【子供向け自治体ツアーなどへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)】
1 自治体ツアー運用緩和通達のソース
2 緩和する運用(解釈)の範囲
3 自治体のツアーが旅行業法の適用を受けない条件
4 安全・旅行目的の確保のための留意事項
5 自治体ツアーで認められる例
6 解釈の妥当性や行政肥大化・官僚統治の問題(参考)
1 自治体ツアー運用緩和通達のソース
自治体などが行う子供向けツアーが旅行業法に抵触するという指摘をして大きな問題となったことがあります。
詳しくはこちら|NPOや自治体のツアーやバス手配は旅行業法違反の可能性あり(実例)
旅行業法の解釈としても,現実的な妥当性としても不合理であると思います。
そこで,平成29年7月に,国交省(官公庁)が,従来の運用(解釈)を緩和する通達を出しました。
本記事では,この通達について説明します。
最初に,通達の情報ソースをまとめておきます。
<自治体ツアー運用緩和通達のソース>
あ 日付・発信者
観観産第173号
平成29年7月28日
観光庁参事官(産業政策担当)
い タイトル
自治体が関与するツアー実施に係る旅行業法上の取扱いについて(通知)
本記事では『平成29年自治体ツアー通達』と呼ぶ
う 情報ソース
なお,同じ日に,ボランティアツアーへの旅行業法の適用を緩和する通達も出されています。
詳しくはこちら|ボランティアバスへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)
2 緩和する運用(解釈)の範囲
通達の冒頭の部分で,適用する,つまり緩和によって適法として扱うツアーの範囲を明言しています。
<緩和する運用(解釈)の範囲>
自治体がツアーの実施に関与する場合のうち
自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与し,かつ,営利性,事業性がないものであれば
旅行業法の適用がないと解される
※平成29年自治体ツアー通達・前文
3 自治体のツアーが旅行業法の適用を受けない条件
通達では,自治体ツアーが旅行業法の適用を受けない条件を設定しています。
<自治体のツアーが旅行業法の適用を受けない条件(※1)>
あ 全体的な条件
『ア・イ』の両方に該当する場合
→旅行業法の適用を受けない
ア 自治体が実質的にツアーを企画・運営するイ 営利性,事業性がない
この裏付けとして『い』のすべてが当然に求められる
い 営利性・事業性を否定する条件
ア 収支マイナス
参加者から徴収する金銭では収支を償うことができない
徴収する金銭は参加費などの名目を問わない
イ 反復継続性なし
日常的に反復継続して行われるものではない
ウ 不特定多数への募集なし
不特定多数の者に募集を行うものではない
※平成29年自治体ツアー通達『1』
4 安全・旅行目的の確保のための留意事項
通達では,ツアーを遂行する上での留意事項も明記されています。
なお,これは適法となる(旅行業法の適用を受けない)条件という意味では記載されていません。
通達には,この留意事項を踏まえてツアーを実施するようにお願いすると記載されています。
少なくとも適法性と直接的に関係しない,任意の要請という位置づけと読めます。
<安全・旅行目的の確保のための留意事項>
あ 全体的な説明
安全と旅行目的を確保するための留意事項として
『い〜か』のような措置が挙げられる
い 責任者設置義務
旅行の企画・募集の段階から責任を持って遂行できる責任者を置く
う 法令把握義務
責任者は催行しようとする旅行に関する法令について確実な知識を持つ
え 判断能力保持義務
責任者が旅程が安全面において問題なく,かつ旅行目的を達成していると判断する能力を有する
お リアルタイム連絡確保義務
旅行中に連絡が取れる責任者を置く
か 損害保険加入義務
事故発生時の損害賠償に備えた措置を取る
例=損害賠償責任保険加入
※平成29年自治体ツアー通達『2』
5 自治体ツアーで認められる例
通達の最後に,自治体が関与するツアーで認められる例というタイトルの表がつけられています。
通達の本文で引用や紹介をしていないので,浮いているような状況です。
敢えていえば,前記※1の適法となる条件の中の項目の具体例といえるでしょう。
しかし,その項目と合致しないものもあります。
あくまでも例であり,これに合致しないと違法となる,というものとは読めません。
<自治体ツアーで認められる例>
対象 | 頻度 | 1回の参加費 | 形態 | 主体 |
市内の小中学生 | 年1回 | 5000円 | バス移動+宿泊 | 教育委員会 |
町内の小学生高学年〜高校生 | 年1回 | 3000円 | バス移動+宿泊 | 教育委員会 |
市内の小学生 | 年1回 | キャンプ代(1000円) | バス移動+キャンプ | 教育委員会(任意団体に委託) |
市周辺居住の独身の男女 | 年数回 | 昼食代+体験料(男性5000円,女性4000円) | バス移動+体験 | 市役所(一般社団に委託) |
6 解釈の妥当性や行政肥大化・官僚統治の問題(参考)
平成29年自治体ツアー通達について説明してきましたが,そもそもの根本的な問題があります。
まず,行政の判断(通達)で,法律の解釈が事実上決めるということは司法の機能を横取りした状態といえます。
いわゆる官僚統治と呼ばれる,あらゆる産業でみられる現象です・
詳しくはこちら|行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業
また,この通達の内容としては,主催者を自治体に限定しているところは法律との整合していないと思います。
自治体以外でも,営利や反復継続性が否定されることはあり得ます。
この通達は,自治体以外が主催するツアーは営利性や反復継続性がなくても違法となり得るように読めるものです。
実際にこのような理解を前提にした行政指導も行われています。
詳しくはこちら|NPOや自治体のツアーやバス手配は旅行業法違反の可能性あり(実例)
法に沿った運用に改めることが望まれます。