【刑事施設に収容されている者に対する送達(民事訴訟法102条3項)】

1 刑事施設に収容されている者に対する送達(民事訴訟法102条3項)

民事訴訟の送達の種類にはいろいろなものがあり、状況によってどれを使うかが異なります。
詳しくはこちら|送達の種類(通常送達・就業先送達・補充送達・付郵便送達・公示送達)
この点、被送達者(被告)が収監されている場合の送達は、収容施設を宛先にするというルールがあります。本記事ではこのことを説明します。

2 民事訴訟法102条の条文

最初に、民事訴訟法102条の条文を確認します。この3項に、刑事施設に収容された者に対する送達は刑事施設の長に対して行う、ということが書いてあります。

民事訴訟法102条の条文

(訴訟無能力者等に対する送達)
第百二条 訴訟無能力者に対する送達は、その法定代理人にする。
2 数人が共同して代理権を行うべき場合には、送達は、その一人にすれば足りる。
3 刑事施設に収容されている者に対する送達は、刑事施設の長にする。

3 収監者への送達の趣旨

民事訴訟法102条3項の趣旨は、刑事施設内の秩序維持のための外部通信の制約と、被収容者への迅速な送達の必要性のバランスを図る、というものです。

収監者への送達の規定の趣旨

外部との通信に一定の制約があり、本来の住居所等への送達では時間がかかる
秩序維持と迅速性を図る

4 収監者への送達の適用範囲

(1)適用範囲→既決未決、代用監獄、他の収容施設を含む

民事訴訟法102条3項は既決・未決の両方の拘禁者を含みます。また、訴訟開始前後を問わず適用されます。代用刑事施設も含まれますが、少年院や入国者収容所も類推適用が肯定される傾向があります。

適用範囲→既決未決、代用監獄、他の収容施設を含む

あ 被収容者の定義→広範な適用

ア 収容者の種類→既決・未決両方 刑事施設に収容されている者で、既決拘禁者と未決拘禁者の両方を含む
イ 収容時期→訴訟前後問わず 訴訟開始前からの被収容者と訴訟開始後に被収容者となった者の両方を含む
ウ 適用時期→送達時が基準 送達時に被収容者であれば民事訴訟法102条3項が適用される

い 刑事施設の範囲→代用施設含む

代用刑事施設(警察官署に附属する留置施設で刑事施設に代用されたもの)を含む

う 他の収容施設→類推適用肯定方向

少年院・少年鑑別所、婦人補導院、入国者収容所等の施設への類推適用は肯定する見解が優勢である
類推適用を否定する見解もある

(2)刑事施設の長の具体例

前述のように、「刑事施設」にはいろいろな種類のものが含まれます。その「長」が誰か、ということについては、バリエーションがあります。

刑事施設の長の具体例

あ 支所

刑事施設の支所の長も刑事施設の長に含まれる

い 代用刑事施設

代用刑事施設の場合は留置業務管理者が刑事施設の長とみなされる
留置業務管理者は警視以上の階級にある警察官から指名される者または警察署長である

5 送達の方法と効力

(1)刑事施設の長を法定代理人とする構造

民事訴訟法102条3項の送達は、刑事施設の長を法定代理人として位置づけています。
送達の名宛人は施設長とすべきですが、書類自体の名宛人は被収容者です。

刑事施設の長を法定代理人とする構造

あ 施設長の位置づけ→法定代理人

刑事施設の長を送達に関する法定代理人と解する

い 送達の名宛人→施設長とすべき

送達の名宛人は刑事施設の長とすべきである
※法曹会決議昭和7年2月24日

う 書類の名宛人→被収容者

送達書類自体の名宛人はあくまで被収容者である

(2)補充送達の可否→可能

刑事施設の長に対する送達においても、補充送達の方法が認められています。これは東京高裁昭和25年7月4日の判決で示されており、実務上も認められています。ただし、反対の見解もあります。

補充送達の可否→可能

刑事施設の長に送達する場合でも、補充送達の方法によることができる
※東京高判昭和25年7月4日

(3)送達の効力発生時期

送達の効力は、刑事施設の長が受領した時に生じます。被収容者本人に実際に書類が交付された時ではありません。この扱いは刑事事件(刑事裁判)の起訴状送達とは違います。

送達の効力発生時期

あ 効力発生時→施設長受領時

受領権限を有する刑事施設の長が受領した時に効力が生じる
※最判昭和54年10月18日

い 被収容者交付時→効力発生時点ではない

現実に書類が被収容者に交付された時に効力が発生するわけではない

う 不備があった場合の救済→柔軟な対応

送達に不備があったのに送達が有効となった場合は、民事訴訟法157条の運用緩和や上訴期間の追完などで救済を図るべきである

(4)本人の「住所」への送達の効力→無効

送達のルールの大原則は、本人の住所への送達です。この点、本人(被送達者)が収監されている場合は、以上のように刑事施設の長が送達先になります。つまり、原則である住所への送達は有効ではない、ということになります。ただし、裁判所が収監されていることを知らなかった場合でも同じ(無効)です。ただし、事情によっては救済的に有効となる可能性もあります。

本人への「住所」への送達の効力→無効

あ 住所送達→無効

被収容者の住所において送達しても無効である
※大決明治43年3月30日
※東京控判大正4年5月27日
※東京高決昭和43年4月3日

い 訴訟中に収容→知らなくても無効

当事者が訴訟中に収容されたことを裁判所が知らなかった場合でも、住所への送達は無効である
※福岡高決昭和33年1月20日

う 例外的有効→余地あり

民事訴訟法104条3項1号の適用により、住所に宛てた送達が有効とされる余地がある

(5)他の送達方法との関係

民事訴訟法102条3項と100条・105条の適用関係には議論があります。民事訴訟法102条3項の趣旨から、100条または105条による送達は原則として許されないとされています。
ただし、これらの条文で送達がなされてしまった場合、その効果自体は有効と解するのが妥当とされています。これは送達の安定性と実効性を確保する観点からの解釈です。

他の送達方法との関係

あ 他条適用→問題あり

民事訴訟法100条(裁判所書記官による送達)・105条(出会送達)の適用を排除するかどうかは問題がある

い 他条適用→許されない

民事訴訟法102条3項の趣旨から、100条または105条によって送達を実施することは許されない

う 他条適用の効果→有効と解釈

民事訴訟法100条または105条によって送達をしてしまった場合、送達の効果自体は有効と解するのが妥当である

6 関連テーマ

(1)弁護士会照会による服役場所(収監場所)の調査

収監されている者に対する民事上の法的手続を利用する場合、収監場所を知る必要がある、ということになります。その調査には通常、弁護士会照会を使います
詳しくはこちら|弁護士会照会による服役場所(収監場所)の調査

7 参考情報

参考情報

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p386〜389

本記事では、刑事施設に収容されている者に対する送達について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に送達など、民事訴訟の手続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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