【MTGOX破産手続におけるビットコイン返還請求権(BTC建て債権)の評価と不合理な配当】

1 MTGOX破産手続における『BTC建て債権』の評価と配当
2 ユーザーの権利の評価(日本円換算)
3 MTGOX破産手続における債権の調査
4 債権者(ユーザー)への配当の基本的ルール
5 配当原資と配当すべき金額の逆転現象
6 破産者(会社)に残った財産の行方
7 MTGOXの株主への分配の内容
8 不合理な配当の正常化の発想・実現可能性(概要)

1 MTGOX破産手続における『BTC建て債権』の評価と配当

MTGOXという仮想通貨交換業者の破産手続が進んでいます。
債権者には,ビットコイン(BTC)を預けていたユーザーが多数含まれています。
法的には,ビットコイン返還請求権(BTC建て債権)を持つ債権者ということです。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコインと返還請求権の法的扱い
このようなユーザー(債権者)が受ける配当はどのようなものになるのか,について本記事で説明します。

2 ユーザーの権利の評価(日本円換算)

ユーザーが持っているBTC建て債権は,破産手続上,日本円に換算します。
換算する時期(使うレートの基準時)破産手続開始決定時となります。
現時点(平成29年12月)となっては,とても低かった時期のレートを使うことになります。

<ユーザーの権利の評価(日本円換算)>

あ 破産法上の扱い

ユーザー(破産債権者)が持つビットコイン返還請求権について
非金銭債権(物の引渡請求権)or外国通貨建ての債権として扱ったと思われる
いずれも同様の結果(い)となる
詳しくはこちら|破産債権の額の評価・確定(金銭化)と配当の順位・平等性

い 具体的な評価(日本円換算)の方法

破産手続開始時のレートで日本円に換算する
これを破産債権の額とする

3 MTGOX破産手続における債権の調査

手続としては,債権者の債権の評価をする手順が決まっています。
MTGOX破産手続では,平成28年5月25日に債権調査期日が開かれました。

<MTGOX破産手続における債権の調査>

平成28年5月25日債権調査期日
破産管財人が届出債権について認否をした
外部サイト|MTGOX|債権認否結果に関するご連絡

4 債権者(ユーザー)への配当の基本的ルール

債権者への配当については,破産法にしっかりとしたルールが作られています。
日本円で配当するというものです。
債権の評価配当も,日本円に統一されているのです。
ビットコインでの配当という発想もあり,法律上も,これに似た方法を取ることは可能です。

<債権者(ユーザー)への配当の基本的ルール>

あ 配当の原資

配当の原資は破産財団(破産者の財産)をすべて日本円に換金(換価)したものである

い 按分した配当 

すべての債権者の破産債権の額(日本円)で按分して配当する
(優先的・劣後的などの分類の説明は省略する)
詳しくはこちら|破産債権の額の評価・確定(金銭化)と配当の順位・平等性

う ビットコインによる配当(概要)

債権者への配当を日本円ではなくビットコインで行う発想がある
しかし,これを認める規定はない
詳しくはこちら|MTGOX破産手続におけるビットコインでの配当の可能性

5 配当原資と配当すべき金額の逆転現象

実際のMTGOX破産手続では,とても奇妙な状況が生じています。
このままの状況で破産手続が進むと配当しきれないで余る金銭が生じるのです。
これは評価額を低く押さえられた元ユーザーには戻りません。破産者(MTGOX)の手元に残るのです。
破産法自体が,ここまで急激な破産財団(破産者の財産)の価値の急騰を想定して作られていないのです。

<配当原資と配当すべき金額の逆転現象>

あ 逆転状態

現時点(平成29年12月)において
『ア』の方が『イ』より大きくなっている
ア 配当原資(現時点の破産財団の日本円での評価額)イ 破産債権の額(破産手続開始決定時の債権の日本円での評価額)

い 破産債権の額を超える配当(否定)

債権者は破産債権の額以上の配当を受けることはできない
破産債権の額の満額を配当として受け取ることになる(100%配当)
詳しくはこちら|破産手続における100%配当の典型例と配当後余った財産の処理(行方)

う おかしな状況

『い』のように配当をすると財産(日本円)が余る状況になる
余った財産は破産者(株式会社MTGOX)に帰属する(帰属したままとなる)
一方,債権者が得る配当(い)は,ビットコイン返還請求権の現時点の日本円での評価額を下回っている

6 破産者(会社)に残った財産の行方

仮にこのままの状況で破産手続が進むと,破産者であるMTGOXに金銭が残るという奇妙な状態になります(前記)。
ユーザー(債権者)は,現在のビットコインの価値分の配当を受けていないからといって,追加で請求(回収)することはできません。
視点を換えて,財産が残ったMTGOXが営業を再開できるのでは,という発想もありますが,会社法上は営業再開はできません。
最終的に,株主に分配されることになります。

<破産者(会社)に残った財産の行方>

あ 債権者への追加での弁済(否定)

破産手続内で『破産債権の額』満額の配当を受けている
→破産手続終了後に,これとは別に請求(弁済の受領)することはできない
詳しくはこちら|破産債権の金銭化(日本円評価)の効力が及ぶ範囲(第三者や破産手続外)

い 営業を再開する(否定)

ア 法人の存続 破産手続の終了(終結)後は
破産者(株式会社MTGOX)の法人格は存続している(消滅していない)
※会社法475条1号
イ 法人の能力の制限 しかし,清算の範囲内だけしか行えない(清算中の会社の扱い)
※会社法476条
=営業活動を行うことはできない
ウ 『継続』による復活(参考) 解散後の会社は株主総会の決議により継続できる
この規定は,破産による解散には適用されない
※会社法473条

う 株主への分配

MTGOXに残った財産は残余財産として株主に分配される(後記※1
※会社法504条〜
詳しくはこちら|破産手続における100%配当の典型例と配当後余った財産の処理(行方)

7 MTGOXの株主への分配の内容

前記のように,破産手続がこのまま進むと,多額の財産がMTGOX社の株主に渡ります。
その株主の内訳は,大部分がマーク・カルプレス氏が100%株主となっている会社なのです。
実質的にMTGOXに残った財産の大部分をカルプレス氏が受け取る状態となるのです。
(株式会社TIBANNEもカルプレス氏も破産手続が行われていて,その中でそれぞれの債権者への配当はありえます)

<MTGOXの株主への分配の内容(※1)

あ 大株主TIBANNE

株式会社TIBANNEがMTGOXの株式の88%を保有している
→株式会社TIBANNEにMTGOXに残った財産の88%が分配される

い 株式会社TIBANNEのオーナー

株式会社TIBANNEのすべての株式をマーク・カルプレス氏が保有している
株式会社TIBANNEに分配された財産(あ)は,実質的にカルプレス氏に帰属する

う カルプレス氏が実質的に受け取る財産

1BTC=約180万円というレート(平成29年12月7日)を前提にすると
約3000億円となる

なお,MTGOXが保管していたビットコインの消失について,カルプレス氏が関与していた程度によっては,MTGOX(取引所)のユーザーは,カルプレス氏個人への賠償請求権を持つことになります(会社法429条)。
結局,カルプレス氏個人が受領する金銭は,ユーザー(債権者)の回収の引当となり得ます。
しかし,ユーザー(債権者)が,この破産手続上での満額の配当を受けてしまうと,完済になってしまいます。つまり,カルプレス氏個人への請求もできなくなります。

8 不合理な配当の正常化の発想・実現可能性(概要)

以上のように,ビットコインの(日本円換算の)評価額が大きく上がったことにより,このまま破産手続が進むと,不合理と思える配当が実施されることになります。
これを回避するために,いくつかの法的な方法が考えられます。
例えば,破産手続の廃止や,民事再生手続開始の申立などがあります。
このような正常化するための方法については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|MTGOX破産手続の不合理な配当を回避する方法(発想と実現可能性)

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