【行政刑罰(事業主処罰規定)の『事業主』の判断基準】

1 事業主処罰規定の事業主の判断基準
2 事業主の処罰根拠と基本的な意味
3 事業主の判断基準と判断要素
4 名義貸しと事業主の判断
5 名義貸しと許可取得者を対象とする規制の関係
6 業務委託(下請け)と事業主の判断
7 共同の事業における事業主の判断
8 事業主の立場解消と法的責任の関係
9 処罰対象の事業主の判断の具体例(ピクセルC事件)

1 事業主処罰規定の事業主の判断基準

いろいろなサービスの提供に関する業法では,違反に対する罰則(行政刑罰)が規定されています。
詳しくはこちら|行政刑罰(事業主処罰規定)は刑法の原則とは違う特殊性がある
行政刑罰では事業主が処罰の対象となっているものが多いです。
本記事では事業主の判断基準や判断の方法について説明します。

2 事業主の処罰根拠と基本的な意味

事業に関する違反があった時に事業主を処罰するという根本的な理由は,管理不行届きです。
このことから,事業主とは,従業者を統括する立場にある者のことをいいます。

<事業主の処罰根拠と基本的な意味>

あ 事業主の処罰根拠

事業主を処罰する実質的な根拠は
従業者の監督不行届きである

い 事業主の基本的な意味

経営主体として事業の経営にあたり
事業に従事する者の集団を団体として統括する立場にあるものである
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p143

3 事業主の判断基準と判断要素

具体的に,事業主に該当する基準は自己の計算において事業を経営するというものです。
そして,経済的な収支の帰属やサービス・労務の管理といった事情(要素)から判断します。
抽象的ですが,ほぼ統一的な見解です。
実際には,これに該当するかどうかがはっきりしないというケースがとても多いです。

<事業主の判断基準と判断要素>

あ 事業主の基本的判断基準

自己の計算においてその事業を経営している者である
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144
※大判大正14年9月18日参照
※大判昭和17年9月16日参照

い 事業主の具体的判断要素の例

ア 収支の帰属イ サービス提供の管理 運送事業では運行管理である
ウ 労務管理 ※大阪地裁平成2年9月14日;運送事業の主体について
詳しくはこちら|いろいろな運送サービスの実例と運送事業(タクシー業)への該当性

4 名義貸しと事業主の判断

いわゆる名義貸しのケースでは,誰が事業主に該当するのかがあいまいになりがちです。
解釈としても見解が分かれています。

<名義貸しと事業主の判断>

あ 名義貸しの内容

Aが事業の許可を得ている
AがBに名義を貸した
実質的にBが事業を遂行している

い 許可名義人の『事業主』該当性

許可名義人Aについて
事業主に該当する・しないという両方の見解がある
ア 肯定する見解 ※大判昭和9年4月26日
※大判大正8年5月12日
イ 否定する見解 ※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144参照

5 名義貸しと許可取得者を対象とする規制の関係

行政刑罰には許可などの取得者を対象としているものが多いです。
そうすると,許可を受けずに営業する者は処罰の対象になりません。
当然,無許可営業としては,処罰の対象となります。

<名義貸しと許可取得者を対象とする規制の関係>

あ 許可を受けた者を対象とする規制

『許可を受けた者』が行政法規の義務の主体となっていることが多い

い 名義を借りた者への適用なし

名義貸しのケースにおいて
名義を借りた者については『あ』の違反が成立しない
無許可の営業などの違反に該当する
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144

無許可の業者は,主要な行政刑罰の対象外となるとともに,行政による調査の対象からも外れることが多いです。
詳しくはこちら|無許可業者強化現象|行政調査権限対象外×刑事的検挙ハードル

6 業務委託(下請け)と事業主の判断

多くの実際の事業では,業務委託によって役割分担をして効率化を図っています。
業務委託の関係があると,誰が事業主か,ということがはっきりしないことも生じます。
下請け業者の従業者が行っている業務は,下請け業者の事業です。下請け業者が事業主です。
ただし,例外的な扱いもあります。

<業務委託(下請け)と事業主の判断>

あ 業務委託の当事者

AがBに業務を委託した
A=元請け
B=下請け
C=Bの従業者

い 原則

元請けAは,下請けの従業者Cとの関係では事業主にはならない

う 例外

Cが実質的に元請けAの従業員である場合
=業務委託(下請け)がまったく名目にすぎない
→元請けAが事業主となる
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144

なお,下請け業者が遂行する業務(受注業務)が,許可を要する業務かどうかはまた別の問題です。

7 共同の事業における事業主の判断

複数の事業者(会社)が1つの事業に関わるのは,業務委託だけではありません。
対等な関係で事業を遂行する方式も多くあります。
いわゆる共同事業です。
関与する事業者のすべてが事業主になります。

<共同の事業における事業主の判断>

あ 共同事業

AとBの共同事業
=AとBが共同して事業を行っているといえる状態

い 両方が事業主となる状況

それぞれの従業者に対する指揮命令について
A・Bで明確に区分されている場合
→A・Bそれぞれが事業主となる
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p144

なお,それぞれの業者が遂行する業務が,許可を要する業務かどうかはまた別の問題です。

8 事業主の立場解消と法的責任の関係

例えば,事業譲渡によって,事業主が入れ替わるということもよくあります。
すでに事業主ではなくなっていても,事業主であった時点で発生した違反の責任は消えるわけではありません。

<事業主の立場解消と法的責任の関係>

あ 違法行為

Aが事業主である間に違反行為があった
行政刑罰が成立した

い 事業主の立場解消

その後,Aは事業主でなくなった

う 事業主としての法的責任

事業主処罰規定の適用を免れるものではない
※大判昭和18年3月24日

9 処罰対象の事業主の判断の具体例(ピクセルC事件)

誰(どの会社)を事業主として処罰するかを判断したケースとしてピクセルC事件があります。
旅館業(民泊)の代行に過ぎないはずでしたが,(旅館業の)事業主として検挙されたのです。
裁判所の判断ではなく捜査機関の判断ですが,原則から外れる判断です。
特殊な事情があったのかもしれません。
詳しくはこちら|民泊サービス代行業の検挙事例(平成28年7月ピクセルC事件)

本記事では,行政刑罰(事業主処罰規定)における事業主の判断について説明しました。
実際の事案における罰則の適用に関しては,本記事の説明内容だけで判断できるわけではありません。
実際の問題に直面している方や,新規サービスの提供を検討している方は,弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【行政刑罰(事業主処罰規定)は刑法の原則とは違う特殊性がある】
【行政刑罰の従業者の判断や責任と事業者の責任との関係(両罰規定)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00