【受託者の民事再生・更生手続における信託財産の扱い(倒産隔離)】
1 受託者の民事再生・更生手続における信託財産の扱い(倒産隔離)
2 民事再生・更生手続における信託の倒産隔離
3 民事再生・更生手続における信託の扱い
4 民事再生・更生手続における信託財産の管理
1 受託者の民事再生・更生手続における信託財産の扱い(倒産隔離)
信託によって信託財産が受託者のもとにある時に,受託者の経済状態が悪くなり,民事再生や更生の手続を行うと,受益者(や委託者)は,信託財産がどうなるのか,とても心配になります。
しかし,法律上,受託者個人が民事再生や更生の手続をしても,信託財産が毀損されることはないことになっています。
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)
本記事では,受託者が民事再生や更生の手続を行った場合における,信託財産の扱いや受益者の立場について説明します。
2 民事再生・更生手続における信託の倒産隔離
受託者自身が民事再生や更生の手続を行っても,信託財産はこれらの手続の中で債権者への弁済に使われることはありません。
一方,信託の受益者の信託財産の返還請求権のような債権は信託財産だけが引当となる債権です。そこで,受託者自身の民事再生や更生の手続の中での再生債権や更生債権としては扱われません。
要するに,受託者自身の民事再生や更生の手続と信託が隔離されているということです。
<民事再生・更生手続における信託の倒産隔離>
あ 信託財産の隔離(※1)
受託者の民事再生・更生手続において
信託財産に属する財産は,受託者の倒産財団に属しない
※信託法25条4項,7項
い 信託財産を責任財産とする債権の隔離
信託財産のみを責任財産とする債権について
例=返還請求権
→再生債権・更生債権とならない
※信託法25条5項,7項
3 民事再生・更生手続における信託の扱い
受託者自身が民事再生や更生の手続を行った場合には,信託は,法的に維持されます(前記)。法的には信託の終了にあたらないということです。
さらに,民事再生や更生の手続の中で,信託の運用を維持することを前提に事業の再建を図ることになります。
<民事再生・更生手続における信託の扱い>
あ 信託の継続
受託者に対する民事再生手続・更生手続の開始は
原則として,受託者の任務終了事由には該当しない
※信託法56条5項本文,7項
→民事再生手続・更生手続の開始後も,信託は継続する
い 再建の方向性
信託が受託者の事業を構成する場合
→信託を含めて事業の民事再生・更生を行うべきである
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p135
4 民事再生・更生手続における信託財産の管理
民事再生や更生手続が行われても,信託の運用は維持されます(前記)。具体的には,受託者は再生債務者や更生会社という立場になっても,受託者であることに変わりはありません。
ただし,実際には管財人が管理する権限を持つことになります。
<民事再生・更生手続における信託財産の管理>
あ 受託者の地位
再生債務者・更生会社は受託者としての地位にとどまる(変更はない)
い 管財人による管理・処分
管財人が存在する場合
受託者の職務の遂行・信託財産に属する財産の管理・処分権限は管財人に専属する
※信託法56条6項前段,7項
う 倒産隔離の維持(参考)
民事再生手続・更生手続によって信託財産が毀損されることはない
(隔離された状態が維持される・前記※1)
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p135
本記事では,信託の受託者の民事再生や更生の手続における信託財産や受益者の扱いについて説明しました。
実際には,法的な位置付け・解釈が複雑になり,個別的な事情や主張・立証のやり方によって結論が違ってくることがあります。
実際に受託者の倒産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。