【非上場株式の評価(非訟手続で採用する評価方法)】

1 非上場株式の評価(非訟手続で採用する評価方法)

特殊な状況では、株式を強制的に買い取る、または、買い取らせる、ことができます。この点、非上場株式は、誰でもすぐに分かる評価額がないので、売買代金、つまり株式の評価額(株価)について、当事者の間で合意に達しないことが多いです。その場合、裁判所が株価を評価する、つまり売買代金を決める手続(非訟手続)があります。
裁判所が株価をどのように決めるか、については、統一的・画一的な計算方法があるわけではありません。本記事では裁判所が非訟手続で非上場株式の株価をどのように計算するのか、ということを説明します。

2 非訟事件手続で株価算定をすることになる場面の例

まずはじめに、裁判所が株価を計算することになる状況、つまり、強制的な買取や売却の方法を使われる状況を押さえておきます。
会社の重大な決定事項に反対する株主が、会社に株式を買い取らせる(自身は株主から外れる)という状況や、譲渡制限株式を譲渡することについて、会社に拒否された株主が会社に株式を買い取らせる状況など、いくつかの状況が定められています。

非訟事件手続で株価算定をすることになる場面の例

あ 反対株主からの株式買取請求

株式譲渡制限規定を定める定款変更決議や合併契約の承認決議などに反対する株主から、会社に対する株式買取請求があったとき
※会社法117条2項、470条2項、786条2項、798条2項、807条2項

い 譲渡制限株式の買取

株主からの株式譲渡承認請求を拒否し、会社または指定買取人が買い取るとき
※会社法144条3項

う 全部取得条項付類株式の取得価格決定の申立

全部取得条項付類株式の取得価格に不服のある株主から、取得価格決定の申立てがあったとき
※会社法172条1項

え 相続人に対する譲渡制限株式の売渡請求

会社が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、定款の定めに基づいて売渡請求をしたとき
※会社法177条3項

お 単元未満株主からの買取請求・売渡請求

単元未満株主から、会社に対する単元未満株式の買取請求または売渡請求があったとき
※会社法193条3項、194条4項

3 株価決定に関する会社法の規定

裁判所が株価を算定する基準として、会社法には「資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」と定められているだけで、具体的な算定方法は定められていません。
なお、非訟手続の種類の中には、基準についての規定(条文)自体がない、というものもありますが、特に解釈が異なるということはないと思われます。
いずれにしても、株価の評価(計算方法)は、裁判所の裁量に委ねられています。

株価決定に関する会社法の規定

あ 譲渡制限株式の譲渡承認拒否による買取

裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
※会社法第144条3項

い 相続人に対する譲渡制限株式の売渡請求

裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
※会社法177条3項

う 単元未満株式の買取請求

裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
※会社法193条3項

え 単元未満株式の売渡請求

第百九十二条第三項及び前条第一項から第六項までの規定は、単元未満株式売渡請求について準用する。
※会社法194条4項

4 インカム方式(収益方式)の内容

裁判所などのような計算方法を採用するのか、ということが問題となりますが、大雑把にいうと、裁判所はいろいろな計算方法の中から適切なもの(組み合わせ)を採用する、ということになります。
そこで、株価の評価方法にはどのようなものがあるか、ということから説明します。
代表的な株価の計算方法として、会社の収益(利益)に着目した、インカム方式があります。これは、将来得られると期待できる収益をリスクを勘案した割引率で引き直して算定する方法で、継続企業の評価に適しており、M&Aにおける算定で最も重要視されている算定方法です。
そのインカム方式にも、DCF方式と配当還元方式とがあります。
DCF方式が会社のキャッシュ・フローを基準として算定する方式であるのに対し、配当還元方式は株主への配当を基準として算定する方式です。

インカム方式(収益方式)の内容

あ インカム方式の内容

(注・インカム方式について)
①は、当該株式から株主が将来得られると期待されるリターンを、当該株式に固有のリスクを勘案した割引率(期待収益率)で現在価値に引き直す方法であり(江頭憲治郎『株式会社法〔第3版〕』[2009]15頁)、当該株式の個性に着目した本源的価値を計測しようとする方法だからである。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

い インカム方式の分類

ア DCF方式 (i)「DCF方式は、将来のフリー・キャッシュ・フロー(=企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産を加算したうえで企業価値を算出し、負債の時価を減算して株式等価値を算出して株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法であることが認められる。」
※広島地決平成21年4月22日
イ 配当還元方式 (ii)「配当還元方式とは、将来給付が予測される利益配当額を現在の価値に引き直して株式価値を算定する方法であり(……)、同方式の中には、
①当該企業で実際に行われている配当金額を用いる方法(実際配当還元法)、
②経営者の配当政策により配当額が左右されないよう一般に妥当とされる配当額を用いる方法(標準配当還元法)、
③企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして評価する方法(ゴードン・モデル方式)
などがある。
……殊に③ゴードン・モデル方式は、上記①②の方式に比較し、収益の内部留保による将来の配当の増加をも計算の基礎に加える点で、より優れているものと評価されている。」
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p44

5 インカム方式の適用場面

インカム方式による算定は、DCF方式、配当還元方式のいずれも、継続企業の価値の評価に適していることから、多くの場面で適用されています。
譲渡制限株式の評価の非訟手続では、その売主が少数株主であっても、企業買収時の評価であっても、継続企業の株式評価である限り、DCF方式、配当還元方式のいずれかが適用されるのが通常です。

インカム方式の適用場面

あ 譲渡制限株式の売買価格の算定→DCF方式

ア 裁判例 (注・譲渡制限株式の売買価格の算定について)
「継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的手法であるDCF方式ということができ、Y1の株式価格の評価に当たっては、DCF方式を採用することが考えられる(……)。」
※広島地決平成21年4月22日
イ 学説 (注・譲渡制限株式の売買価格の決定について)
その際にもっとも重視されるのは、①(注・インカム方式)である。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45
M&Aの隆盛によって、裁判にも①の発想が浸透したせいか、最近の裁判例には、インカム方式を重視するものが多い
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

い 企業買収時の評価→DCF方式

しかし、いずれにせよDCF方式による株式の評価額は、会社のフリー・キャッシュ・フロー(収入から事業活動維持のため必要な投資額を差し引いた金額)の全額を株主が自分のものにできることを前提にした評価額である。
企業買収者は、会社の支配権を取得するから、同人にとってはその前提が成り立つわけであるが、
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

う 小数株主→配当還元方式(特にゴードン・モデル方式)

(広島地決平成21年4月22日について)
少数株主の場合、キャッシュ・フローの全額の分配を受けられる保障はなく、期待できるリターンは剰余金の配当のみではないかという問題がある。
しかし、配当還元方式のうち、本件決定要旨(ii)にいう「実際配当還元法」は、実際上過剰に内部留保がなされる結果、株式の過小評価を導きがちである。
本件決定が採用した「ゴードン・モデル方式」は、内部留保の寄与により将来の剰余金の配当金額が一定割合で増加すると仮定して計算するものであり、本件決定以外にも採用した裁判例がある
(大阪高決昭和58・1・28金判685号16頁、大阪高決平成元・3・28判時1324号140頁)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

6 インカム方式で利用する割引率

インカム方式の中では割引率を使います。割引率とは、将来のリスクを数値にしたものです。
M&Aの実務において多く利用されるのは資本資産評価モデル(CAPM)という手法です。裁判所がこの方法を採用することもあります。一方、割引率をどのように決定したのかを明示しない裁判例も多いです。
いずれにしても、割引率についての画一的な数値や計算方法はないといえるでしょう。

収益方法で利用する割引率

(広島地決平成21年4月22日について)
DCF方式にせよ配当還元方式にせよ、インカム方式においては、将来のリターンの予測およびリスクを勘案した割引率の決定が必要であり、特に難しいのは後者である(この点、②の方式は、割引率を類似会社の市場指標から借用するものといえる。江頭憲治郎「取引相場のない株式の評価」『法学協会百周年記念論文集(3)』[1983]459頁)。
本件決定を含め、割引率をどのように決定したかが判旨から明らかでない裁判例が多いが、M&Aの実務等において多く利用されるのは、資本資産評価モデル(CAPM)の手法を用いるものであり(江頭・前掲株式会社法17頁)、裁判例にも、同手法を用いた例がある
(前掲東京高決平成22・5・24の原決定である東京地決平成20・3・14判時2001号11頁)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

7 類似会社比準方式

株価の計算方法の2つ目は、類似会社比準方式です。これは、事業内容や規模が類似する会社のマーケット上の価値、を元にして、(評価の対象とする会社の)株式の評価額を決めるというものです。
具体的には、類似する上場会社の評価額(株価)に一定の倍率をかける、という計算方法です。比較対象として適切な上場会社があれば比較的簡便な評価方法といえますが、類似しているからといって、常に株価も同様に評価することができるわけではありません。つまり、便宜的な評価方法にすぎないといえます。

類似会社比準方式

(注・類似会社比準方式について)
それに対し②は(②では、評価対象株式に事業等が類似する上場株式のPER〔株価収益率〕、EBITDA倍率、PBR〔株価純資産倍率〕等を用いて株価を算定する)、他社(類似会社)につき成立している指標を利用する便宜的方法にすぎない。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

8 (修正)純資産方式

株価の計算方法の最後は、純資産方式です。文字どおり、会社が持っている資産に着目した評価方法です。
純資産の評価方法として、再調達価格として評価する方法(複製原価基準)と、資産そのものの評価を使う方法(解体価値基準)の2つがあります。いずれも、会社を清算する時には適していますが、継続する企業の価値を算定する場合には適していません。

(修正)純資産方式

(注・(修正)純資産方式について)
③は、貸借対照表から算出される1株当たり純資産額に何らかの修正を加えて株価を算定する方法であるが(復成原価基準、解体価値基準等による修正を行う)、復成原価は、会社につぎ込まれたコストを表すにすぎず、収益力とは関係ないし、解体価値は、本件決定(注・広島地決平成21年4月22日)も述べるとおり、継続企業の評価方法としては相応しくない。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

9 過去の実務傾向→相続税評価を重視

株価を計算する場面は、非訟事件だけではありません。相続税の計算の中でも株式の評価が行われます。
相続財産として株価を計算するときは、国税庁の相続財産評価基本通達に従います。この通達では、会社を大会社、中会社、小会社の3種類に区分し、株式の取得者が同族株主か否かを区別したうえで、その区別に応じて類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額と呼ばれる算式を使い分けて算定することになっています。画一的なルールに従った、迅速な計算方法といえます。
非訟事件手続では、この相続税の計算のための計算方法を流用する傾向が強い時代がありました。
しかし、相続税財産評価基本通達による株価の計算は、個別的な事情を考慮しない大雑把な計算方法です。税務という限られた場面で使うための大胆に割り切った、つまり合理性を犠牲にした計算方法なのです。
また、中小企業では、株式の相続評価を下げるためのいろいろな工夫(相続税対策)をしていることもよくあります。
いずれにしても、株式の買取金額を決める場面でこの計算方法を使うことは合理的ではありません。現在では、裁判所が相続税の計算方法を採用するという傾向は大幅に少なくなっています。

過去の実務傾向→相続税評価を重視

あ 過去の実務傾向

ア 裁判例 実際のところ、かつての裁判例は、国税庁の相続税財産評価基本通達(昭和39直資56直審(資)17)が定める「取引相場のない株式の評価」の算式(会社を大会社・中会社・小会社の3種類に区分し、かつ取得者が同族株主か否かを区別したうえで、類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額と呼ばれる算式を使い分ける。同通達178〜188-6)を当該株式に適用した場合に算出される価格を重視する傾向が強かった
(東京高決昭和46・1・19下民集22巻1・2号9頁、名古屋高決昭和54・10・4判時949号121頁、東京高決昭和59・10・30判時1136号141頁、京都地決昭和62・5・18判時1247号130頁、福岡高決昭和63・1・21判タ662号207頁等)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p44
イ 学説 学説中にも、取引相場のない株式の評価は、ある程度恣意的であっても画一的なルールに従いなされることが重要であるとして、譲渡制限株式の売買価格の算定も相続税財産評価基本通達に則り行われるべきであるとする見解がある(浜田道代「株式の評価」北沢正啓先生還暦記念『現代株式会社法の課題』[1986]451頁)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p44

い 相続税評価に対する批判

しかし、同通達は戦後早い時期に基本的枠組みが作られたもので、個別の会社に画一的に適用して合理的結果が得られると評価できる内容のものでもないし、また中小企業経営者が持株の相続評価を下げるため様々の決算操作等をする(それが可能な内容である)ことも周知のことである。
それらを考えると、同通達を非訟事件において画一的に適用することには賛成しがたい。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

10 株主の属性と株式の評価

では、株式の買取の場面で、株価をどのように評価するのが適切なのでしょうか。
ここまでに大きく3つの計算方法があると説明しましたが、その中の1つが最も適切な計算方法である、というわけではありません。
同じ株式であっても、立場によって評価は大きく違ってくるのです。具体的には、(すでに)保有する株式の数によって、評価が違うのです。
たとえば、多数の株式を持った支配株主の立場では、経営権を支配すること自体に価値があります。自ら取締役となって役員報酬を受けることも可能です。
これに対し少数株主(小規模な株主)の場合、通常、会社からの配当を受ける以外に、経済的な利益を受けることはありません。
そのため、支配株主の保有する株式は高く評価され、少数株主の保有する株式は低く評価されることになります。
そこで、株式の買取が行われるとき、株式の評価はどちらの株主を基準とすべきなのか、ということが問題となります。単に中間をとればよい、とも言い切れません。状況によって用いる計算方法を変えるのが妥当であるといえます(後述)。

株主の属性と株式の評価

あ 株主の属性による評価の違い

同じ株式でありながら、保有者が支配株主か少数株主かによって価値が異なる理由は、
①フリー・キャッシュ・フローの全額を取得できる可能性の有無(3参照)のほか、
②支配株主は、別に事業を行っておればシナジー(相乗効果)獲得の機会がある、
③中小企業の場合、役員報酬を取得できるか否かで大きく違う
(千葉地決平成3・9・26判時1412号140頁〔役員報酬をリターンとして算入する〕)、
④中小企業の少数株式に流動性は乏しいが、支配株式には流動性がある等の点があるからである。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

い 評価基準の選択(少数株主と支配株主)

譲渡制限株式の売買価格決定事案は、通常、少数株主から支配株主への株式移転となるが、当事者のいずれにとっての評価額を売買価格とすべきか。
少数株主にとっての評価額を売買価格とすると、支配株主が転売等を行えば利益を得てしまうので、支配株主にとっての評価額(高い方の値)を売買価格とすべきであるとする見解が有力である(関俊彦『株式評価論』[1983]298頁)。
しかし、上記の①〜④のいずれの理由も、当該評価額の差額を少数株主が取得することを正当化する理由にはならず、したがって、少数株主にとっての評価額を売買価格とするのが理論的ではなかろうか(江頭・前掲関古稀137頁)。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

11 近時の実務傾向(経営権異動ありケース)

前述のように、実際の株式の買取(譲渡)の状況で、相続税評価を用いるのは適切ではありません。最近の実務では、個別的事情よって、複数の評価基準を組合わせて評価することが多いです。
まず、会社経営権の移転を目的とした株式譲渡である場合、支配株主にとっての株式価値算定手法であるDCF法式がよく使われています。DCF方式は将来の収益を予測する算定方法であるため、将来の予測だけでは不安な事情がある場合、他の算定方法による評価額を割合的に入れることで妥当な評価額を算定しています。
また、事業計画案を策定していない中小企業では、過去の収益が今後2~3年継続することを前提とした評価方法を使う場合もあります。

近時の実務傾向(経営権異動ありケース)

(1)経営権の異動あり・旧支配株主から譲渡後の支配株主に
まず、経営権の異動がある場合。
旧支配株主から新支配株主に移る場合ですね。
これは支配株主にとっての株式価値算定手法が合理的とされており、よく使われているのはDCF法です。
利益還元法に優先して適用するという考え方が採られています。
ただ、将来事業が楽観視できない場合は、将来を予測するだけのDCF法のみでは不安だということで、純資産法も7割を入れて算定した判例もあります。
2番目の候補としては利益還元法ですね。
これは事業計画案がない、作る暇がない中小企業の場合に使われるものになります。
過去の収益が今後も2~3年続くことを前提にすることが多いです。
それでも良いとした判例もあります。
また、DCF法や利益還元法では結果から見て少し違和感がある場合に、なぜか時価純資産法と併用する方法も裁判例もあります。
※西中間浩稿『非上場会社の株価算定の実務(前編)』/『二弁フロンティア2019年12月号』第二東京弁護士会

12 近時の実務傾向(経営権異動なし・少数株主間ケース)

次に、株式譲渡が少数株主間で行われるケースでの株価の計算では、配当を基準とした計算方法(配当還元方式)が使われることが多いです。
配当還元方式と他の計算方法を併用する裁判例もあります。ただし、他の計算方法を併用する合理的な理由はないと思います。
そこで、他の算定方法と併用するのではなく、配当還元方式の中で用いる配当性向(純利益からどれだけを配当金の支払に向けたかを示す指標)を修正する方法を採用した裁判例もあります。

近時の実務傾向(経営権異動なし・少数株主間ケース)

(2)経営権の異動なし・少数株主間
経営権の異動がなく、少数株主間でやりとりする場合です。
そのような場合は、少数株主にとって株式価値算定として合理的と言われている配当還元法で算定することが多いです。
その場合、非流動性ディスカウントも考慮している判例があります。
ここでも違和感がある場合は、なぜか純資産と1対1で折衷、併用しているものがありまして疑問はあるのですが、現在の裁判例はそういう状況です。
これに対しては批判もありまして、もしその配当還元で結果がおかしいのであれば、配当性向を考え直した方が合理的ではないかということで、そのやり方をとった判決が、大阪地裁平成27年7月16日の決定です(金商1478号26頁)。
ここはいろいろ考え方が分かれていて、裁判例も落ち着いていないところなので、これが正しいといったやり方が確立されている分野ではないです。
※西中間浩稿『非上場会社の株価算定の実務(前編)』/『二弁フロンティア2019年12月号』第二東京弁護士会

13 近時の実務傾向(経営権異動なし・少数株主→支配株主ケース)

最後に、経営権の変動がないケースです。実際にはこのケースがとても多いです。典型例は、少数株主が支配株主に株式を譲渡する(買い取られる)というケースです。
譲り渡す少数株主を基準とすれば、配当還元方式が妥当です。評価額が低くなる傾向があります。
これに対し、譲り受ける支配株主を基準とすれば、DCF方式が妥当です。評価額が高くなる傾向があります。
これをどのように調整するのかが問題となります。
交渉力の差異がないことから単純に1対1の割合で折衷した裁判例もあります。中立で公平だと思えますが、過剰に単純化しすぎているともいえます。
他の事情、たとえば、株式の保有割合を反映させるという方法も提唱されています。合理的だと思いますが、そのような算定方法を取り入れた裁判例は今のところ見当たりません。

近時の実務傾向(経営権異動なし・少数株主→支配株主ケース)

(3)経営権の異動なし・少数株主から支配株主に(実務上多いケース)
経営権の異動はないケースで、少数株主から支配株主に異動する場合、支配株主が株を集めるような場合です。
これは実務上多いケースです。
この場合の裁判所の大きな考え方としては、渡しているのは少数株主で、受け取っているのは支配株主ですが、株価算定での少数株主にとっての株式価値と、支配株主にとっての株式価値は違いますので、これをどう調整するのかという点が論点になります。
裁判所は現在のところ1対1で折衷しています。
通常の交渉では交渉力の差異がありますが、これは会社法の規定を使った株価算定なので交渉力は対等だという前提において1対1としているようです。
例えば支配株主にとっての株価算定をDCF法で算定し少数株主にとっての株価算定は配当還元法、ゴードン・モデル法を使って1対1で按分した金額になるとしたのが、広島地裁平成21年4月22日の決定です(金商1320号49頁)。
このように1対1で折衷するやり方については批判も多く、単純に1対1で足すのではなく、保有割合まで見るべきではないのかという考え方があります。
例えば、譲渡前、少数株主が3%しか持っていなかったとしたら、支配権プレミアムを得るにはあと47%必要なので、3対47で折衷すべきという考え方ですね。
もう1つの考え方は、通常、株価交渉をする場合、こちらは10%妥協するからそちらも10%妥協してほしいというやり方をしているので、単純な算術平均ではなく、幾何平均、ルートを使ってやるべきだという考え方です。
ただ、これは書籍に表れている新しい考え方で、判例があるわけではないです。
※西中間浩稿『非上場会社の株価算定の実務(前編)』/『二弁フロンティア2019年12月号』第二東京弁護士会

14 非訟手続で採用した評価方法(比重の配分)

以上のように、裁判所による株価の計算では、複数の計算方法を事情に応じて採用して(組み合わせて)います。その組み合わせ(比重の置き方)は、個別事情によって違いが出ています。

非訟手続で採用した評価方法(比重の配分)

あ 平成17年札幌高決

配当還元・収益還元方式の割合→75%
純資産方式→25%
※札幌高決平成17年4月26日

い 平成20年東京高決

収益還元方式のみ
※東京高決平成20年4月4日

う 平成21年広島地決(概要)

DCF方式→50%
配当還元方式→50%
※広島地決平成21年4月22日(後記※1

え 平成21年福岡高決

DCF方式→30%
純資産方式→70%
福岡高決平成21年5月15日

お 平成22年東京高決

DCF方式のみ
※東京高決平成22年5月24日

15 平成21年広島地決の内容(経営権の異動なし)

前述のとおり、経営権の変動がないケースでは、少数株主と支配株主の立場による評価額の違いが表面化します。平成21年広島地決では、単純に中間をとった、つまり、少数株主にとって適切な配当還元方式(ゴードン・モデル)と、支配株主にとって適切なDCF方式を1:1の比重で採用したのです。
この「1:1」という比率(比重)については、前述のように批判があります。実際に裁判所が同様の状況で、同じ判断(1:1の採用)をするとは限りません。

平成21年広島地決の内容(経営権の異動なし)(※1)

(平成21年広島地決について)
(iii)裁判所は、本件においては、
株式の買主の立場からもっとも理論的な(i)の方式(注・DCF方式)と売主の立場からもっとも合理的な(ii)のゴードン・モデル方式とを1対1で折衷すべきであるとし、他方、純資産方式については、事業継続を前提とする会社の企業価値を評価する方法ではない等の理由で排斥した。
そして、(i)の方式による評価額を2339円、ゴードン・モデル方式による評価額を411円と算定し、結論として、1株1375円を売買価格とした。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p44
本件決定は、支配株主(本件買主)・少数株主(本件売主)にとって株式の価値は異なるとしたうえで、前者・後者それぞれにとって適切とするDCF方式・ゴードン・モデル方式による評価額を1対1の比率で折衷し、売買価格とした。
※江頭憲治郎稿『譲渡制限株式の評価』/『会社法判例百選 第2版』有斐閣2011年9月p45

本記事では、非訟手続における非上場株式の評価方法について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の株価算定(評価額)についての問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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