事訴訟法408条,410条

う 判例理論違反の判断と上告

『判例理論違反』に該当するか否かという判断について
→上告の審理の対象そのものとなる
→この判断は非常に重要なものである

6 判例変更の手続

1度作られた判例理論が後から変更されることもあります。判例変更のことです。
判例変更については裁判所法で大法廷の審理が必須とされています。

<判例変更の手続(※3)

あ 判例変更の手続の規定

『憲法その他の法令の解釈適用について,意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき』
→大法廷による裁判が必要となる
※裁判所法10条3号
『・・・裁判に反する』の意味→後記※4

い 『解釈・適用』・判例変更の意味

詳しくはこちら|裁判官の独立と判例理論による拘束と実務的な影響

う 大法廷を必須とする趣旨

判例変更を小法廷で裁判をすることを認めた場合
→裁判官全員が関与するものではない(え)
→法令の解釈に関する最高裁判所の裁判が区々に分かれる
=法的安定を害する
→判例の統一を図る必要がある
→大法廷で裁判をすることとした
※最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説上巻』法曹会1968年p89,90

え 大/小法廷の構成

大法廷は裁判官全員によって構成される
小法廷は裁判官全員が参加するものではない
※裁判所法9条2項

7 『前に最高裁判所のした裁判』の意味

判例変更では大法廷の審理が必要となります(前記)。変更のために大法廷が必須となるのは最高裁の判決・決定の全文が対象ではありません。過去の判例の中の傍論を変更するには,判例変更の手続は必要ではありません。過去の判例の傍論に反する判断でも上告受理事由となること(前述)とは違いますので注意が必要です。

<『前に最高裁判所のした裁判』の意味(※4)

あ 法律上の表記

『前に最高裁判所のした裁判』
→いわゆる判例理論のことである

い 大/小法廷の区別

大法廷・小法廷のいずれの裁判も含む
※最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説上巻』法曹会1968年p90

う 規範性を有する範囲

『前に最高裁判所のした裁判』の内容
→法廷意見(多数意見)のことである

え 規範性を有しない範囲

裁判の理由中に記載される『ア・イ』の内容
→『最高裁判所のした裁判』(あ)の内容にならない
ア 反対意見・補足意見イ 傍論・付加的判断 オビタ・ディクティムと呼ばれる
なお『傍論』かどうかの判断が明確でないこともある
※最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説上巻』法曹会1968年p91

8 法廷意見と補足意見の違い(参考・概要)

法廷意見(多数意見)とその他(補足意見)は似ているけれど大きく異なるのです。
個々の事案への影響力や実務での扱いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|裁判官の独立と判例理論による拘束と実務的な影響

本記事では,判例理論の法的な扱いについて説明しました。
実際には,個別的な事情によっては,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に判例理論の適用に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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