【重要事項説明義務の適用がないケース】
1 重要事項説明義務の適用がないケース
宅建業者が不動産取引に関与する時は重要事項説明が義務付けられています。
詳しくはこちら|重要事項説明義務の基本(説明の相手方・時期・内容)
しかし、あらゆる取引、あらゆる当事者への説明が義務付けられているわけではありません。
本記事では、宅建業者が不動産取引に関与していても重要事項説明義務がないケースを紹介します。
2 自ら賃貸と重要事項説明義務→否定
宅建業者が、土地や建物を自ら賃貸するケースを考えてみます。仲介(媒介・代理)ではなく、宅建業者自身が賃貸人となるケースです。
条文だけを読むと、この場合にも重要事項説明義務はあるように思えます。
しかしそもそも、このケースは宅地建物取引業ではありません。宅建業法の規制の対象ではないのです。
結論として、重要事項説明義務は適用されない、という解釈が一般的です。
自ら賃貸と重要事項説明義務→否定
あ 条文
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
・・・
※宅建業法35条1項
い 解釈
ア 逐条解説宅地建物取引業法
法35条1項の規定の文言からは、宅建業者がその所有する賃貸マンションの一室を借主に賃貸する場合に、借主に対して重要事項説明書を交付、説明しなければならないような誤解を与えるが、宅建業者が宅地建物を賃貸する行為は法2条2号にいう宅地建物取引に当たらず、「貸借の相手方」はいわゆる”空振り”の文言になっており法35条の適用はないと読むしかない。
しかし、宅建業者による宅地建物取引以外の行為に対する規制(法35条3項、50条の2の4)が設けられている現在においては文言の見直しが必要であろう。
※岡本正治ほか著『逐条解説 宅地建物取引業法 3訂版』大成出版社2020年p458
イ 不動産仲介契約
宅建業法35条1項の規定の表現をみると、宅建業者がその所有する賃貸マンションの一室を借主に賃貸する場合にも借主に対して重要事項を説明しなければならないような誤解を与えるが、宅建業法の規制対象は宅地建物取引に限られ、宅建業者が宅地建物を賃貸する行為は宅地建物取引にはあたらないため(2条2号、本書37頁)宅建業法の規制外の行為であって法35条1項の適用はない。
※岡本正治ほか著『詳解 不動産仲介契約 全訂版』大成出版社2012年p302
3 売主・賃貸人への重要事項説明義務→否定
重要事項説明は不動産の取得者(買主)や入居者(賃借人)に不動産の情報を提供するものです。そこで、宅建業法上、買主・借主だけが説明の対象となっています。つまり、売主や賃貸人への説明義務はありません。
ただし、売買の仲介では、売主にも重要事項説明を行うことも実際には多いです。
売主・賃貸人への重要事項説明義務→否定
あ 逐条解説宅地建物取引業法
ア 重要事項説明義務→否定
説明すべき相手方は買主、借主、交換により物件を取得しようとする者であって、売主、貸主は含まれない。
イ 実務の実情
しかし、取引条件に関する事項は、売主、貸主にとっても、当該契約締結の意思決定に影響を与える事項であるから、契約当事者双方に対して、同時に事前に重要事項説明書を交付、説明し理解させることが、取引紛争の予防につながるのみならず、透明性の高い適正な取引の確保の観点からも望ましい(明石ほか・詳解宅建業法[岡本]318頁、詳解不動産仲介契約302頁)。
最近の取引実務では、買主だけでなく売主に対しても重要事項説明書を交付、説明し、かつ当該説明内容の確認を受けるため両名が「受領欄」にそれぞれ記名押印するように、不動産業界団体会員(宅建業者)に指導している
(全国宅地建物取引業協会連合会版「重要事項説「明書の解説」32頁、331頁、不動産流通経営協会「FRK標準重要事項説明書解説書」I-2、Ⅲ-1頁)。
※岡本正治ほか著『逐条解説 宅地建物取引業法 3訂版』大成出版社2020年p459
い 不動産仲介契約
ア 重要事項説明義務→否定
宅建業法35条1項は、宅建業者が売買の売主、貸借の貸主に対して重要事項の説明を行うことを義務づけていない。
イ 実務の実情
なお、取引実務では、仲介業者の買主だけでなく売主に対しても重要事項説明書に基づいて説明を行いこれを交付する取扱いが増えてきている。
※岡本正治ほか著『詳解 不動産仲介契約 全訂版』大成出版社2012年p303
本記事では、重要事項説明義務が適用されないケースを紹介しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断が違ってくることもあります。
実際に宅建業法に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。