【訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる】
1 訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる
民事訴訟法には特別代理人を選任するという制度があります。状況によっては、とても効率的に解決を実現することができます。
本記事では、特別代理人の選任の制度の全体的な説明をします。
2 特別代理人の制度の趣旨
まず、特別代理人の制度の趣旨を説明します。
たとえば、認知症になって意思能力がない者に対して訴訟を提起する状況を想定します。
本来であれば、この者に後見人をつける、つまり、家庭裁判所に、後見開始の審判の申立をすることになります。後見人がつけば、後見人に対して訴訟を提起できます。
しかし、後見人の選任は一定の時間がかかりますし、また、申立をすることができる人は親族などに限定されています。
そこで、訴訟手続の範囲内で被告の代理人として動ける人(特別代理人)をつける(選任する)という制度があるのです。
原則的な手続(後見開始の審判)よりも大幅に負担(手間・時間・費用)の小さい、特殊な手続を用意した、ということです。
特別代理人の制度の趣旨
あ 訴訟無能力
未成年者・成年被後見人は訴訟能力がない
法定代理人によらなければ訴訟行為を行うことができない
※民事訴訟法31条
い 訴訟無能力者の相手方が受ける弊害
訴訟無能力者(あ)に法定代理人がいないorいても代理権を行使できない場合
→訴訟無能力者を相手方として緊急に訴訟行為をしようとする者は困る
→特別の法定代理人により訴訟行為を可能とする
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
3 特別代理人の選任要件の内容(概要)
特別代理人の制度が使えると、大幅に手間や時間を削減できるのですが、どういった状況であれば使えるのでしょうか。典型例は、被告となる者に意思能力(判断能力)がない状況です。しかし、原告と被告(となる者)が親族の関係にある場合には特別代理人の選任が認められないことがあります。
一方、法人やその他の団体を被告とするケースで、代表者がいないような場合にも特別代理人の制度が使えることがあります。
このような特別代理人の選任の要件については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民事訴訟法の特別代理人の選任の要件の内容と解釈
4 特別代理人の選任手続全体の流れ
特別代理人を選任する手続の流れ全体をまとめます。
特別代理人の選任手続全体の流れ
あ 申立
書面or口頭で申し立てる
※民事訴訟規則1条
い 疎明
申立人は選任要件となる事情を疎明する
う 裁判所の判断(肯定)
裁判長が選任要件を満たすと判断した場合
→裁判長の命令として特別代理人を選任する
※民事訴訟法35条1項
え 裁判所の判断(否定)
申立が不適法or理由がないと判断した場合
→裁判長は却下命令を出す
申立人は抗告することができる
※民事訴訟法328条
5 特別代理人の選任の申立人(全体)
特別代理人の選任を申し立てることができる者の立場は、訴訟の当事者になる予定の者とそれ以外(利害関係人)の2つがあります。
特別代理人の選任の申立人(全体)
あ 訴訟の当事者(予定者)
訴訟無能力者(未成年者or成年被後見人)に対して訴訟行為をしようとする者
い 利害関係人(概要)
訴訟を提起しようとする者の利害関係人について
→特別代理人の選任を申し立てることができる(後記※1)
6 原告(予定者)の訴訟無能力への類推適用
本来、特別代理人の選任を申立てるのは、訴訟無能力者の相手方です。
しかし、最高裁は、原告となる予定の訴訟無能力者について、利害関係人からの特別代理人選任の申立を認めています。
原告(予定者)の訴訟無能力への類推適用(※1)
あ 条文規定との整合性
原告予定者が訴訟無能力の場合
→条文規定では含まれていない
い 類推適用
法定代理人を選任により遅滞のため損害が発生するおそれは同じである
条文の文言を例示として捉える
→特別代理人選任の規定の類推適用を肯定する
う 利害関係人による特別代理人選任申立
訴訟を提起しようとする者の利害関係人は
特別代理人の選任を申し立てることができる
※判例・多数説
※大判昭和9年1月23日(法人の代表者不在)
※最高裁昭和41年7月28日(法人の代表者不在)
7 特別代理人として選任される者
特別代理人として実務で選任される者は、通常、本人の親族・家族か特に関係のない弁護士です。
特別代理人として選任される者
あ 条文規定
条文には誰を選任するかに関する規定はない
い 選任される者の実情
通常、裁判所は、『ア・イ』のどちらかを選任する
ア 無能力者本人と関係の深い者イ 弁護士
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
8 特別代理人の地位
特別代理人の地位は、特定の訴訟に限っての法定代理人というものです。
元の訴訟に派生する手続についても拡大的に権限の範囲となります。
特別代理人の地位
あ 基本的な権限
法定代理人に代わる代理人である
特定の訴訟に関し、法定代理人と同一の権限を有する
→訴訟を追行するのに必要な一切の訴訟行為ができる
い 訴えの変更、参加訴訟への応訴
訴えの変更、参加訴訟に対し応訴もできる
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104、105
う 請求の認諾、和解
請求の認諾、訴訟上の和解をするためには
特別授権が必要である
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p105
え 後見監督人からの特別授権
後見監督人がいる場合
→特別代理人は訴訟行為をするについて特別授権が必要である
※民事訴訟法35条3項
本記事では、民事訴訟法の特別代理人の選任に関する全体的な説明をしました。
実際には、個別的事情によって扱いが違うということもよくあります。
実際にこの手続の利用をお考えの方は、本記事の内容だけで判断せず、法律相談をご利用くださることをお勧めします。