【民事訴訟法における訴訟費用の内容・負担者を決める裁判・訴訟費用額確定手続】
1 民事訴訟法における訴訟費用の内容・負担者を決める裁判・訴訟費用額確定手続
民事訴訟が終わる時に,基本的に裁判所が訴訟費用を誰(どちら)が負担するのかを決めます。これを訴訟費用の負担の裁判といいます。
本記事では,訴訟費用の意味(内容)や訴訟費用の負担の裁判について説明します。
2 民事訴訟法上の訴訟費用の内容
裁判所が負担する当事者を決める訴訟費用の内容は,訴訟を提起し遂行するために当事者が負担した費用のうち一定のものです。細かい内容は別の法律や規則で定められています。
主なものは訴状に貼付する印紙や送達で使う郵券(切手)代などです。
弁護士費用は含まれません。訴訟費用というネーミングが原因となって誤解されることが多いです。
民事訴訟法上の訴訟費用の内容
あ 負担する者(前提)
訴訟費用の負担の裁判では訴訟費用を負担する当事者を定める(後記※1)
い 訴訟費用の内容
『あ』の訴訟費用の内容について
民事訴訟費用等に関する法律,民事訴訟費用等に関する規則で定められている
う 訴訟費用の典型的な内容
ア 手数料
提訴,控訴,再審申立などの手数料(貼付印紙)
イ 実費
証拠調べ(鑑定費用)・送達の送料(郵券)
ウ 旅費・日当・宿泊費
裁判官・裁判所書記官の出張(公務員なので『日当』は除外)
証人・鑑定人・通訳人の出張・出廷の日当
エ その他
第三債務者の供託費用など
※民事訴訟費用等に関する法律2条〜
※『民事訴訟法講義案 3訂版』p272
3 訴訟費用の負担の裁判の基本
訴訟費用を当事者のうちどちらが負担するか,ということについては,民事訴訟法にルールが規定されています。実際には,評価によって判断する必要があることが多いです。この判断は裁判所が行います。一種の裁判なので,訴訟費用の負担の裁判といいます。
裁判所は当事者のうちどちらが負担するのかまたはどのような割合で分担するのかということを職権で判断します。
訴訟費用の負担の裁判の基本(※1)
あ 負担する者についてのルール
訴訟事件の訴訟費用をいずれの当事者が負担するかについて
裁判所は,民事訴訟法61〜74条の規定に基いて判断する(後記)
い 訴訟事件における判断
裁判所は,判決主文において(訴訟物についての判断と並んで)訴訟費用の負担の判断結果を示す
具体的な負担する金額を示すわけではない
債務名義となるわけではない
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p262,263
う 職権による判断(裁判)
訴訟費用の裁判は職権によりなされる
実務上,訴状の請求の趣旨に記載するものは原告としての希望という位置づけとなる
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p262
4 判決における訴訟費用を負担する者(まとめ)
判決によって訴訟が終了する場合の訴訟費用を負担する者のルールを整理します。
敗訴した当事者が負担するのが原則です。
実際には,原告の請求の一部が認められる(一部認容)判決も多いです。この場合は実質的に認められた割合に応じて訴訟費用を分担することになります。
判決における訴訟費用を負担する者(まとめ)(※2)
判決内容 | 負担する者 | 根拠 |
請求棄却判決or訴え却下判決 | 原告 | 民事訴訟法61条 |
請求認容判決 | 被告 | 民事訴訟法61条 |
一部認容判決 | 裁判所が裁量で定める | 民事訴訟法64条 |
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p264
5 判決以外による終了における訴訟費用の負担
訴訟が判決以外で終了する形態もあります。一方のアクション(意思表示)で終了させた場合は終了させた者が負担します。
和解では通常,和解条項の中で訴訟費用を各自が負担する,つまり既に負担しているものをそれぞれ相手に請求しない,ということを決めます(合意します)。通常はないですが,仮に訴訟費用をどのように負担するかを決めずに和解が成立した場合には結局,各自負担となります。その意味では,和解における各自負担の条項は確認的な性質なのです。
判決以外による終了における訴訟費用の負担
終了の形態 | 負担する者 | 根拠 |
訴えor上訴の取下 | 取下をした者 | 民事訴訟法73条2項,61条 |
請求の放棄 | 請求放棄をした者(原告) | 民事訴訟法73条2項,61条 |
請求の認諾 | 請求認諾をした者(被告) | 民事訴訟法73条2項,61項 |
裁判上の和解 | 特別の定めor各自負担 | 民事訴訟法68条 |
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p264
6 不必要な行為による訴訟費用の負担の修正
以上のように,訴訟費用の負担のルールの骨格は敗訴者が負担するという分かりやすいものでした。ただ,特殊な事情があると例外的に勝訴者が(も)負担することがあります。
不必要な行為によって訴訟費用が生じたというような状況です。証拠申出などの個々の訴訟行為が必要ではなかったというような状況です。
不必要な行為による訴訟費用の負担の修正
あ 条文規定の要点
(原則として勝訴当事者は訴訟費用を負担しない(前記※2))
裁判所は,勝訴当事者の不必要な行為によって生じた訴訟費用の全部or一部を勝訴当事者に負担させることができる
※民事訴訟法62条
い 必要性の判断の実情
実際には個々の行為が必要であったかどうかの判断が難しいことが多い
勝訴当事者に訴訟費用の一部or全部を負担させるかどうかの判断は,公平に反しない限度において裁判所の裁量に任されている
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p265,266
7 訴訟提起自体が不必要といえるケース
前記の不必要な行為の1つとして訴訟提起自体も含みます。つまり,訴訟を提起しなくても被告は請求に応じた(履行した)のに訴訟を提起したというようなケースのことです。
逆にいえば,法律上は(原則として)被告(相手)が請求に応じない状況ではないとしても訴訟提起自体はできる(適法である)ということです(確認請求などの例外もあります)。
訴訟提起自体が不必要といえるケース
あ 訴訟提起自体の必要性
訴えを起こさなくても権利の実現が直ちにされていたような事情がある場合
→訴えを提起する行為自体が不要なものである場合もありうる
い 具体例
被告は従前から争う(原告の請求を拒否する)素振りをみせていなかった
訴訟提起後,被告が原告の主張する請求原因事実を直ちに認めた
※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p265
8 訴訟費用額確定手続
以上の説明は,訴訟費用を誰が負担するのか,というルールとそれに基づいて裁判所が具体的に負担する者(や割合)を決める手続でした。
裁判所が負担する者を決めても,まだ具体的な金額までは特定していません。そこで,裁判所書記官に金額を特定してもらう手続があります。訴訟費用額確定手続といいます。
これは訴訟費用の負担の裁判が出た後に,改めて独立した申立として行います。とはいっても書記官権限だけで事務的な計算をするというプロセスなので軽い(スピーディーな)手続です。
訴訟費用額確定手続によって金額が確定すると債務名義となる,つまり,強制執行できる状態になります。逆にいえば,強制執行をするような状況ではない(任意に支払う)状況では訴訟費用額確定手続の申立は通常しません。
訴訟費用額確定手続
あ 訴訟費用の裁判(前提)
訴訟費用の裁判では金額は示されない
→債務名義とはならない(前記※1)
い 訴訟費用額確定手続
当事者の申立により,裁判所書記官による処分として具体的な費用の金額を定める
※民事訴訟法67条1項
う 債務名義の性質
書記官の処分(い)は,それ自体で債務名義となる
※民事執行法22条4号の2
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
9 弁護士費用の請求(参考)
前述のように,「訴訟費用」には弁護士への依頼した費用(報酬)は含みません。「訴訟費用」とは別に,損害賠償の中で,弁護士費用の請求が認められることがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|損害賠償として弁護士費用を請求することの可否(責任の種類による分類)
本記事では,民事訴訟法上の訴訟費用の負担の裁判と訴訟費用額確定手続やその対象となる訴訟費用の内容について説明しました。
実際には,訴訟費用が単独で問題となるというより,鑑定を申し立てるかどうか,などの訴訟の進め方の戦略を考える材料の1つとなるという位置づけといえます。
民事訴訟の提起を検討されている方や,遂行する上での問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。