【雑所得の基本(定義・該当する所得の実例・課税方式・損益通算)】
1 雑所得の基本
2 『雑所得』の定義(条文規定引用)
3 条文規定がある雑所得の具体例
4 条文規定がない雑所得の典型的な具体例
5 裁判例による雑所得の具体例
6 雑所得の課税(課税方式・損益通算・損失繰越)
7 雑所得と他の所得の損益通算ができない理由
8 雑所得の損益通算を否定する規定への疑問
9 先物取引・FXの利益の課税の扱い(概要)
1 雑所得の基本
所得税の中の分類の1つに雑所得があります。
これは譲渡所得などの他の分類に該当しない,その他として位置づけられる分類です。
例えば,仮想通貨の取引による利益は雑所得とするという見解が通達で示されています。
雑所得といえるかどうかという問題を考える時には,雑所得の基本的な規定や解釈の理解が必要です。
本記事では,雑所得の条文の規定を中心に,基本的な内容を説明します。
2 『雑所得』の定義(条文規定引用)
まず最初に,雑所得を定義する所得税法の規定をそのまま紹介します。
<『雑所得』の定義(条文規定引用)>
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
※所得税法35条1項
3 条文規定がある雑所得の具体例
雑所得の定義は,他の所得の分類に該当しないというものです(前記)。要するに『その他』ということです。
これだけだと分かりにくいので,具体例を挙げます。
具体例のうち,まずは所得税法の規定に登場するものから整理します。
<条文規定がある雑所得の具体例>
あ 公的年金
国民年金・厚生年金などの社会保険・共済制度に基づく年金
い 恩給・民間の年金
う 退職年金
確定給付企業年金法に基づいて給付を受けるもの
え 老齢給付年金
確定拠出年金法に基づいて支給を受ける老齢給付年金
※所得税法35条3項
4 条文規定がない雑所得の典型的な具体例
雑所得は『その他』分類なので,条文に登場しないさまざまな所得が該当します。典型的なものをまとめます。
<条文規定がない雑所得の典型的な具体例>
あ 郵便年金
旧簡易生命保険の年金のことである
い 身元保証金の利子
いわゆる学校債,組合債の利子
う 公社債の償還差益or発行差金
え 定期積金or相互掛金のいわゆる給付補てん金
お 国税の還付加算金
か 法人格なき社団の収益分配金
人格のない社団などの構成員が,構成員たる資格において人格ない社団から受ける収益の分配金
お 公的年金以外の年金
退職金救済制度などに基づく年金で公的年金に該当しないもの
※所得税法施行令82条の2第3項
か 個人年金
生命保険契約・損害保険契約に基づく年金
※所得税法施行令183〜186条
き 外国所得税額の還付金
外国所得税額から控除しきれなかった還付外国所得税額の控除不足額
※所得税法44条の3
く 事業未満の経済活動
『ア〜キ』の所得のうち,事業から生じたものではないもの
ア 動産の貸付による所得イ 特許権の使用料による所得ウ 原稿料,放送謝金,著作権の使用料による取得エ 採石権,鉱業権,砂鉱権,漁業権などを他人に使用させることによる所得オ 金銭の貸付による所得カ 不動産その他の資産(山林を除く)の継続的売買による所得キ 山林を取得後5年以内に伐採しor譲渡したことによる所得
※野水鶴雄著『要説 所得税法 平成27年度版』税務経理協会2015年p182
5 裁判例による雑所得の具体例
雑所得に該当するかどうかがはっきりしないケースは実際によくあります。
納税者と国税庁の見解が対立して,最終的に裁判所が雑所得に該当すると判断したものをまとめます。
<裁判例による雑所得の具体例>
あ ストック・オプションの行使益
※東京高裁平成17年4月27日
い 為替差益
ア 裁判例
インパクトローン(イ)にかかる為替差益
※高松高裁平成8年8月29日(原審=松山地裁平成7年2月24日)
イ インパクトローンの内容
外貨貸付を受ける+当時の為替レートで日本円に転換する
外貨貸付の返済期日の為替レートを固定する先物為替予約契約を締結する
ウ 他の見解
解釈上は譲渡所得に含めることも可能である
※金子宏著『租税法 第22版』弘文堂2017年p287
う 店頭FX取引の帳尻金(現在は該当しない)
売買差損益から手数料などを控除した残額とスワップ金利差調整額(実現スワップ金利)との合計額
※東京地裁平成22年6月24日
(平成24年の特別措置法41条の14改正によって現在は適用なし)
なお,外貨の交換などによって生じる為替差益(損益)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|外貨に関する所得税(外貨建取引・外貨同士の交換の為替差損益)
6 雑所得の課税(課税方式・損益通算・損失繰越)
雑所得に該当した場合には,総合課税となります。他の所得と合算した額に累進税率が適用されます。
損益相殺や損失繰越は適用されません。
<雑所得の課税(課税方式・損益通算・損失繰越)>
あ 課税方式
雑所得について
→総合課税の対象である
い 税率
所得税5〜45%(累進課税)+住民税10%
(復興特別所得税あり)
う 損益通算
なし
え 損失の繰越控除
なし
※所得税法69条参照
7 雑所得と他の所得の損益通算ができない理由
雑所得と他の所得との損益通算ができなくなったのは,昭和43年の法改正によります。
その理由(趣旨)は,必要経費が家事に関連するということと,必要経費が収入を上回らないというものです。
<雑所得と他の所得の損益通算ができない理由>
あ 実質的な理由
雑所得の必要経費とされるものは家事関連費的な支出が多い
必要経費が収入を上回る場合があまり考えられない
→損益通算を適用する実益が少ない
い 法改正
『あ』の理由により
昭和43年の改正で損益通算を否定する規定が実施された
※植松守雄編著『注解 所得税法 5訂版』大蔵財務協会2011年p870,854
8 雑所得の損益通算を否定する規定への疑問
実際に雑所得に分類される所得(利益)には,前記の,損益通算を否定する趣旨にまったく当てはまらないものもあります。
損益通算を否定するのは不合理であるという批判も主張されています。
<雑所得の損益通算を否定する規定への疑問>
あ 所得内容の多様性
雑所得にはそれぞれ性格の異なる各種の所得が混在している
画一的な計算方式で律することには問題がある
い 一時所得との同じ扱いの不合理性
『ギャンブルの損失』(一時所得の損失)と同一視できるかどうかという問題もある
※植松守雄編著『注解 所得税法 5訂版』大蔵財務協会2011年p871
9 先物取引・FXの利益の課税の扱い(概要)
先物取引やFXによる利益については,原則的に雑所得と考えられます。
しかし,政策的に,これらの利益は,譲渡所得や雑所得といった所得の分類を使わず,特別に独立した課税上の扱いがなされます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|先物取引・FXの課税の扱い(特例による独自の所得分類での分離課税)