【宅建業者の契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為】
1 宅建業者の契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為
2 契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為の規定の基本
3 宅建業法47条の2による禁止行為
4 契約締結を判断する時間を与えない行為の内容
5 契約締結意思のない者に対する勧誘継続の内容
6 私生活・業務の平穏を害する困惑行為の内容
7 『困惑させる行為』の内容
8 契約の締結・解消における威迫行為の内容
9 宅建業法の禁止行為と民法・消費者契約法との関係
1 宅建業者の契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為
宅建業者が,主にセールスの一環として強引な手法を取ってしまう傾向があります。
詳しくはこちら|宅建業法×禁止事項・重要事項説明義務|不正セールス手法・行政/刑事責任
そこで,宅建業法47条の2では,不当な行為を具体的に特定して,禁止行為として規定しています。
本記事では,契約の勧誘・締結・解消の場面において禁止されているものを説明します。
2 契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為の規定の基本
宅建業法47条の2の規定の基本的な内容をまとめます。
ありがちな宅建業者の行為をリストにして禁止しています。違反した宅建業者は,監督処分(行政処分)が課せられることがあります。監督処分の内容は,主に指示処分や業務停止処分です。
<契約の勧誘・締結・解消に関する禁止行為の規定の基本>
あ 宅建業法47条の2の概略
契約の勧誘・締結・解消の場面において
宅建業者の不当な行為(後記※1)を禁止している
い 故意の必要性(否定)
宅建業者の故意は必要ではない
=宅建業者が,相手方が(禁止行為の)影響を受けたことを認識している必要はない
う 違反行為の扱い
ア 監督処分
違反行為は監督処分の対象となる
主に,指示処分,業務停止処分の対象となる
情状が特に重い時は免許取消処分の対象となる
※宅建業法65条1項,3項,2項2号,4項2号,66条1項9号
イ 罰則
(直接的な)罰則はない
ウ 民事的効力
宅建業法により契約の有効性が否定されるわけではない(後記※6)
え 対象となる契約
『宅地建物取引業に係る契約』に関する勧誘・締結・解消が禁止行為の対象である
『関する契約』よりも広い
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p675〜677
3 宅建業法47条の2による禁止行為
宅建業法47条の2で,禁止行為としてリスト化されている内容をまとめます。
正確には,宅建業法から宅建業法施行規則に委任され,施行規則の中で具体的に規定されているものもあります。
<宅建業法47条の2による禁止行為(※1)>
あ 契約締結の勧誘
ア 断定的判断の提供
利益の発生(宅建業法47条の2第1項)
将来の環境・交通その他の利便(施行規則16条の12第1号イ)
イ 契約締結を判断する時間を与えない(後記※2)
※施行規則16条の12第1号ロ
ウ 宅建業者の名称,勧誘目的不告知の下での勧誘
※施行規則16条の12第1号ハ
エ 契約締結意思のない者に対する勧誘継続(後記※3)
※施行規則16条の12第1号ニ
オ 迷惑時間の電話・訪問
※施行規則16条の12第1号ホ
カ 私生活・業務の平穏を害する方法による困惑行為(後記※4)
※施行規則16条の12第1号ヘ
い 契約の締結
ア 威迫行為(後記※5) 宅建業法47条の2第2項
う 契約関係からの離脱
ア 威迫行為(後記※5)
※宅建業法47条の2第2項
イ 預かり金返還の拒否
※施行規則16条の12第2号
ウ 手付解除の拒否
※施行規則16条の12第3号
4 契約締結を判断する時間を与えない行為の内容
禁止行為の中に,契約締結を判断する時間を与えない行為があります(前記)。
要するに,急かす行為がこれに該当します。
<契約締結を判断する時間を与えない行為の内容(※2)>
あ 条文規定(禁止行為)
正当な理由なく,契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為
※施行規則16条の12第1号ロ
い 『必要な時間を与えることを拒む』の意味
意思決定のために必要な時間を求めたにも関わらず宅建業者がこれに応じないこと
う 時間の猶予の要請の要否(否定)
取引の相手方が時間的な猶予を積極的に求めていなかったとしても,契約締結の意思決定を明示していないこと自体,取引の相手方はいまだ契約を締結するかどうかを検討しているのである
このような状況下で『待てない,他に買い手がいる,早く契約しないと手に入らない』などと相手方に頻繁に連絡し契約の締結をするよう督促することは
契約締結の意思決定に要する時間的余裕を急かす行為である
→『必要な時間を与えることを拒む』に該当する
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p681
5 契約締結意思のない者に対する勧誘継続の内容
禁止行為の中に,契約締結の意思のない者に対する勧誘継続があります(前記)。
正確には,契約を締結する意思がないと思われる状況(で勧誘を継続すること)が広く含まれます。
<契約締結意思のない者に対する勧誘継続の内容(※3)>
あ 条文規定(禁止行為)
宅建業者の相手方が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにも関わらず,勧誘を継続する行為
※施行規則16条の12第1号ニ
い 『当該契約を締結しない旨の意思を表示した』の意味
宅建業者が契約締結を勧誘したが,相手方が『いらない,関心がない,断る』など,契約を締結する意思がない旨の明示or黙示の意思表示をしたことをいう
う 『勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思』の具体例
勧誘の電話の途中で相手方が電話を切った
(訪問に対して)帰って欲しいと述べた
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p683
6 私生活・業務の平穏を害する困惑行為の内容
禁止行為の中に,私生活・業務の平穏を害する方法による困惑行為があります(前記)。
結果として私生活または業務の平穏が害されるような行為であれば広く含まれます。
<私生活・業務の平穏を害する困惑行為の内容(※4)>
あ 条文規定(禁止行為)
深夜or長時間の勧誘その他私生活上or業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させる行為
※施行規則16条の12第1号ヘ
い 『深夜or長時間の勧誘』の意味
『深夜or長時間の勧誘』は例示である
『私生活上or業務の平穏を害するような方法』の1つである
う 『深夜の勧誘』の意味
午後11時頃から明け方あたりまでを指す
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p684
え 『長時間の勧誘』の典型例
時間帯に関係なく,何時間にもわたる勧誘行為をいう
お 電話による『長時間の勧誘』の例
短時間の電話を頻繁に繰り返す行為
→全体として『長時間の勧誘』にあたる
※関東地方整備局平成23年1月17日;22日間の業務停止
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p685
7 『困惑させる行為』の内容
前記の説明は,私生活・業務の平穏を害する方法による困惑行為のうち平穏を害するの内容でした。
次に,残る,困惑行為の内容について説明します。
典型例は宅建業者(のスタッフ)が顧客の自宅を訪問した後帰らないとか,顧客を事務所などの場所から帰さないというものです。
ただ,これらの方法に限られず,結果的に自由な判断を行いにくい状況であれば広く該当します。
<『困惑させる行為』の内容>
あ 『困惑させる行為』の内容
宅建業者からの契約勧誘に対し,相手方がどのように対応すべきかどうか判断できず,断り切れずに考えあぐねるなど,自由な判断を行い難いような状態に仕向ける行為をいう
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p685
い 方法の限定(なし)
困惑させる行為(宅建業法施行規則16条の12第1号ヘ)について
方法は限定されていない
→広く,困惑させる行為を禁止している
う 消費者契約法の『困惑』(参考)
消費者契約法4条3項は,『困惑』による意思表示の取消を規定している
この要件は不退去,監禁型に限定されている
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p685
8 契約の締結・解消における威迫行為の内容
禁止行為の中に,契約締結における威迫行為,契約解消における威迫行為があります(前記)。
いわゆるおどすことです。
ところで,脅迫(罪)では害悪の告知が必要です。
詳しくはこちら|脅迫罪の『害悪の告知』(害悪の程度・害悪発生のコントロール可能性)
しかし,宅建業法の禁止行為の1つの威迫(行為)は脅迫未満でも成り立ちます。つまり,恐怖を感じるほどではない程度でも該当することがあるのです。
<契約の締結・解消における威迫行為の内容(※5)>
あ 規定内容(禁止行為)
宅地建物取引業に係る契約を締結させるため,宅建業者の相手方を威迫すること
※宅建業法47条の2第2項
宅地建物取引業に係る契約の申込の撤回or解除を妨げるため,相手方を威迫する
※宅建業法47条の2第2項
い 『威迫』の意味
相手方に対し言動,動作で気勢を示し,不安,困惑の念を生じさせること
脅迫のように恐怖心を生じさせる程度のものであることを要しない
う 結果発生の必要性(なし)
威迫行為により相手方が契約を締結するor契約解除を断念したような事実は必要ない
※岡本正治ほか著『改訂版 逐条解説 宅地建物取引業法』大成出版社2012年p685,686
9 宅建業法の禁止行為と民法・消費者契約法との関係
宅建業法47条の2には,以上のような禁止行為が規定されています。
この規定に違反した場合には,宅建業者が監督処分(行政処分)を課せられることがあります(前記)。
この点,禁止行為の規定に違反したことで,ストレートに契約が無効になるということはありません。
宅建業法とは関係なく,民法や消費者契約法の規定により,契約の無効や取消が認められることはあります。
<宅建業法の禁止行為と民法・消費者契約法との関係(※6)>
あ 宅建業法の民事的効力
宅建業法は,民事的な契約の効力を否定するものではない
い 民事法による規律
契約の効力は,民法や消費者契約法によって判断される
う 契約の効力を規律する民事法の典型例
ア 誤認による意思表示の取消
断定的判断の提供が前提となっている
※消費者契約法4条1項2号
イ 困惑による意思表示の取消
不退去による困惑のために契約の申込or承諾の意思表示をした時に限られる
※消費者契約法4条3項1号,2号