【信託財産の破産(手続開始原因・破産者の範囲・損失填補請求権の扱い)】

1 信託財産の破産(手続開始原因・破産者の範囲・損失填補請求権の扱い)
2 信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)
3 信託財産の破産(手続開始原因と破産者)
4 受益者の損失填補請求権の扱い
5 信託財産の再建型手続(再生能力)の立法論

1 信託財産の破産(手続開始原因・破産者の範囲・損失填補請求権の扱い)

典型的な信託の仕組みは,信託財産を受託者が管理して,受益者が収益や信託財産そのものを受け取るというものです。
この信託の仕組みが正常に稼働しないと受益者への利益分配や信託財産の交付ができなくなります。
このような場合には,信託財産の破産手続を行って清算する方法があります。
本記事では,信託財産の破産について説明します。

2 信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)

信託財産の破産が行われる状況を大雑把にいうと,信託財産を引き当てとする債権信託財産から弁済することができなくなった状態です。信託財産を引き当てとする債権は,信託法上は信託財産責任負担債務(に係る債権)と呼びます。受益債権信託債権が代表的ですが,これ以外にもあります。

<信託財産を責任財産とする債権の具体例(前提)>

あ 受益債権

※信託法21条1項

い 信託債権

※信託法21条2項2号

う 受託者の不法行為による責任

※信託法21条1項8号
詳しくはこちら|受託者の不法行為による賠償責任は信託財産責任負担債務となり求償もある

え (その他の)信託事務処理による責任

信託事務の処理によって生じた責任のうち,信託法21条1項5〜8号に該当しないもの
※信託法21条1項9号
詳しくはこちら|信託財産責任負担債務の意味と内容の具体例

3 信託財産の破産(手続開始原因と破産者)

信託財産の破産が行われる状況のことを,正式には,破産手続開始原因といいます。破産法では,信託財産だけの範囲で支払不能または債務超過の状態と規定されています。
そして破産者受託者のように思えますが,信託財産は受託者自身(の固有財産)から隔離されています。そこでストレートに信託財産が破産者であるという法的な位置付けとなります。
受託者自身の財産とは隔離されているので,受託者の固有財産を引き当てとする債権(者)破産債権(者)とはなりません。

<信託財産の破産(手続開始原因と破産者)>

あ 信託財産破産の手続開始原因

支払不能または債務超過(受託者が,信託財産責任負担債務につき,信託財産に属する財産をもって完済することができない状態)である
※破産法244条の3

い 信託財産の破産

『あ』に該当する場合,信託財産について破産手続が行われる(手続開始申立ができる)

う 破産者の判断

破産者は信託財産であると考えられる
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第2版』弘文堂2014年p1548,1549

え 破産者の範囲(倒産隔離)

受託者の固有財産を責任財産とする債権(の債権者)について
託財産破産の手続では破産債権者ではない
※破産法244条の9

4 受益者の損失填補請求権の扱い

信託財産の破産手続が行われる状況では,前記のように,信託財産が毀損しているのが通常です。そうすると,受益者は受託者(自身)に対して損失填補(原状回復)請求ができる状態です。この損失填補の内容を詳しくいうと,受託者自身の固有財産から信託財産に毀損分を補填するというものです。
そこで,信託財産の管理人となっている破産管財人が,この填補請求権を行使して,信託財産(破産財団)に戻すことになります。

<受益者の損失填補請求権の扱い>

あ 損失填補請求権の帰属

受託者の損失填補責任に係る請求権は受益者の権利である
※信託法40条1項

い 信託財産破産の手続における扱い

信託財産破産の手続においては
損失填補請求権(あ)は破産財団を構成する財産となる
破産管財人が損失填補請求権を行使する
※破産法244条の11第1項5号
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第2版』弘文堂2014年p1565

5 信託財産の再建型手続(再生能力)の立法論

以上の説明は,信託財産の破産手続でした。一方,信託財産について再建するタイプの手続(民事再生や更生)を行うという発想もあります。
しかし,信託財産についてこのような再建型の手続はふさわしくないと考えられており,民事再生法や会社更生法では信託財産を債務者とする手続は認められていません。

<信託財産の再建型手続(再生能力)の立法論>

あ 信託財産と再建型手続との調和(否定)

ア 現実的な必要性 信託の維持を通じた事業の維持再生の現実的な必要性が高いとはいいがたい
イ 優先順位の組分け 信託債権と受益債権には優先順位の違いがある
※破産法244条の7第2項,信託法101条
→再生計画案の決議の際に組分けをする必要がある
→手続構造を複雑にするおそれがある

い 再建型手続の妥当性(立法論)

立法論として,信託財産には再生能力を認めないこととされた
=再建型手続の対象に信託財産を含めない
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第2版』弘文堂2014年p1548

本記事では,信託財産の破産手続について説明しました。
実際に信託財産の毀損が生じた場合には,信託財産の破産以外にも保全の方法はあります。個別的な状況に応じて,最適な手段をとる必要があります。
実際に信託財産にイレギュラーな事態が生じた状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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