【形成の訴えの基本事項(定義、特徴、訴えの利益)】

1 形成の訴えの基本事項(定義、特徴、訴えの利益)

訴訟の分類に「形成の訴え」というものがあります。ごく普通の類型(分類)である給付訴訟や確認訴訟とは違う特徴があります。本記事では、「形成の訴え」に共通する基本的事項を説明します。
なお、細かい特徴については、形成の訴えをさらに3つに分類して、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形成の訴えの分類(実体法上の形成の訴え・訴訟法上の形成の訴え・形式的形成訴訟)

2 形成の訴えの定義と特徴

形成の訴えは文字どおり、形成判決を求める訴えです。判決によって新たな権利関係が形成される、つまり、判決が権利関係のの創設や既存の権利関係の変更・消滅をする、というものです。これは確認判決や給付判決にはない特有の効力です。
形成の訴えを認める条文が多くありますが、条文がないものもあります。そこで定義に「条文で規定されている」という言葉は入っていません。

形成の訴えの定義と特徴

あ 定義

形成判決を求める訴えであり、判決によって新たな権利関係の創設や既存の権利関係の変更・消滅を目的とする訴え

い 形成の訴えの別称

(ア)創設の訴え(イ)権利変更の訴え

う 「形成」の内容=形成判決の効力

(ア)従前の権利または法律関係を変更・消滅させる(イ)第三者に対しても効力を生じさせる

え 原告敗訴の本案判決の性質

形成を求める地位の不存在を確定する確認判決である

3 形成判決の効果の特徴(形成か確認かの議論のモト)

(1)形成判決の効果の特徴→画一性+権利変動は判決のみ

形成判決の効果は、前述のように権利関係の形成です。給付判決や確認判決の効果とは大きく違う特徴があります。
まず、訴訟の当事者以外にも効力が及ぶという画一性です。
次に、権利関係の形成は、判決による権利変動に限定されます。つまり、判決の確定によって初めて従前の権利または法律関係に変動が生じます。逆にいえば、形成判決が確定しない限り、何人も、その権利または法律関係の変動を主張できず、他の訴訟の前提(請求原因や抗弁)としても主張できないのです。

特徴→画一性+権利変動は判決のみ

あ 判決の形式

形成判決は主文中で法律関係変動の宣言を行う

い 画一性

多数の利害関係人に対する関係で権利または法律関係変動の効力が及ぶことを画一的に明確にする

う 権利変動は判決に限定

判決の確定によって従前の権利または法律関係に変動が生じる
形成判決の確定までは法律関係の変動が生じない

え まとめ

形成判決が確定しない限り、何人も、その権利または法律関係の変動を主張しえず、他の訴訟の前提としても主張できない

(2)形成の訴えと確認の訴えの比較表

形成の訴えの判決の特徴は重要です。内容としては重複することが多いですが、確認の訴えとの比較の表にまとめます。特徴(違い)が具体化する典型は(無効確認訴訟とは)別の訴訟で抗弁として主張できるか、というところです。実際に、これが認められるかどうかの結論を出すために、形成か確認かの議論を使うことになる、という構造が多いのです。

形成の訴えと確認の訴えの比較表

特徴 形成の訴え 確認の訴え 判決の効力 判決により権利関係が変動する 既存の権利関係を確認するのみ 第三者への効力 多数の利害関係人に効力が及ぶ(画一性) 原則として当事者間のみ 権利変動のタイミング 判決の確定によってのみ生じる 判決とは関係なく既に存在 抗弁としての主張 形成判決が確定するまで他の訴訟の前提として主張できない 確認された権利関係を他の訴訟で抗弁として主張できる

4 形成の訴えの訴訟法的理論

形成の訴えは、文字どおり「訴訟」ですが、訴訟法上の理論(性質)は、一般的な訴訟と違うところがあります。

形成の訴えの訴訟法的理論

あ 請求の内容

形成の訴えにおける請求の内容は、法律関係とその変動の原因となる法律要件である

い 訴えの内容

形成の訴えにおける訴えの内容は、法律関係の変動を宣言する本案判決を求めることである

う 訴訟物

形成訴訟における訴訟物は、形成原因(要件)である

え 「形成権」の多義

形成訴訟における形成権は、実体法上の形成権とは区別される

5 形成の訴えの分類・形成か確認か問題(概要)

「形成の訴え」は、さらに3つの類型に分類できます。3つに分類することによって、細かい法的扱いを整理できます。たとえば「形成の訴え」、「確認の訴え」のどちらなのか、という大きな問題も、特定の類型で具体化します。3つの類型の分類や、「形成か確認か」の問題については、別の記事で説明しています(逆に、本記事では、「形成の訴え」に共通することを説明しています)。
詳しくはこちら|形成の訴えの分類(実体法上の形成の訴え・訴訟法上の形成の訴え・形式的形成訴訟)

6 形成の訴えにおける訴えの利益

(1)形成の訴えの訴えの利益の基本→規定上の提訴権者

訴えの利益は訴訟一般で要求される訴訟要件です。
ところで、形成の訴えは、法律上に「訴訟を提起できる」というルールがあります(筆界確定訴訟では間接的な規定にとどまります)。そのルール(条文)上、訴えを提起できると定められている者には当然、訴えの利益が認められます。

訴えの利益の基本→規定上の提訴権者

形成の訴えは、団体の法律関係や人事法律関係のように、その性質上画一的に法律関係の変動を規制する必要がある場合に規定される
法律の規定によって提起できる場合には、原則として訴えの利益がある

(2)正当な当事者→法定当事者または直接影響者

前述のように、条文上、形成の訴えを提起できる者はもちろん提訴できます。ただ、条文上、誰が提訴できるかが明確に定められてないものもあります。その場合は、形成判決によって法律上の効果の変動を直接受ける者が訴えを提起できることになります。

正当な当事者→法定当事者または直接影響者

あ 原則→法定当事者

当事者として法定されている者
※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律264条2項・269条各号
※会社法831条1項・834条各号

い 例外→直接影響者

当事者が法定されていない場合は、形成判決によって法律上の効果の変動を直接受ける者

(3)訴えの利益の判定おける過去の状況→含める傾向

訴えの利益の有無を判断の原則論としては、現在の紛争解決につながることが必要です。過去の状況は判断材料にならないのが原則です。この点、形成の訴えにおける訴えの利益の判定に関しては、従来の判例では、形成の対象となる処分が過去のものとなったときは訴えの利益が消滅するという傾向がありましたが、その後、過去の状況であっても、それを解消することで現在の状況に影響があるならば訴えの利益を認める傾向にシフトしています。

訴えの利益の判定おける過去の状況→含める傾向

あ 従来の判例の立場→過去の状況否定

形成の対象となる処分が過去のものとなったときは、訴えの利益が消滅する(後記※1

い 現在の判例の立場→過去の状況肯定

処分の効果が過去のものとなっても、その取消によって回復すべき法律上の利益が存在するときには、訴えの利益が認められる

(4)訴えの利益の判定で過去の状況を含めなかった判例

前述のように、従来の判例の傾向では、無効や取消の対象となる行為の時点の後で状況が変わった場合に、訴えの利益が消滅したと解釈する傾向がありました。このような解釈をとった判例をまとめます。

訴えの利益が消滅したと判断した判例(※1)

あ 地方議会議員の除名決議取消

地方自治体の議員の任期満了後は、その議員の除名決議の取消しを求める訴えの利益がない
※最判昭和27年2月15日
※最判昭和35年3月9日
※最判昭和36年7月18日

い 皇居外苑使用不許可処分取消

メーデーのための皇居外苑使用不許可処分の取消しを求める訴えに関し、その期日が経過した場合は訴えの利益がない
※最判昭和28年12月23日

う 首長選挙の無効確認

市長等の選挙の効力を争う訴えに関し、その後市長等が辞職した場合は訴えの利益がない
※最判昭和30年4月28日

え 首長不信任決議無効確認

村長不信任決議無効確認の訴えに関し、その後新村長が選挙された場合は訴えの利益がない
※最判昭和31年10月23日

(5)訴えの利益の判定で過去の状況を含めた判例

前述のように、近年の判例の傾向は、状況が変わったとしても、過去の行為の無効や取消の判決で、現在の法律上の利益に影響があるならば訴えの利益を認める、というものです。このような判断をした判例をまとめます。

現在の解釈を採用した判例

– 免職された公務員が免職処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として届出をしたため、法律上その職を辞したものとみなされた場合でも、当該訴えの利益を認めるのが相当である
※最判昭和40年4月28日、最判昭和40年8月2日、最判昭和43年12月24日

(6)団体の決議関係の訴訟における訴えの利益の判断

形成の訴えにおける訴えの利益の判断について、画一的な判断基準を立てることはできず、最終的には個別事案によって判断されることになります。実務では過去の事例における判断が参考になります。そこで、主要な判例における判断の要点を紹介します。

団体の決議関係の訴訟における訴えの利益の判断

あ 訴えの利益を肯定した判例

ア 役員選任の株主総会決議取消しの訴え 役員選任の株主総会決議取消しの訴えの係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任されたときは、特別の事情のない限り、この訴えは訴えの利益を欠くが、この訴えが当該取締役の在任中の行為について会社の受けた損害を回復することを目的とする旨の特別事情があるときは、訴えの利益は失われない
※最判昭和45年4月2日
イ 計算書類等承認の株主総会決議取消しの訴え 計算書類等承認の株主総会決議取消しの訴えの係属中、その後の決算期の計算書類等の承認がされた場合であっても、該計算書類等につき承認の再決議がされたなどの特別の事情のない限り訴えの利益は失われない
※最判昭和58年6月7日

い 訴えの利益を否定した判例

ア 新株発行の株主総会特別決議取消 株主以外の者に新株引受権を与える旨の株主総会特別決議につき決議取消しの訴えが係属する間に、この決議に基づき新株の発行が行われてしまった場合には訴えの利益は失われる
※最判昭和37年1月19日
イ 取締役・監査役選任の株主総会決議の不存在確認 取締役・監査役の選任決議を内容とする株主総会決議の不存在確認の訴えは、取締役・監査役が退任した後においては訴えの利益を失う
※最判昭和43年4月12日
ウ 商工組合の創立総会における定款承認決議取消 中小企業団体の組織に関する法律に基づく商工組合の創立総会における定款承認決議取消しの訴えの係属中に、当該商工組合の設立が認可され、その設立登記がされたときは、特別の事情のない限りこの訴えは訴えの利益を欠くに至る
※最判昭和49年9月26日
エ 建設協会に対する除名決議無効確認訴訟 建設協会に対する除名決議無効確認訴訟係属中に、被除名者である上告人が破産宣告を受けて建設業者でなくなったときは訴えの利益を欠くに至る
※最判昭和51年12月21日
オ 同一内容の決議の繰り返し 訴訟係属中に取消しの対象とされる決議と同一内容の決議が繰り返された場合、先行決議に関する訴えの利益が消滅する
※最判平成4年10月29日

(7)身分関係の訴訟における訴えの利益の判断

形成の訴えの中には、身分関係の効力を否定する(無効や取消)訴訟もあります。婚姻取消の訴えに関し、訴えの利益が問題になった判例があります。事案は、既婚者が重ねて婚姻をした後、その婚姻(後婚)が離婚によって解消されたというものです。この婚姻(後婚)をした時点では、重婚であり、取消が認められる状態だったのですが、現時点ではすでに解消されています。過去にさかのぼって解消したいという気持ちはあるでしょうけれど、最高裁は、(法律上は)訴えの利益を認めないと判断しました。ただし、特別の事情がある場合には例外が認められる可能性も示唆しています。

身分関係の訴訟における訴えの利益の判断

重婚において、後婚が離婚によって解消された場合には、特別の事情のない限り後婚の取消を求める訴えの利益を欠くに至る
※最判昭和57年9月28日

7 形成の訴えの特質

(1)形成の訴えの特質(まとめ)

訴訟の分類(類型)の伝統的なものは、給付訴訟、確認訴訟です。形成の訴えについては、かつてはこれらの変形という発想もありましたが、最も新しい訴えの類型(別の分類)という見解が一般的になっています。

形成の訴えの特質(まとめ)

(ア)最も新しい訴えの類型である(イ)給付の訴えの変容や確認訴訟の変型と考えられた時期もあった(ウ)形成訴訟の一部を特種の確認訴訟とみる説も存在する(エ)形成判決は従前の権利または法律関係を変更・消滅させる効力を有する(オ)第三者に対しても効力を生じさせる(形成力)(カ)私法関係に国家が後見的に介入することになる(キ)形成の訴えは法律に明確な規定がある場合に限り認められる(ク)形成判決が確定しない限り、何人も権利または法律関係の変動を主張できない(ケ)他の訴訟の前提としても主張できない

(2)形成判決の機能と特徴

形成判決の機能のキモは形成力にあります。これは、形成判決が確定することで法律関係を変動させる力を指します。
また、給付判決や確認判決では既判力によってその後の紛争の蒸し返しが防止されていますが、形成の訴えではそのような構造はありません(後述)。しかし、形成力が生じた結果、その後に紛争が蒸し返されることはほぼ生じないという構造があります。

形成判決の機能と特徴

(ア)形成判決の機能の本体は形成力にある(イ)訴訟物とされる形成を求める地位(あるいは形成要件)は形成判決の確定によって目的を達して消滅する(ウ)訴訟物とされる形成を求める地位(あるいは形成要件)の存否が将来再び問題になることは稀有の場合以外には存在しない

(3)形成判決の既判力に関する議論

形成判決の既判力については見解(解釈)が統一されていません。既判力を肯定する立場でも、少なくとも現実的な効用は小さいといえます。いずれにしても判決には形成力がある結果、紛争の蒸し返しが防止される構造があります(前述)。
なお、形成の訴えの中の形式的形成訴訟の中の共有物分割訴訟の既判力については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の訴訟物と既判力の範囲(分割請求権)

形成判決の既判力に関する議論

(ア)形成判決の既判力については争いがある(イ)既判力を肯定するとしても、その効用が非常に少ないことは否定できない(ウ)確認判決が基本型であるとの考えによって形成力が既判力によって基礎づけられるとの説もある(エ)この考え方は形成力の本質と調和しないおそれがある

(4)形成の訴えの訴訟法上の扱い(処分権主義・弁論主義)

形成判決の手続(訴訟法上の扱い)については、いくつかの議論があります。弁論主義処分権主義に関するものです。「形成の訴え」について共通する扱いが確立しているわけではありません。
たとえば、形成の訴えの中の形式的形成訴訟の中の共有物分割訴訟の訴訟法上の扱いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)

形成の訴えの訴訟法上の扱い(処分権主義・弁論主義)

(ア)職権探知主義をとるべきとする説がある(イ)当事者は放棄・認諾および自白などの不利益な行為はなしえないとする説がある(ウ)再審の訴えによる確定判決の取消しは公益に関するとの理由で職権探知を認める説がある(エ)会社関係訴訟の形成の訴えおよび行政処分の取消しの訴えなどについては、処分権主義・弁論主義の制限の程度や職権探知主義の採用の是非が論じられている(オ)いまだ定説が確立されていない状態である

8 参考情報

参考情報

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ 第2版』日本評論社2018年p19〜25
※伊藤眞著『民事訴訟法 第7版』有斐閣2020年p168、169

本記事では、形成の訴えの基本的事項について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に形成の訴え(訴訟の中で特殊なもの)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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