【財産開示手続の管轄と手続の流れ】

1 財産開示手続の管轄と手続の流れ

債務名義を取得した債権者や先取特権をもつ債権者は、裁判所の財産開示手続を利用して債務者の財産の調査をすることができます。
詳しくはこちら|裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)
本記事では、どの裁判所に申立をするか(管轄)と、手続の流れの全体像を説明します。

2 財産開示手続の管轄→債務者の住所地

財産開示手続の管轄は、債務者の住所地を基準に決定されます。専属管轄となっています。
ここで、債務者の住所地が遠方である場合には利用しにくいと思ってしまいますが、心配ありません。財産開示手続では債権者(申立人)の出席は不要なのです(後記※1)。

財産開示手続の管轄→債務者の住所地

あ 管轄(基本)

債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所
※民事執行法196条、民事訴訟法4条

い 専属管轄

専属管轄である
※民事執行法19条

3 財産開示手続の流れ(全体)

財産開示手続は、まずは、一定の要件を満たす債権者の申立から始まります。
詳しくはこちら|財産開示手続の要件(申立権者・不奏功要件・申立制限)
裁判所が要件を確認できたら実施決定をします。
その後、財産開示期日の指定、債務者への呼出し、財産目録の提出、そして実際の財産開示期日の実施へと進みます。
このプロセスで、債権者が一定の情報を得ることになります。
詳しくはこちら|財産開示手続の開示情報の内容と範囲(債権者が得られる情報)
各段階には明確な期限や要件が設定されています。

財産開示手続の流れ(全体)

あ 申立
い 裁判所の実施決定
う 財産開示期日の指定、呼出

財産開示実施決定確定後、執行裁判所が財産開示期日を指定し、申立人および開示義務者を呼び出す

え 財産目録提出期限

財産開示期日の約10日前に設定される

お 財産開示期日の実施

※民事執行法197条、198条、199条

か 記録の閲覧・謄写

申立人以外の一定の債権者も記録の閲覧・謄写をすることができる(後記※2

4 財産開示実施決定

(1)財産開示実施決定の手続→決定後告知

以上の手続の流れの中で、裁判所の決定として重要なのは財産開示実施決定です。
裁判所は申立ての要件を審査し、満たされていれば実施決定を、そうでなければ却下決定を行います。この決定は当事者に告知されます。

財産開示実施決定の手続→決定後告知

あ 決定の種類

執行裁判所は、要件が満たされていると判断した場合に実施決定、そうでない場合は却下決定を行う

い 決定の告知

実施決定は当事者に告知され、債務者には実施決定正本を送達

う 決定の効力

財産開示実施決定は、確定しなければ効力を生じない

(2)財産開示実施決定に対する不服申立→執行抗告

財産開示実施決定に対する不服申立の手段があります。
債務者は実施決定に対し、申立人は却下決定に対し、それぞれ1週間以内に執行抗告を行うことができます。また、一般先取特権に基づく手続では、担保権の不存在や消滅を理由とする特別な申立が可能です。

財産開示実施決定に対する不服申立→執行抗告

あ 債務者の執行抗告

債務者は送達を受けた日から1週間以内に執行抗告可能

い 申立人の執行抗告

却下決定の場合、申立人に却下決定正本を送達し、申立人は1週間以内に執行抗告可能

う 一般先取特権に基づく財産開示手続

担保権の不存在または消滅を理由とする申立てをすることもできる(民執203条・182条)

5 財産目録の提出

裁判所が実施決定を出した後は、いよいよ財産開示期日を実施して、その期日において情報の開示をすることになるのですが、実際には、事前に債務者が財産目録を提出する、つまり書面で財産を開示する仕組みになっています。

財産目録の提出

あ 財産目録の提出期限

裁判所は財産目録の提出期限を定める
財産開示期日よりも前の日を設定する

い 提出義務

債務者は、財産開示期日の陳述の対象となる財産を記載する
提出期限までに執行裁判所に提出する
※民事執行規則183条

う 提出期限の通知

財産目録の提出期限と通知は、財産開示期日呼出状とともに送達される

6 財産開示期日

(1)財産開示期日における宣誓と陳述

財産開示期日では、債務者に宣誓義務が課され、虚偽の陳述は刑事罰の対象となります。原理的には債務者が財産を陳述するのですが、実際には口頭で伝えるわけではなく、財産目録を引用する、つまり、「すでに提出してある財産目録のとおりです」と述べる方法が通常です。

財産開示期日における宣誓と陳述

あ 宣誓

執行裁判所は開示義務者に宣誓の趣旨および陳述拒絶等の罪を説明する
債務者は宣誓をする

い 陳述方法

財産目録を引用して陳述することが可能

う 一部財産開示後の手続

申立人の同意があるか、債権の完全な弁済に支障がなくなったことが明らかな場合、残りの財産の陳述は不要(執行裁判所の許可必要)
※民事執行法200条1項

え 債権の完全な弁済に関する判断

申立人の債権の完全な弁済に支障がないことが明らかである必要性あり
優先債権者の存在を考慮する必要あり

(2)財産開示期日における質問権→質問可能

財産開示期日では、執行裁判所と申立人(債権者)に、債務者に対する質問権が認められています。

財産開示期日における質問権→質問可能

あ 裁判所・債権者の質問権

執行裁判所・申立人について
債務者に対して質問をすることができる

い 質問事項

債権者の質問について
債務者の財産の状況の把握に必要なものに限られる
執行裁判所の許可を得た事項に限られる
※民事執行法199条3項、4項

(3)財産開示手続における債権者の出席→不要

財産開示手続における債権者(申立人)の出席は、法律上必須とはされていません。前述のとおり、財産開示手続の管轄は債務者の住所地のみとなっています。債権者の遠方の地であったとしても財産開示手続の利用の障害にはなりません。

財産開示期日への債権者の出席→不要(※1)

申立人(債権者)の出席について
→出席しなくても期日の手続を実施することができる
※民事執行法199条5項

7 財産開示手続の記録の閲覧・謄写

財産開示手続が終わると、開示された情報(財産目録)は裁判所で記録として保管されます。この情報(記録)は、申立人以外の債権者が閲覧や謄写をすることもできます。

財産開示手続の記録の閲覧・謄写(※2)

あ 閲覧・謄写をすることができる債権者

(ア)財産開示手続の申立人(イ)債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者(ウ)債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者 ※民事執行法201条

い 開示内容

“過去の”財産開示手続の記録を閲覧・謄写できる

8 債務者への制裁(概要)

実際には、債務者がルール通りに正直に情報を開示するとは限りません。情報開示を拒否した(実施決定を無視した)場合や虚偽の情報を開示した場合などは刑事罰の対象となっています。
<→★制裁

9 参考情報

参考情報

※園部厚著『実務解説 民事執行・保全 第2版』民事法研究会2022年p271〜274

本記事では、財産開示手続の管轄と手続の流れについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産開示手続など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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