【宅建業者の指示処分(監督処分の1つ)の対象行為の基本】
1 宅建業者の指示処分の対象行為
2 指示処分の対象行為の規定内容
3 指示処分の対象行為の全体的なレベル
4 損害を与える行為の内容
5 取引の公正を害する行為の内容
6 取引の公正を害する行為の類型化
1 宅建業者の指示処分の対象行為
宅建業者が受ける監督処分の中で最も軽いものは指示処分です。
詳しくはこちら|宅建業者に対する監督処分(行政処分)の基本(種類・対象行為)
どのような行為が指示処分の対象となるのか,ということについて,本記事では説明します。
2 指示処分の対象行為の規定内容
指示処分が課せられる行為は宅建業法に細かく規定されています。
<指示処分の対象行為の規定内容>
あ 損害を与える行為
取引の関係者に対し損害を与える行為orそのおそれが大である(後記※1)
※宅建業法65条1項1号
い 取引の公正を害する行為
取引の公正を害する行為orそのおそれが大である(後記※2)
※宅建業法65条1項2号
う 他法令違反行為
※宅建業法65条1項3号
え 宅建主任士の処分
取引主任士が処分を受け宅建業者に帰責事由がある
※宅建業法65条1項4号
お 宅建業法違反
宅建業法違反行為
※宅建業法65条1項本文
か 履行確保法違反行為
※宅建業法65条1項本文
詳しくはこちら|住宅瑕疵担保責任履行確保法による被害者救済制度(資力確保措置)
3 指示処分の対象行為の全体的なレベル
前記のように,指示処分の対象行為には広く当てはまるものが多いです。
監督処分の中で最も軽いので,対象行為も全体として(不当行為の中でも)軽微なものが規定されているのです。
<指示処分の対象行為の全体的なレベル>
宅建業に関する不当な行為という比較的軽微なものである
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p842
4 損害を与える行為の内容
指示処分の対象行為の1つに損害を与える行為があります(前記)。
より正確な内容をまとめます。
<損害を与える行為の内容(※1)>
あ 規定内容
業務に関し取引の関係者に対し損害を与える行為orそのおそれが大である
※宅建業法65条1項1号
い 『業務に関し』の意味
宅地建物取引業そのものに限らない
宅地建物取引業の遂行に関する業務において損害を与えたことも含む
兼業業種に関しての取引の公正を害する行為は『業務に関し』に該当しない
兼業業務の例=賃貸業,建設業,マンション管理業
う 『損害を与えたor与えるおそれが大である』の意味
ア 損害の種類
損害には財産的損害だけでなく,信用の失墜や精神的損害も含む
イ 違反行為との因果関係
宅建業法の違反行為に起因する(損害である)必要はない
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p843
5 取引の公正を害する行為の内容
指示処分の対象行為の1つに取引の公正を害する行為があります(前記)。
取引の公正というのは,とても抽象的な言葉です。
実際に該当するかどうかを判断する監督庁(国土交通省)による裁量が大きいのです。
<取引の公正を害する行為の内容(※2)>
あ 規定内容
業務に関し取引の公正を害する行為をしたときor取引の公正を害するおそれが大である
※宅建業法65条1項2号
い 『取引の公正を害する行為』の意味
一連の取引過程(う)において公平,適正を損なう行為をいう
う 取引過程の内容
ア 宅地建物の取引の勧誘(広告)イ 契約締結に至る過程ウ 契約締結とその契約内容エ 締結後の契約の履行オ 契約関係からの離脱 ※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p843
え 『取引の公正を害するorおそれが大である』の判断
一義的に判断できるものではない
規範的に判断する
行政庁は専門的判断に基づく合理的な裁量権限を有する
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p844
お 損害の発生との関係
結果として,取引の関係者に対し損害を与えた・与えるおそれがある,ということを要しない
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p844
6 取引の公正を害する行為の類型化
取引の公正を害する行為にあたるかどうかをハッキリ判定することは難しいです。
そこで,実際の運用としては,取引の公正を害するといえる行為のパターンをまとめておいて,予測可能性を高めるという工夫が必要となります。
取引の公正を害する行為の類型(パターン)を整理します。
<取引の公正を害する行為の類型化>
あ 宅建業法の規定に違反する行為
い 不正or違法な取引への関与
う 自力救済容認条項の作成
え 業務上の注意義務違反行為
お 不利な契約内容と説明義務違反
契約当事者の一方に著しく不利な契約内容となっている
このことを不利益を受ける当事者に十分に説明していない
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p845,846