【不当利得の価値賠償の算定(市場価値・基準時・事例)】
1 不当利得の価値賠償の算定
2 価値賠償の金額算定の基本
3 転売価格相当額の価値賠償を判断した判例
4 価値賠償の算定基準時
1 不当利得の価値賠償の算定
不当利得の返還義務は原則として原物返還ですが,それが不可能である場合や利得物が金銭である場合には,価値賠償となります。
詳しくはこちら|不当利得返還義務の内容(原物返還と価値賠償)
価値賠償の場合には,次に,賠償する金額をどのように算定するか,ということが問題になります。本記事では,不当利得の価値賠償の金額算定について説明します。
2 価値賠償の金額算定の基本
常識的,一般的な考え方として,価値を金銭評価する場合には,市場価値を使います。
利得者が,市場価値以下で売却した場合には,善意の利得者だけ,現存利益(手元に残った利益)だけを返還すれば足りることになります。
利得者が,市場価値以上で売却した場合でも,原則として返還する金額は原則通り市場価値だけとなります。
<価値賠償の金額算定の基本>
あ 原則
価値賠償は,給付されたものの客観的な価格(市場価格)によるべきである
い 市場価格以下での換価と返還義務の関係
善意の非債弁済の受領者(利得者)が,給付物を市場価格以下で売却したときは,利得消滅の抗弁が成立する
う 市場価格以上での換価と返還義務の関係
ア 原則
利得者が,市場価格以上で転売したときは,売買代金は利得者の才覚,ないしは,利得者の締結した売買契約に由来するから,転売価格相当額が返還請求の対象とはなるわけではない
客観的価値相当額の返還請求が認められるにとどまる
イ 例外
悪意の受領者が,市場価格以上で転売したケースにおいて,これが「準事務管理」に該当した場合,転売価格相当額の請求が認められる
※窪田充見編『新注釈民法(15)債権(8)』有斐閣2017年p103
3 転売価格相当額の価値賠償を判断した判例
利得者が転売した後に不当利得返還請求がなされ,裁判所が金額算定をした実例がいくつかあります。ただし,古い判例が多く,転売価格と市場価値の関係が判明しないものもあります。
<転売価格相当額の価値賠償を判断した判例>
あ 転売価格相当額を否定した判例
利得者が給付を受けた土地の共有持分を第三者に売却したケースにおいて
転売価格相当額の返還請求を認めた原審を違法とした
共有持分の客観的価値相当額の返還請求にとどめた
※大判昭和11年7月8日
い 転売価格相当額を肯定した判例
ア 判例の内容
転売価格相当額の返還請求を認めた
※大判明治38年11月30日
※大判大正4年3月13日
※大判昭和12年7月3日
イ 実質面の指摘
売却代金が客観的価値(市場価格)と一致していたか,利得者が利得消滅の抗弁を主張しなかったケースだと考えるべきであろう
※窪田充見編『新注釈民法(15)債権(8)』有斐閣2017年p104
4 価値賠償の算定基準時
転売とは関係なく,利得物の価値自体の変動を,価値賠償金額にどのように反映させるか,という問題もあります。具体的には,利得(を取得した)時点という見解と原物返還が不可能となった時点という見解の2つがあります。実質的には,価格変動リスク(リターン)を,利得者と給付者のどちらに分配するか,という違いということです。これについては統一的な見解はありません。
<価値賠償の算定基準時>
あ 利得取得時説
ア 見解の内容
(給付利得について)
不当利得が発生したのは給付時である
利得を取得した時点を,価値賠償の算定の基準時とする
イ 実質面(経済面)
有体物が給付されたときに,価値賠償義務の発生までの物の価格の変動を受領者に帰属させる
い 原物返還不能時説
ア 見解の内容
原物返還が可能な限りで損失者(給付者)は給付物の価値を保有していた
原物返還が不能となった時点を,価値賠償の算定の基準時とする
イ 実質面(経済面)
有体物が給付されたときに,価値賠償義務の発生までの物の価格の変動を給付者(所有者)に帰属させる
※窪田充見編『新注釈民法(15)債権(8)』有斐閣2017年p104,105
本記事では,不当利得返還義務の価値賠償の算定について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
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