【代表取締役の権限・制限と制限違反の行為の効力(会社法349条4,5項)】

1 代表取締役の権限・制限と制限違反の行為の効力
2 代表取締役の権限の条文と趣旨
3 代表取締役の権限の制限の条文と意義
4 代表取締役の権限の制限の具体例
5 代表権の濫用の効力
6 必要な決議を欠く代表取締役の専決行為の内容(前提)
7 決議が必要とされる根拠による分類
8 組織的行為の制限に違反した行為の効力
9 取引的行為の制限に違反した行為の効力
10 協業取引・利益相反取引の承認(概要)

1 代表取締役の権限・制限と制限違反の行為の効力

会社の代表取締役は,会社法で,大きな権限があると定められています。もちろん,法律や会社内部のルールで権限の制限はあります。ここで,代表取締役が制限を超えて(違反して)行為をした場合にはどのような扱いになるかという問題もあります。
本記事では,代表取締役の権限や制限と,制限に違反した行為の効力について説明します。

2 代表取締役の権限の条文と趣旨

代表取締役の権限は,会社法349条4項に規定されています。会社の業務に関する包括的な権限があるのです。

<代表取締役の権限の条文と趣旨>

あ 条文規定

代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
※会社法349条4項

い 意義

取締役会設置会社,非設置会社のいずれにおいても
代表取締役は対外的な関係において包括的な業務執行権限を有する

う 趣旨

会社法349条4項は,代表権(代理権)の範囲の定めの欠缺を補完する規定である
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p148

3 代表取締役の権限の制限の条文と意義

代表取締役権限の制限に関する規定もあります。
細かく分けると2つの内容となります。
まず,代表取締役の権限を制限することは可能です。
そして,権限を制限した場合に,善意の第三者には(制限があること)を主張できません。
まとめると,制限することはできるが制限できない方向性があるということになります。

<代表取締役の権限の制限の条文と意義>

あ 条文規定

前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
※会社法349条5項

い 意義・趣旨

対内的・対外的に代表取締役の権限の範囲を制限・限定することは可能である
対外的な関係では,善意の第三者に対して代表取締役が業務執行権限を有しないということはいえない
代表取締役の権限は不可制限的なものである
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p148

4 代表取締役の権限の制限の具体例

会社内で,代表取締役の権限を制限することは可能です(前記)。権限の制限の具体例を紹介します。大規模な会社で,複数の代表取締役がいることを想定します。
事業の種類が多いので,事業単位で担当の代表取締役を決めるとか,販売エリアが広いので,販売エリアごとに担当の代表取締役を決めるという制限があります。
また,一定の規模(金額)を超える取引については取締役会の承認を必要とするという制限もあります。

<代表取締役の権限の制限の具体例>

あ 事業・地域の範囲

取締役会の決議により,代表取締役の権限を,ある種類の事業or一部地域の営業に限定する

い 規模の範囲

代表取締役が行う取引につき,一定金額を超えるものについて取締役会の承認を要する(という制限を課す)
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p149

5 代表権の濫用の効力

以上のように,代表取締役の権限は包括的でありとても広いです。
では,代表取締役が権限(代表権)を濫用した場合にはどのように扱うか,という問題があります。濫用というのは,会社のためではなく自己(個人)のために行った取引ということです。
判例は,心裡留保を類推適用します。結論として,取引の相手方が善意かつ無過失であれば保護される(取引の効果が会社に帰属する)ことになります。

<代表権の濫用の効力>

あ 代理権の濫用の典型例

代表取締役が自分の個人的目的(自己のために)で,代表取締役の資格で借入をした
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p149

い 法的扱い(判例)

心裡留保の規定(民法93条ただし書)が類推適用される
相手方が代表取締役の真意を知りor知りうべきであった時は法律行為は効力を生じない
→相手方が善意かつ無過失であれば会社に効果が帰属する
※最高裁昭和38年9月5日

6 必要な決議を欠く代表取締役の専決行為の内容(前提)

本来は,決議が必要なのに,決議を行わずに代表取締役が行為をしてしまったケースでは,この行為の法的扱いが問題となります。独断で行ってしまった行為ということで,専決行為と呼ぶこともあります。
専決行為には,純粋に決議を行わないで行為(取引など)を行ってしまったケースは当然として,決議は行ったのに,後から決議が無効(取消)となった,というケースも含みます。

<必要な決議を欠く代表取締役の専決行為の内容(前提)>

あ 専決行為の内容(基本)

株主総会や取締役会の決議が必要とされている行為について
その手続を経ないで代表取締役が(会社のために)行った

い 結果的な専決行為

株主総会や取締役会の決議を経たが決議に瑕疵があって事後的に決議が遡及的に無効とされた場合
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p149

7 決議が必要とされる根拠による分類

専決行為の法的効力はどうなるか,という法的扱いは,決議が必要とされる根拠によって大きく2つに分けられます。
まず,会社内で作ったルール(による権限の制限)であれば,会社法349条5項が直接適用されます。
結論として,取引の相手方が善意であれば保護されます(会社に効果が帰属します)。
次に,法律上の規定(による権限の制限)である場合は,大雑把にいうと無効になる傾向があります。ただし,具体的な専決行為の内容(種類)によって違ってきます(後記)。

<決議が必要とされる根拠による分類>

あ 自主的制限

決議が必要であるという規定が定款や取締役会規則などの会社の内部規則にある
→会社法349条5項が直接適用される
=原則として無効となる,相手方が善意であれば有効となる
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p149

い 法的な制限

決議が必要であると法律に直接的に定められている
例=法律が株主総会の決議を要求している場合
→一般論としては,原則として無効になる
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p150

8 組織的行為の制限に違反した行為の効力

組織的行為として,代表取締役の権限が制限されているものがあります。
典型例は,新株発行や合併です。個別的な取引とは違い,会社全体に影響があるものなので,会社法の規定により,株主総会の決議が必要とされています。
株主総会の決議がないのに代表取締役(会社)が新株発行の手続をしてしまった場合には,有効となる傾向が強いです。
合併については,株主総会の決議がない以上は無効となります。
なお,実際に無効と主張するためには,無効の訴えを提起する必要があります。

<組織的行為の制限に違反した行為の効力>

あ 新株発行

新株発行に必要な株主総会や取締役会の決議を欠く場合
→有効とする見解が多い
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p150

い 合併

合併契約を承認する株主総会の特別決議を省略して代表取締役が合併登記をした場合
無効となる(無効原因を含む)

う 手続(参考)

『あ・い』の行為の無効の主張について
無効の訴えの提起を要する
※会社法828条1項2号,7号,8号

9 取引的行為の制限に違反した行為の効力

会社法で,代表取締役の取引的行為の権限が規定されているものがあります。
典型例は重要な財産の処分です。取締役会の決議が必要とされています。
では,取締役会の決議がないのに代表取締役が重要な財産の処分(売却など)をしてしまった場合にはどうなるでしょう。判例は心裡留保を類推適用します。これとは別に表見代理を類推適用する見解もあります。いずれも,結論としては,取引の相手方が善意かつ無過失である場合だけ保護されます(会社に効果が帰属します)。
さらに別の見解として,会社法349条5項を類推適用するという見解もあります。この見解では,取引の相手方が善意(無過失は不要)であれば保護されます(会社に効果が帰属します)。

<取引的行為の制限に違反した行為の効力>

あ 重要な財産の処分

重要な財産の処分には取締役会の承認(決議)が必要である
※会社法362条4項1号

い 専決行為(前提)

代表取締役が会社の重要な財産を取締役会の決議(あ)なしに専決処分した
=会社法362条4項1号の違反となる

う 心裡留保の類推適用(判例)

心裡留保の規定(民法93条)を類推適用する
=原則として有効,相手方が悪意or有過失の場合に限って無効となる
※最高裁昭和40年9月22日

え 表見代理の類推適用

表見代理の規定(民法110条)が類推適用されるという見解もある

お 会社法349条5項の適用

代表取締役が取締役会で決議すべき事項をその決議なしでしたということは
まさに代表取締役がその権限に加えられた制限に反して行為したことになる
→会社法349条5項を適用すべきであるという見解もある
=相手方は悪意でない限り保護される
※前田庸著『会社法入門 第13版』有斐閣2018年p513
※奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法2 第2版』日本評論社2016年p150参照

10 協業取引・利益相反取引の承認(概要)

取締役による協業取引と利益相反取引も,会社法で取締役会の決議(承認)が必要とされています。
詳しくはこちら|取締役の競業取引・利益相反取引の制限(会社の承認・全体像)
取締役会の決議がないのに代表取締役が利益相反取引を行ってしまった場合の効力の問題もあります。結論としては,取引の相手方(第三者)が善意(無過失は不要)であれば有効となります(会社に効果が帰属します)。
詳しくはこちら|会社の承認を欠く取締役の利益相反取引の効力と会社の承認の効果

本記事では,代表取締役の権限や制限と,制限に違反した行為(専決行為)の法的効力について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に代表取締役の行為や権限の制限に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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