【「行政指導」の定義(行政手続法2条6号)】
1 「行政指導」の定義(行政手続法2条6号)
いろいろな場面で行政による各種の要請が「行政指導」にあたるかどうかが問題になることがあります。本記事では、「行政指導」の定義について説明します。
2 行政手続法2条6号の条文
「行政指導」の定義は、行政手続法2条6号に規定されています。条文上、いくつかの指標(要件)が並んでいます。
行政手続法2条6号の条文
・・・
六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
※行政手続法2条6号
3 行政指導の定義における5つの指標
前記の条文における定義は、5つの指標に分解できます。それぞれの内容については後述します。
行政指導の定義における5つの指標
(ア)主体→行政機関(イ)行政指導の範囲→任務および所掌事務(ウ)行政指導の内容→作為・不作為を求める(エ)行政指導の形式→指導、勧告、助言その他の行為(オ)法的拘束力→なし(行政処分との区別)
4 行政指導の主体→行政機関
行政指導の主体は行政機関とされています。
この点、国・地方公共団体に属しない組織が行政庁に当たることがありますが、これらは行政機関ではないため、それらが処分との関係で指導などの行為を行っても、本条の行政指導には該当しません。
行政指導の主体→行政指導
あ 行政機関の概念
行政機関とは、国の行政事務または自治行政の事務を担当する機関
い 国・地方公共団体に属しない行政庁→行政機関ではない
国・地方公共団体に属しない組織が行政庁に当たることがあるが、これらは行政機関ではないため、それらが処分との関係で指導などの行為を行っても、本条の行政指導ではない
5 行政指導の範囲→任務および所掌事務
行政指導は、行政機関の任務又は所掌事務の範囲内で行われるものとされています。各行政機関の任務および所掌事務は各設置法等に規定があります。範囲を越えた指導等の評価については、行政指導ではないとする説と違法な行政指導とする説があり、見解が分かれています。
行政指導の範囲→任務および所掌事務
あ 任務および所掌事務→各設置法等に定める
各行政機関の任務および所掌事務は各設置法等に規定がある(例えば内閣府設置法3条および4条)
い 範囲外の指導→2つの見解
ア 行政指導ではないとする見解
任務又は所掌事務の範囲内を越えて行われた指導などはもはや行政指導ではない
イ 違法な行政指導とする見解
任務又は所掌事務の範囲内を逸脱した指導などは違法な行政指導
6 行政指導の内容→作為・不作為を求める
行政指導は特定の者に対して行われ、一定の作為又は不作為を求めるものです。不特定多数の者への一般的な指導は行政手続法の対象外です。また、求めることは不利益性を含意し、規制的行政指導および調整的行政指導が想定されています。
行政指導の内容→作為・不作為を求める
あ 特定の者→対象の個別性
特定の者が対象であること(個別性)を要する
不特定多数の者を相手方として行われる一般的な指導など(例:国民全体に対する節電の要請)は行政手続法の対象となる行政指導に当たらない
い 一定の作為・不作為→内容の具体性
一定の作為又は不作為を求めることは、その内容が具体的なものであること(具体性)を要する
一定の作為又は不作為を求めるものであるため、その内容は具体的なものでなければならない
う 不利益性→規制的・調整的
求めるとは、不利益性を含意するもので、想定されているのは規制的行政指導および調整的行政指導である
7 行政指導の形式→指導、勧告、助言その他の行為
行政指導の形式は指導、勧告、助言その他の行為とされています。法律上指導、勧告、助言、警告の文言が使われている場合、特段の事情がない限り行政指導と推断できます。指示の行政指導該当性は、不利益措置の有無によって判断されます。
行政指導の形式→指導、勧告、助言その他の行為
あ 指導・勧告・助言→例示的文言
これらは行政指導を例示する文言であり、これらの文言に限られない
法律上指導・勧告・助言さらに警告の文言が使われている場合、特段の事情がない限り行政指導と推断できる
い 指示→罰則の有無による
ア 罰則なし→行政指導
指示違反に対して不利益措置が定められていないか公表が定められるにとどまるものは行政指導に当たる
イ 罰則あり→行政処分
罰則が設けられているものは処分に当たる
8 行政処分との区別→行政指導は法的拘束力なし
行政指導は処分に該当しないものとされています。つまり、法的拘束力を持たないものだけが行政指導にあたる、ということです。
行政処分との区別→行政指導は法的拘束力なし
あ 法的拘束力なし→消極的指標で規定
法的拘束力を持つ処分との区別(行政指導が法的拘束力をもたないこと)を明確にするため、行政手続法では処分に該当しないものという消極的指標が使われている
なお、講学上の定義では相手方の任意の協力、要綱案では強制力を有しない手段という積極的指標が用いられている
い 処分との共通点→個別的・具体的行為
行政指導、行政処分とも、行政機関による個別的・具体的行為であり、その枠内で両者が区別される
9 関連テーマ
(1)行政指導による行政の肥大化
行政指導は前述の定義のとおり法的拘束力はありません。しかし、現実の世界では、事実上の拘束力が生じる傾向があります。その結果、行政が「行政指導」を不当に用いることが生じやすい構造にあります。
詳しくはこちら|行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業
(2)行政指導の濫用(悪用)防止の規定(行政手続法32条)
このように「行政指導」の濫用が多い実情から、任意性を強調して、濫用を禁止する規定がわざわざ作られています。
詳しくはこちら|行政指導の一般原則(濫用が多いので禁止・行政手続法32条)
(3)行政訴訟における「処分性」の要件
行政処分が不当である場合、裁判所が是正するメカニズムとして行政訴訟があります。ただ、行政訴訟の対象となるのは「処分性がある」ものだけです。「行政指導」は定義上任意のものですので処分性が否定されます。
詳しくはこちら|行政訴訟・取消訴訟|処分性|基本|処分の定義・給付請求との並立
10 参考情報
参考情報
本記事では、「行政指導」の定義について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に行政からの「指導」や「要請」などに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。