【強制執行の対象である「その他の財産権」にあたる財産権の種類】
1 強制執行の対象である「その他の財産権」にあたる財産権の種類
2 「その他の財産権」にあたる財産権の全体
3 不動産執行の対象外の不動産の利用権など
4 知的財産権
5 社員持分権など
6 信託受益権
7 (ゴルフ)クラブ会員権
8 その他
1 強制執行の対象である「その他の財産権」にあたる財産権の種類
民事執行法上,強制執行(差押)の対象としていろいろな財産が規定されていますが,最後に「その他の財産権」が規定されています。文字どおり「その他」つまり,あらゆる財産権が強制執行の対象となるわけではなく,独立性・換価可能性・譲渡性という3つの要件をクリアしたものが「その他の財産権」として強制執行できることになります。
詳しくはこちら|「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)
本記事では,「その他の財産権」に該当する具体的な財産の内容(種類)を説明します。
2 「その他の財産権」にあたる財産権の全体
「その他の財産権」に該当する財産権は多いので,最初に,全体をひとまとめにしたものを示します。
<「その他の財産権」にあたる財産権の全体>
あ 明文規定のある財産権
電話加入権,振替株式を含む振替社債,電子記録債権
※民事執行規則146〜149条,150条の2〜8,9〜16
ただし,現在では電話加入権は交換価値を失っているため,強制執行の有用性も失われた
い 明文規定のない財産権
ア 不動産執行の対象とはならない不動産の利用権など(後記※1)イ 知的財産権(後記※2)ウ 社員持分権など(後記※3)エ 信託受益権(後記※4)オ (ゴルフ)クラブ会員権(後記※5)カ 振替株式以外の株式
振替株式以外の株券が発行されていない株式の執行方法については明文の規定がないが,株券交付請求権に対する執行(民事執行法163条)ではなく,その他
財産権に対する強制執行として株式自体への執行によるべきであり,譲渡命令ま
たは売却命令によって換価が行われる
※東京地決平成4年6月26日
キ その他(後記※6)
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1431〜1435
3 不動産執行の対象外の不動産の利用権など
不動産を利用する権利は不動産執行の対象ではないので,結果的に「その他の財産権」に該当します。
立木を「その他の財産権」として扱う判例があります。これについては別の見解もあります。
<不動産執行の対象外の不動産の利用権など(※1)>
あ 不動産の利用権
不動産執行の対象とはならない不動産の利用権
→「その他の財産権」に該当する
例=賃借権,使用借権,温泉権,未登記の地上権,永小作権,これらの共有持分
い 立木
未登記の立木に対する強制執行の方法について
旧法では,不動産執行や動産執行の方法ではなく,立木の伐採権に対する強制執行の方法によるべきとされていた
※最判昭和46年6月24日
動産執行の方法によるべきという反対説もある
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1432
4 知的財産権
知的財産権は特別法により定められた権利(財産権)です。「その他の財産権」に該当する典型例の1つです。ノウハウでも,「その他の財産権」として強制執行ができることもあります。
<知的財産権(※2)>
あ 基本
知的財産権やその共有持分
例=特許権,実用新案権,意匠権,商標権,著作権,著作隣接権,その専用実施権・通常実施権
い 特許を受ける権利
特許権登録前に発明者が有する特許を受ける権利
う ノウハウ
ノウハウは,保管形態がさまざまであるため,特定することができ,かつ第三者に譲渡できるものであれば,執行適格は認められる
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1432,1433
5 社員持分権など
会社の社員持分権や組合の持分権も基本的に「その他の財産権」に該当します。
<社員持分権など(※3)>
あ 執行適格を有する財産権
ア 持分会社(合名会社,合資会社,合同会社)の社員持分権イ 信用金庫の会員持分権
※東京地判昭和44年5月29日,東京高判昭和45年11月26日
ウ 民法上の組合員持分権
有限責任事業組合や各種協同組合の組合員の持分権
い 執行適格が否定される財産権
ア 民法上の組合に属する個別財産に対する各組合員の合有上の権利イ 権利能力なき社団の財産に対する各構成員の総有上の権利 ※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1433
6 信託受益権
信託受益権も「その他の財産権」に該当する典型例の1つです。
<信託受益権(※4)>
あ 基本
(債務者の有する)信託受益権
→「その他の財産権」に該当する
※最判平成18年12月14日参照(振替制度移行前の証券投資信託の受益権)
い 信託財産(否定)
信託財産は,受託者の固有財産に属せず,受託者個人の債権者は信託財産に対して強制執行をすることができない
※信託法23条1項
7 (ゴルフ)クラブ会員権
ゴルフクラブなどの会員権も「その他の財産権」に該当することがあります。
ただし,ひとまとまりになった会員権(契約上の地位)の一部だけを取り出して差押をすることはできません。
<(ゴルフ)クラブ会員権(※5)>
あ 基本
趣味や文化活動等,共通の目的をもって組織されるクラブの会員権
→「その他の財産権」に該当する
い 預託金会員制ゴルフ会員権に関する判例
このような会員権は,ゴルフ場等を優先的に利用する権利,年会費等を納入する義務,預託金の返還請求権等を包含するゴルフ場経営会社に対する契約上の地位であるとともに,譲渡可能な独立した財産権であり,執行適格を有する
※最判平成12年2月9日(法的性質について)
う プレー権・預託金返還請求権(否定)
ゴルフ会員権のうちのプレー権のみを差し押さえることはできない
預託金の返還請求権のみ差し押さえることは,会員の除名や解除により請求権が具体化されている場合を除いて認められない
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1434,1435
8 その他
「その他の財産権」は文字どおり,受け皿として幅広い財産権を受け止めるものです。前述のように,独立性・換価可能性・譲渡性という3要件を満たす必要はありますが,これに該当する財産権は以上で説明したもの以外にもマイナーなものがあります。
<その他(※6)>
あ 金銭債権の準共有部分
「その他の財産権」に該当する(以下同様)
※最大決平成28年12月19日
い 温泉権
う 仮登記上の権利
え 買戻権
お 動産や船舶等の共有持分権
この場合,他の共有者全員を第三債務者に準ずるものとして扱う
分割請求権も処分禁止の対象となる
か 砂金採取権
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1435
本記事では,「その他の財産権」として強制執行の対象となる具体的な財産権の種類を説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に差押や強制執行に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。