【請負による製作物(完成建物)の所有権の帰属(材料提供者による判別・特約の例)】

1 請負による製作物(完成建物)の所有権の帰属(材料提供者による判別・特約の例)

請負契約により、請負人が製作した場合、その製作物の所有権が誰に帰属するのか、という問題があります。典型例は、建物の建築工事請負契約における完成した建物の所有権の帰属です。
本記事ではこれについて説明します。

2 請負による製作物の所有権の帰属→材料提供者

請負契約により請負人が製作した物(製作物・成果品)の所有権が誰に帰属するか(所有権の帰属)は、材料の供給者が誰であるかによって決まります。
注文者が材料の全部または主要部分を供給した場合、所有権は原始的に注文者に帰属します(大判昭和7年5月9日)。
一方、請負人が材料を供給した場合、所有権は請負人に帰属します。その後、引渡によって注文者に所有権が移転します(大判明治37年6月22日、大判大正3年12月26日、大判大正4年5月24日)。
ただしこれは原則論です。特約がある場合は別です(後述)。

3 請負人から注文者への所有権移転時期→引渡時

前述のとおり、請負人が材料を提供した場合、(特約がなければ)所有権は請負人に帰属します。その後、請負人が注文者に製作物の引渡をした時点(納品した時点)で、所有権は注文者に移転します(大判明治37年6月22日、大判大正3年12月26日、大判大正4年5月24日、大判昭和40年5月25日)。この所有権移転時期についても特約があれば別です(後述)。

4 請負における所有権の帰属に関する特約

(1)特約の効力→有効

以上のように、請負による製作物の所有権の帰属と、(請負人に所有権が帰属したケースでの)所有権の移転については判例で原則論が確立しています。
これらについての特約は有効です。つまり特約がある場合には、原則論ではなく特約のルールが適用されるのです(大判大正5年5月6日、大判昭和18年7月20日、最判昭和46年3月5日)。

(2)特約の具体例

特約の具体例としては、製作物の完成時代金支払時に、注文者に所有権が帰属する、というものがあります(大判大正5年12月13日、最判昭和44年9月12日)。
また、船舶の建造の請負契約に関して、建造の進捗に応じて所有権が注文者に帰属する、という特約もあります(大判大正5年5月6日)。

5 注文者への所有権帰属を否定する学説

以上で説明した判例とは別の見解をとる学説もあります。建物建設の請負契約について、請負人が材料を提供した場合でも、完成時に所有権が注文者に原始的に帰属するという見解です。
判例のとおりにいったんは請負人に所有権が帰属するとした場合、建物の登記は、請負人名義で所有権保存登記をすることになります。このことが妥当ではない、ということも理由となると考えられます。

注文者への所有権帰属を否定する学説

あ 判例とは異なる見解の紹介

学説は、おおむね上記のような判例を支持してきたが、近時、建物建築の請負においては、請負人が材料の全部または主要部分を供する場合にも、完成した建物の所有権は注文者において原始的に取得するものと解すべきである、とする説が有力となっている(たとえば、加藤・教室120、内山尚三「建築請負と建物所有権の帰属」続判例百選〔昭36〕81、柚木馨「請負と所有権移転の時期」判例演習(債権法2)〔昭39〕83、吉原節夫「請負建築家屋の売買と所有権」不動産取引判例百選〔昭41〕103、広中238、来栖468、星野261、鈴木447)。

い 判例を支持する見解の紹介

しかし、判例支持説もなくなったわけではない(たとえば米倉明「完成建物の所有権帰属―請負人帰属説でなぜいけないか」金商604号〔昭55〕18。これは前掲最判昭54・1・25にふれつつ自説を開陳したものであるが、同判決にふれつつ注文者帰属説を妥当とした例として、石神兼文「請負と建物所有権の帰属」新版判例演習民法4債権各論〔昭59〕143)。

う 広中俊雄氏見解→検討が必要

思うに、建物建築の請負においては、請負人が材料を供する場合にも、完成した建物の所有権がいったん請負人に帰属するということを前提として請負人が所有権保存登記をなしうるとするのは必ずしも妥当とは考えられないが、さりとて請負代金の支払をせず(通常はその結果)引渡も受けていない注文者が建物の完成と同時にその所有権保存登記をなしうるとするのも妥当かどうかは疑わしいように思われるのであり、この点をもふくめて、問題となる諸事項についての検討が今後なお必要であろう。
※広中俊雄稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)』有斐閣2003年p127、128

6 関連テーマ

(1)建物増改築工事における加工の適用→否定

以上の説明の前提は、建物全体を建築する、つまり新築のケースです。この点、建物が存在していて、増築や改築工事をする、という場合にはあてはまりません。増改築の場合には、民法の加工の規定は適用されません。A所有の建物に、Bが(資金を出して)増改築をしても、増改築部分を含めた建物全体はA所有のまま、という結論です。
詳しくはこちら|民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)

(2)注文者が複数のケース→原則共有・合意が優先

たとえば建物の建築請負の注文者がABの2人である場合は、(原始的または引渡により)ABに所有権が帰属します。つまり、共有ということになります。共有持分割合は通常、負担した資金の割合となります。
ここでも特約(合意)が優先になります。たとえばAの単独所有にするという合意があればこのとおりになります。
詳しくはこちら|共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)

本記事では、請負による製作物(完成建物)の所有権の帰属について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に新築建物など、請負契約で完成した物の所有権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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