【データ消失事故に備えるべき法的根拠とは(講演)】

1 自己紹介
2 データ消失事故の法的責任と事故回避策との関係
3 データ消失事故の法的責任の理論・構造
4 データ消失事故の具体例(裁判例)
5 まとめ
6 関連コンテンツ

1 自己紹介

<自己紹介>

みずほ中央グループ(弁護士法人みずほ中央法律事務所)
代表弁護士 三平 聡史
1996年,早稲田大学理工学部資源工学科卒(修了)
2002年,弁護士登録
2007年,弁護士法人みずほ中央法律事務所を開設。代表弁護士となる。
サイエンス・テクノロジーに関する法的なトラブルやこれらを活用した新サービスの開発に関する法的サポートを行っている。
各種シェアリング・エコノミーのプラットフォーム開発や事業上の情報の管理などがその一例である。

2 データ消失事故の法的責任と事故回避策との関係

<データ消失事故の法的責任と予見可能性>

あ 実際の事故の責任の実質的な根拠

 『どういう対策を取れば回避できたのか』
 =予見可能性・損害発生回避可能性

い 対策をとるべき者

 ア サーバー運営業者
 イ システム開発業者
 ウ ユーザー企業(過失相殺)

う サービスのニーズ

 『事故の回避策の実行』はITを利用する企業の任務である
 =『事故の回避策』というサービスのニーズがある

え まとめ

『責任』は『予防策を取るべきだった』と同じ意味である

<システムのセキュリティレベルの基準>

あ セキュリティレベルの基準

 システム開発時の技術水準に沿ったセキュリティ対策を施す
 ※東京地裁平成26年1月23日

い システム納品後のリスク発生

 システムの納品・稼働開始後に新たなセキュリティホールが発覚した
 この攻撃により事故が発生した場合
 →システム開発業者は責任を負わない
 =発注企業の自己責任となる

う まとめ

現時点での既知のセキュリティだけのカバーで足りる

<セキュリティに関するユーザー企業の責務とニーズ>

あ ITを利用する企業の責任

 常に新たな手法による事故を回避する義務がある
 =継続的にシステムを改良する義務がある

い 社会的なニーズの存在

 常時新たなセキュリティホールを調査・把握する
 既存のシステムに対策を施す
 例;データ保護ソリューション
 ITを利用するすべての企業がこのような業務を必要としている

う まとめ

常時最新のセキュリティリスクへの対応が求められる

3 データ消失事故の法的責任の理論・構造

<事故の原因と責任を負う者>

あ 不正行為をした第三者

 意図的・違法な第三者によるクラック(不正アクセス)
 →刑事・民事(金銭賠償)の責任を負う
 →実際には回収できないことが多い

い 運用業者

 『過失』があれば責任を負う
 例;セキュリティ・人為的ミス
 約款上の免責の規定が適用されることもある
 ユーザーの落ち度により『過失相殺』がなされる

う まとめ

悪意ある第三者の攻撃を許した者も責任を負う

<事故の種類と損害(全体)>

あ システムの稼働停止

 販売の機会損失

い データの消失

 復元に要する業務の発生

う データの流出

 プライバシー侵害
 DM送付を誘発した事例
 クレジットカード情報の漏洩→不正使用

え まとめ

販売の機会損失が大きい

<法的な責任の内容>

あ 損害賠償責任

損害額相当の賠償金の支払い

い まとめ

損害を金額として算定することになる

<約款の有効性>

あ 約款の有効性の基本

 約款に責任の制限(免責)があることが多い
 合理性を欠く内容は無効となることがある
 ユーザーが消費者でない場合でも無効となることがある

い 典型的な免責条項

 ユーザーによるバックアップ義務
 バックアップ不備による損害の責任一部or全部の免除
 運営業者の責任を『故意・重過失』に限定する
 『既払いの利用料金の総額』を賠償額の上限とする

う 重過失の意味

 著しい注意義務違反
 →結果の予見の容易性+結果の回避の容易性

え まとめ

合理性を欠く責任制限条項は無効となることがある

<過失相殺>

あ 過失相殺の基本

 ユーザー側の損害発生回避の可能性が認められる場合
 過失相殺が認められる
 運営業者の賠償額がディスカウントとなる

い 過失相殺の判断基準

 ア ユーザー/保管業者の役割分担
  特に『バックアップ作業』がどちらに分配されているか
  =コストとサービス内容の設定という意味である
  例;バックアップ自体をサービス内容とする
 イ 個別的なユーザーへの注意・伝達内容

う まとめ

ユーザー自身がバックアップしていないことで減額されることもある
ユーザーのセキュリティ対策不足で減額されることもある

<損害額の算定>

あ 損害額の算定

 客観的に正確な計算(判断)ができないことがある
 →救済措置として,裁判所の裁量による判断が可能である
 ※民事訴訟法248条

い まとめ

正確な算定ができないことも多い

4 データ消失事故の具体例(裁判例)

<ミスによるサーバーのデータ消失の裁判例>

あ 事故の概要

 共用サーバーのメンテナンス作業中のミス
 ECサイトのデータ消失が生じた

い 損害の算定

 ア 再構築費用
 イ 逸失利益(収入の減少)
  3か月分のホームページ経由の売上のうち利益相当額

う 過失相殺

 事故の前から,官庁を含め,各種サイトへのハッキング事故が多発していた
 ユーザーはバックアップを行っていなかった
 過失相殺は5割と判断された

え 賠償額

 損害額約1470万円×過失相殺5割減額
 →賠償額約740万円
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

<経年劣化によるサーバーのデータ消失の裁判例>

あ 事故の概要

 共用サーバーについて
 サーバー機器の経年劣化によりデータが消失した
 ECサイトのプログラム・顧客情報が消失した

い 約款の責任制限規定

 サーバー業者の責任を『重過失』に限定する
 →有効である

う サーバー機器の機種・購入経路

 サーバー機器について
 →普及している有名メーカーの機種である
 保管業者は正規代理店から購入した
 耐用年数の範囲内である

え サーバーのメンテナンス

 サーバの運用・管理は適切であった
 ア 管理施設において入退室管理・空調管理を行っていた
 イ サーバー機器の保守・管理を行っていた

お データ消失リスクの存在と対策の容易性

 一般的にサーバーは障害によるデータ消失が生じるリスクがある
 データ・プログラムは容易に複製・バックアップをすることができる
 →ユーザーが復旧のための対策を講じることは容易である

か バックアップサービスとの比較

 オプションとして有償のバックアップサービスが用意されていた
 ユーザーはバックアップサービスを契約(購入)していなかった

き 結論

 サーバー運営業者に重過失はない
 →賠償責任はない
※東京地裁平成21年5月20日;ねこじゃらし事件

<SQLインジェクション事件の裁判例(流出事故)>

あ 概要

 ECサイトのシステム開発の発注がなされた
 第三者によるSQLインジェクション攻撃がなされた
 その結果,顧客情報が流出した
 クレジットカード情報7000件以上の漏洩の可能性があった

い セキュリティレベルの一般的基準

 システム開発時の技術水準に沿ったセキュリティ対策を施す

う システム開発業者の重過失の根拠

 当時,SQLインジェクションの実例・対策が普及していた
 ア 経済産業省のアナウンス
  平成18年2月20日
  『個人情報保護法に基づく個人データの安全管理措置の徹底に係る注意喚起』
 イ IPAのアナウンス
  平成19年4月
  『大企業・中堅企業の情報システムのセキュリティ対策~脅威と対策』
 →システム開発業者に重過失が認められた

え ユーザー側の過失(相殺)

 開発業者はユーザー企業にセキュリティの問題を指摘していた
 システムの改修の提案を行っていた
 ユーザー企業は対策を講じなかった
 →3割の過失相殺が認められた

お 主な損害
顧客への謝罪関係(QUOカード) 約1860万円
コールセンターの設置 約490万円
調査費用 約390万円
売上損失 400万円
合計 約3230万円
か 賠償額

 損害額約3230万円×過失相殺3割減額
 →賠償額約2260万円となった
※東京地裁平成26年1月23日

5 まとめ

<データ消失対策の責任>

あ データ消失の要因による区別

 ア 人為的ミス→サーバー側の責任
 イ 経年劣化→ユーザー側の責任

い データ保管の不確実性

 サーバー・クラウドでのデータ保管について
 『データが消失しない保証』はない
 『バックアップ』はユーザーの義務である

う ユーザーの具体的対応

 ユーザー企業内で定期的バックアップを履行する
 バックアップ業務を外注する

え セキュリティ対策との関係

 セキュリティの不備によって
 データ消失や流出が生じる実例もある
 継続的な対策の履行が必要である

6 関連コンテンツ

詳しくはこちら|データ消失事件・メンテナンス作業ミス|判例
詳しくはこちら|機器の経年劣化によるデータ消失事故の裁判例(ねこじゃらし事件)
詳しくはこちら|脆弱性による情報流出と開発業者の責任(SQLインジェクション事件)
詳しくはこちら|個人情報漏洩・流出の民事的責任|実例|賠償金額基準・相場
詳しくはこちら|ファーストサーバー事件・データ消失|公表判例以外
詳しくはこちら|デオデオ・HDDデータ消失事件|データ消失・損害算定|過失相殺
詳しくはこちら|業務上のクラウド利用|個人情報保護法・会社法・上場関連規則・オンライン文書保存

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【建物の一部の改築の承諾料(財産上の給付の裁判例集約)】
【建物の『滅失』と再築(築造)の解釈とバリエーション(新旧法共通)】

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