【ICO(新たな仮想通貨の発行・販売)に関する日本の法規制(全体)】

1 ICO(新たな仮想通貨の発行・販売)に関する日本の法規制(全体)
2 金融庁によるICOに関する注意喚起
3 ICOという用語の意味
4 注意喚起によるICOへの全体的法規制の指摘
5 資金決済法の仮想通貨交換業者登録との関係(概要)
6 資金決済法の前払式支払手段との関係
7 金融商品取引法のファンド規制との関係
8 ICOの法規制に関する金融庁への事前相談の推奨
9 ICOに関する課税(参考)
10 トークンの上場のハードル(実質的審査・概要)

1 ICO(新たな仮想通貨の発行・販売)に関する日本の法規制(全体)

現在,仮想通貨の普及とともにICOが急激に増えています。当事務所も,FinTech企業からの相談やご依頼が続いております。
この点,ICOによって新コイン(仮想通貨)を発行した事業者が,予定どおりの事業を行わず,出資した者が大きな損害を被るというケースも多く出てきています。
そこで,平成29年10月に,金融庁が注意喚起を公表しました。ICOに関する(日本の)法規制に関する全体的な注意点を指摘するものです。
本記事では,ICOに関する(日本の)法規制の全体像を説明します。

2 金融庁によるICOに関する注意喚起

前記の,金融庁から出されたICOに関する注意喚起の情報のソースをまとめておきます。

<金融庁によるICOに関する注意喚起>

あ 日付・タイトル

金融庁
平成29年10月27日
ICO(Initial Coin Offering)について〜利用者及び事業者に対する注意喚起〜

い ソース(リンク)

外部サイト|金融庁|ICOに関する注意喚起

以下,この注意喚起を踏まえて,ICOに関するいろいろな法規制について説明します。

3 ICOという用語の意味

法規制の内容の説明に入る前に,呼び方についてまとめておきます。
ICOという言葉は,法律上の用語(定義)ではありません。簡単にいえば,新たなトークン(コイン・仮想通貨)を発行するということを意味します。
通常,事業を開始(遂行)するための資金を調達する手段として実施します。

<ICOという用語の意味>

あ 略語

ICOとは,Initial Coin Offeringを略したものである
他にトークンセール・クラウドセールなどという呼び方がある

い ICOに関する注意喚起での説明

一般に、ICOとは、企業等が電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為の総称です。
※金融庁・ICOに関する注意喚起

4 注意喚起によるICOへの全体的法規制の指摘

金融庁の注意喚起の中で,ICOに関するいろいろな法規制を総合的に指摘しているところがあります。

<注意喚起によるICOへの全体的法規制の指摘>

ICOの仕組みによっては、資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となります。
ICO事業に関係する事業者においては、自らのサービスが資金決済法金融商品取引法等の規制対象となる場合には、登録など、関係法令において求められる義務を適切に履行する必要があります。登録なしにこうした事業を行った場合には刑事罰の対象となります。
※金融庁・ICOに関する注意喚起『3』

例として,資金決済法金融商品取引法(金商法)が指摘されています。(指摘される前から)主に問題となるのがこの2つの法律なのです。

5 資金決済法の仮想通貨交換業者登録との関係(概要)

まず,ICOが資金決済法の規制を受けることが考えられます。資金決済法の中にもいろいろな種類の規制が含まれます。特に重要なのは,仮想通貨交換業の規制です。要するに仮想通貨交換業者は登録が必要という制度(登録制)のことです。
発行するトークン(コイン)の性質によって違いますが,ICOの実施をするためには仮想通貨交換業者登録が必要となることが多いです。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|ICO(新たな仮想通貨の発行)への資金決済法の仮想通貨交換業の規制

6 資金決済法の前払式支払手段との関係

資金決済法の中の規制のうち,ICOに関わる可能性があるものとして仮想通貨交換業の規制とは別に前払式支払手段の規制もあります。
発行したトークン(コイン)の流動性が低いような仕組みをとっているケースでは前払式支払手段に該当することがあります。その場合,登録や供託をする必要があることになります。

7 金融商品取引法のファンド規制との関係

ICOに適用される可能性のある法規制として,金商法もあります。
ICOについては,金商法の中の集団投資スキームとしての規制が適用されることが考えられます。しかし集団投資スキームに該当するのは,金銭か有価証券で出資するものに限られます。
そうすると,仮想通貨で出資するICOについては,これに該当しないはずです。
しかし,金融庁の注意喚起では,実質的に法定通貨(金銭)での購入と同視されるスキームには,金商法の規制が適用されるという見解が示されています。

<金融商品取引法のファンド規制との関係>

あ 金商法のファンド規制の要点

金銭を出資を受けて事業を行う
事業の利益から配当を行う
集団投資スキームとして金商法の規制(ファンド規制)が適用される

い ICOの形式的な該当性

集団投資スキーム出資金銭・有価証券に限定されている
仮想通貨による出資は集団投資スキームに該当しない

う 注意喚起による金商法の規制の指摘

また、ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。
※金融庁・ICOに関する注意喚起『3』

金融庁の注意喚起より以前から,仮想通貨(トークン)による出資はダミーであり,実質的に金銭での出資であれば,金商法の適用があるという一般論はありました。
例えば,ICOを実施する事業者やその関係企業が,最初に投資家から法定通貨を受け取って代わりに仮想通貨を渡すということをしていた場合,その後,仮想通貨を出資したといっても,全体として金銭の出資として扱われることはあります。とはいっても,違法なことを避けた結果が適法実質面から違法となる”かの境界は曖昧です。ICOの仕組みが,実際に金商法の適用を受けるかどうか,ということについては,事前に綿密かつスピーディーに検討する必要があります。

8 ICOの法規制に関する金融庁への事前相談の推奨

以上のように,日本で実施するICOについては,何らかの法規制が適用されるのが通常です。具体的なICOの内容によって,適用される法規制の種類は違ってきます。
そこで,金融庁は,相談窓口を用意して,注意喚起の中で,事前の相談を推奨しています。

<注意喚起によるICOの事前相談の推奨>

あ ICO規制に関する相談の推奨

ICOへの規制についてご不明な点があれば、まずは、資金決済法上の仮想通貨交換業者を所管する以下の相談窓口にご相談ください。必要に応じて、他の事業者(金融商品取引業者等)を所管する担当課へおつなぎします。

い 関東エリアを所管する担当課

東京都その他近県の所在する事業者について
(関東財務局)金融庁監督局総務課 仮想通貨モニタリングチーム
※金融庁・ICOに関する注意喚起『3』

9 ICOに関する課税(参考)

ICOに関する法規制とは違いますが,実際の大きな問題として課税があります。
日本の現在の制度では,諸外国と比べて不利・不都合なところが多いです。
ICOの仕組みによって異なりますが,出資を集めた時点で事業者は大きな利益を得たことを前提として課税される傾向が強いです。
また,出資者の立場でも,仮想通貨の含み益が現実化したものとして,キャピタルゲイン課税がなされる扱いが一般的です。
いずれにしても,ICOの実施を検討する上での大きな判断材料となるマターです。

10 トークンの上場のハードル(実質的審査・概要)

ICOによってトークン(コイン・仮想通貨)を発行した場合に,その後,交換所に上場するされるかどうかが,出資者(投資家)にとって非常に大きな関心事です。
ICOを実施しようとする事業者としては,上場できる予定があるかどうかで資金調達に成功するかどうかが決まってくるといえます。
日本の仮想通貨交換業者の新コインの上場については一定のハードルがあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仮想通貨の上場(金融庁への届出・実質的な審査・ホワイトリスト)

本記事では,ICOに関する法規制の全体像を説明しました。
当然ですが,ICO(やトークン)の内容や仕組みによって,適用される法規制は大きく違ってきます。
ICOの企画・検討の中で,法規制については非常に大きな判断材料なのです。
実際にICOの実施を検討されている事業者やアドバイスを提供するコンサルタントの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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