【相殺の方法・効力(民法506条)(解釈整理ノート)】

1 相殺の方法・効力(民法506条)(解釈整理ノート)

相殺(そうさい)とは、簡単にいえば、債権と債務を打ち消すものです。民法506条は相殺(そうさい)の方法と効力を定めています。実務では、いろいろな局面で相殺を活用することがあります。本記事では、民法506条に関するいろいろな解釈を整理しました。

2 民法506条の条文

民法506条の条文

(相殺の方法及び効力)
第五百六条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
※民法506条

3 相殺の方法

(1)相殺の方法→意思表示または契約

相殺の方法→意思表示または契約

あ 相殺の意思表示の性質→相手方に対する単独行為

相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行われる単独行為である
※大判昭和11年3月23日(債権の代位行使の場合、被告は代位者に対して相殺の意思表示をすべき)
※最判昭和32年7月19日(転付命令がある場合、転付債権者に対して相殺の意思表示をすべき)
※最判昭和39年10月27日(取立命令の場合も、命令を受けた者に対して相殺の意思表示をすればよい)

い 相殺契約

相殺は契約(相殺契約)によっても目的を達することができる

(2)相殺意思表示の制限→条件・期限不可

相殺意思表示の制限→条件・期限不可

相殺の意思表示には、条件または期限を付すことができない
※民法506条1項

4 相殺の効力

(1)相殺の効力の原則→遡及効

相殺の効力の原則→遡及効

相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時(相殺適状)にさかのぼってその効力を生じる
(ア)相殺適状以後は利息が発生しなくなる(イ)相殺適状以後の履行遅滞は消滅する

(2)相殺の遡及効の制限→生じた法理関係の覆滅不可

相殺の遡及効の制限→生じた法理関係の覆滅不可

相殺の遡及効は、相殺がなされる前に生じた法律関係の変更をくつがえす効力を有しない
※最判昭和54年7月10日(先行する相殺は有効)
※最判昭和32年3月8日(先行する解除は有効)
※大判大正4年4月1日(先行する弁済は有効)

5 特殊な場面での相殺

(1)倒産手続における相殺

倒産手続における相殺

破産手続では相殺権は認められる(破産法67条)
会社更生・民事再生では債権届出期間までの相殺権行使が認められる(会社更生法48条、民事再生法92条)
※平成11年3月9日(旧和議法下での相殺とその遡及効を認めた)

(2)訴訟手続との関係→既判力の制限なし

訴訟手続との関係→既判力の制限なし

口頭弁論終結以前に相殺適状があり、確定判決後に相殺の意思表示がなされた場合でも、請求異議の訴えの原因となりうる
※大連判明治43年11月26日
※最判昭和40年4月2日

(3)参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1061〜1063

本記事では、相殺の方法・効力(民法506条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にお互いに持っている債権(請求権)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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