【医療機関の非営利性ルール(法規制とコンサルティング契約の留意点)】

1 医療機関の非営利性ルール(法規制とコンサルティング契約の留意点)

病院、診療所といった医療機関は、原則として非営利でなくてはなりません。ただし、(非営利の運営主体に)営利企業がサポートすることまでは禁止されていません。本記事ではこのようなことを説明します。

2 医療機関の開設者に関する規制→非営利限定

医療法では、営利目的の者の医療機関開設申請に対して許可を与えないのが原則です。これは、利益重視により医療サービスの質が低下したり、安易に撤退したりするおそれがあるためです。医療機関は、赤字であっても継続して医療サービスを提供することが求められており、この規制は医療の公共性を担保する重要な役割を果たしています。

医療機関の開設者に関する規制→非営利限定

あ 条文

都道府県知事は、営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、前項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。
※医療法7条5項

い 趣旨(理由)

ア 公益性の確保 医療は国民の生命と健康に直結する公共性の高いサービスである
営利追求よりも公益性が重視される
イ 医療の質の担保 利益追求が優先されることで生じるリスクを軽減する
不必要な医療や粗悪な医療サービスの提供を防ぐ
ウ 医療の継続性 経済的に採算が取れない場合でも、必要な医療サービスを継続して提供する
地域医療の安定的な確保につながる
エ 公的資金の適正利用 税制優遇や補助金などの公的支援を受ける見返りとして非営利性が求められる
公的資金の使途の透明性と適正性を確保する

3 株式会社による医療機関開設の制限

株式会社は営利を目的とする法人です。そこで、株式会社による医療機関の開設、運営は原則として認められていません。ただし、例外として、専ら当該法人の職員の福利厚生を図る目的での開設や、構造改革特別区域法に基づく特定の高度医療を行う医療機関の開設は可能です。

株式会社による医療機関開設の制限

あ 原則

株式会社は営利目的であるため、医療機関を開設できない

い 例外1=福利厚生目的

ア 要点 専ら当該法人の職員の福利厚生を図る目的での開設は可能である
開設後に、医療機関不足等の場合、近隣住民の診療を行うことが可能である
イ 通達 営利法人が開設した医療機関が近隣住民の診療を行うことは、医療機関不足等の場合に限り認められる
※「医療法に関する疑義の件」昭和25年2月14日医収第92号愛知県知事あて厚生省医務局長回答

う 例外2=特区

構造改革特別区域法に基づく特定の高度医療を行う医療機関の開設が可能である

4 医療系コンサルタントの関与→可能だが制限あり

(1)経営参加→原則禁止

医療機関の運営に関して、プロのサポートは有用であり、実際に医療系コンサルタント(コンサルティング会社)が運営を手伝っている実例は多いです。ただし、あくまでもコンサルタントが行うのはサポートです。経営を行う、つまり医療機関の開設者、管理者、医療法人の役員になることはサポートではなく自ら運営することなので禁止されています。ただし一定の例外はあります。

経営参加→原則禁止

あ 原則

医療系コンサルティング会社の役職員は、利害関係のある医療機関の開設者や管理者、法人役員になれない

い 例外

(ア)医療機関の非営利性に影響を与えない場合(イ)取引額が少額の場合

(2)資金提供→制限あり

資金を提供することは、経営、運営そのものでありません。そこで、たとえばコンサルタントの一環として資金提供をすることは禁止されていません。ただし、経営参加が目的となっている場合は当然禁止されます。

資金提供→制限あり

あ 経営参加目的→禁止

経営に参加する目的での資金提供は禁止される

い 経営参加なし→可能

医療機関の開設・経営に関与するおそれがない場合は資金提供可能である

(3)コンサルティング契約→可能

前述のように、医療機関が医療系コンサルタントと契約することは禁止されていません。ただし、注意すべき点があります。
まず、コンサルティングフィーを医療機関の収入の一定割合とした場合、医療法上の利益配当規制に抵触する可能性があります。この点、名目が不動産の賃料でも、その金額が収入の一定割合であれば、実質は利益分配にあたる、という通達があります。
また、市場相場より著しく高いフィーは税法上寄付金とみなされる可能性があります。

コンサルティング契約→可能

あ コンサルティング契約の可否→可能

契約締結自体は可能である

い 注意点1=利益配当規制

ア 要点 コンサルティングフィーを医療機関の収入の一定割合とすることは、医療法上の利益配当規制に抵触する可能性がある
イ 通達 医療機関が賃借する土地、建物等の賃料を当該医療機関の収入の一定割合とすることは認められない
※「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」平成5年2月3日総第5号、指第9号

う 注意点2=務上の寄付金該当性

市場相場より著しく高いフィーは税法上寄付金とみなされる可能性がある

参考情報

※田辺総合法律事務所編『病院・診療所経営の法律相談』青林書院2013年p32〜35

本記事では、病院や診療所の非営利性のルールについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に病院や診療所の開設や運営に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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