【夫婦間の証拠争奪戦と違法収集証拠(メール・手紙など)】
1 夫婦間での熾烈な証拠争奪戦・獲得合戦|ご注意・免責事項
夫婦間では離婚原因を疑われる場合に、証拠獲得の努力、が行われることがあります。
詳しくはこちら|3大離婚原因;不貞行為;裁量棄却、風俗、STD、自由意思なし、立証
一定の身内という感覚から、行き過ぎた証拠獲得が生じることがあります。
本記事では『証拠獲得方法の不正』による法的効果・影響をまとめます。
ご注意・免責事項
あくまでも客観的な判例・法解釈の説明を極める趣旨です。
具体的事情によっては民事・刑事的な責任が生じることがあります。
当事務所は本記事に基づく行動についての責任を負いません。
具体的な事案については法律相談をご利用されることをお勧めします。
2 証拠獲得の不正による証拠能力の制限
証拠の入手方法が不正だと証拠能力が否定されることもあります。
ただし、民事訴訟での基準は緩いと言えます。
証拠獲得の不正による証拠能力の制限
証拠獲得プロセス | 証拠能力 | 証拠としての利用 |
通常・原則 | あり | 証拠として排除されない=利用できる |
極端な不正・違法 | なし | 証拠として排除される=利用できない |
民事訴訟法には証拠能力についての規定がありません。
解釈上、前記のような扱いがなされています。
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の証拠能力(理論・基準)
3 証拠獲得の不正による慰謝料・刑事罰(犯罪)
証拠獲得のための不正な方法は証拠能力以外のペナルティの対象となります。
犯罪に該当するため、刑事責任を追及される、慰謝料請求が認められるというものです。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|メール、手紙を見られたことへの法的救済;犯罪、慰謝料、証拠能力
4 夫婦間のメールの無断撮影→証拠能力肯定方向
証拠能力の判断の傾向について類型ごとに説明します。
夫婦間のメールの無断撮影→証拠能力肯定方向
あ 事例
妻が夫のメールを妻が無断で見た
これを撮影して、写真を証拠にしたい
い 法的評価
携帯電話は夫婦共通のものではない
夫個人のものである
→プライバシー権や人格権の侵害になる
う 裁判所の判断傾向
ア 原則
証拠能力あり
イ 例外
極端な『不正・違法』がある
→証拠能力が否定される
実際にはこの原則か例外かという見解で大きな対立が生じます。
具体的事情については次に説明します。
5 メールの無断撮影における証拠能力肯定方向の事情
メールの証拠能力について、具体的な事情の判断をまとめます。
メールの無断撮影における証拠能力肯定方向の事情
あ 基本事項
『不正・違法』の程度が小さい限り『証拠能力』が認められる
次のような『不正・違法の程度が小さい』事情の典型例がある
い 同居している親族間
『侵入』に当たらないor当たるとしても軽微である
う 暴力を用いていない
比較的平穏な態様と言える
実務では証拠上『暴力が認められない』とケースも多い
え 無断での情報取得の必要性が高い
例;相手方が行方不明など
※東京地裁平成18年6月30日
※東京地裁平成17年5月30日
6 暴力あり→証拠能力否定方向(概要)
夫婦で物理的に携帯電話(スマホ)を取り上げたと主張されたケースがあります。実際にその暴力が証拠で裏付けられれば、携帯電話は証拠能力がないことになるはずです。ただしこのケースでは暴力の証拠がなかったため、結局、携帯電話の証拠能力は否定されませんでした。
暴力あり→証拠能力否定方向(概要)
あ 事案
同居している妻が不倫している疑いが生じた
妻は頻繁に携帯電話(スマホ)でメールをしていた
夫が妻にその場で問いただして、携帯電話を見せるように言った
妻が抵抗して、夫婦で揉み合いになった
最終的に半ば強引に夫が携帯電話を取り上げた
夫がメール内容を撮影した
い 裁判所の判断
暴力・暴行の証拠がない
→証拠能力を認めた
※東京地判平成18年6月30日
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の具体例(裁判例)
7 住居に侵入して盗み出した→証拠能力否定(概要)
夫婦ではあっても別居中の場合に、相手の住居に侵入したケースがあります。
住居に侵入して盗み出した→証拠能力否定(概要)
あ 事案
夫婦の関係が悪化し、別居していた
妻は夫が不倫していると疑っていた
妻が夫の住居に忍び込んで手帳・ノートなどを盗み出した
い 対象物=特殊事情
訴訟遂行に関する依頼した弁護士との打ち合わせ用のメモ
→機密性(密行性)が非常に高い
う 裁判所の判断
証拠能力を否定した
※東京地判平成10年5月29日
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の具体例(裁判例)
このようなケースでは、証拠能力が否定される可能性があります。
夫婦とは言え、別居している場合は、私生活は基本的にセパレートになります。
それぞれのプライバシーは、一般的な同居の親族よりもより保護されることになります。
そこで、侵入して証拠を獲得した場合、その違法性は一定程度高いと言えます。
この判例では『対象物の特殊性』も『違法性を高める事情』として考慮されています。
8 郵便受けから手紙を抜き取り→証拠能力否定方向
相手の住居の郵便受けから手紙を抜き取った、という事例を紹介します。
この場合、証拠能力なし、と判断される傾向にあります。
郵便受けから手紙を抜き取り→証拠能力否定方向(概要)
あ 事案
夫が不倫相手(婚外女性)用に住居を確保していた
この住居に夫宛の手紙が届いていた
妻が郵便受けからこの手紙を無断で抜き取った
い 特殊事情
夫・妻は同居していた
夫は婚外女性を妻に隠していなかった
う 裁判所の判断
証拠能力を認めた
※名古屋地判平成3年8月9日
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の具体例(裁判例)
え 判断の方向性
同居がなかった場合であれば
→違法性が高い
→証拠能力を否定する方向性
このケースでは特殊事情が考慮されています。
逆に妻と夫が別居していた場合であれば、証拠能力が否定された可能性もあります。
9 夫婦間における違法収集証拠の証拠能力のまとめ
夫婦間で『不当』な方法で証拠の獲得が行われることは結構あります。
『違法収集証拠』であっても、必ずしも『証拠能力なし』として排除されません。
証拠を取られた側としては『法による保護』『違法な攻撃(行為)からの防御』が弱い状態です。
裁判所の判断が『証拠争奪戦』を助長してしまう、不合理な状況です。
『証拠能力』の判断の傾向について法則化してまとめます。
夫婦間における違法収集証拠の証拠能力のまとめ
本記事では、夫婦間の証拠争奪に関する問題を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に夫婦間の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。