【提訴前証拠収集処分の裁判所の審理(意見聴取・決定・裁量棄却)(解釈整理ノート)】

1 提訴前証拠収集処分の裁判所の審理(意見聴取・決定・裁量棄却)(解釈整理ノート)

民事訴訟の申立の前の段階で、裁判所をとおして、相手方や第三者(各種機関)に証拠の提出を求める制度があります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分(民事訴訟法132条の4)の総合ガイド
本記事では、提訴前証拠収集処分の裁判所の審理プロセスについて整理しました。

2 相手方の意見聴取

相手方の意見聴取

あ 基本

証拠収集処分をするためには、申立人の相手方の意見を聴取することが必要的である

い 聴取の方法

意見聴取の方法には特に定めはなく、相手方に意見を述べる機会を与えれば足りる
特別送達の方法により書面で行う(大阪地裁専門訴訟事件研究会)
機会があったにもかかわらず意見を述べなかった場合でも証拠収集処分は可能である
証拠収集処分の申立てを斥ける場合には、相手方の意見を聴く必要はない

3 提訴前証拠収集処分の決定

(1)提訴前証拠収集処分の判断→決定

提訴前証拠収集処分の判断→決定

あ 基本

裁判所は、その要件が満たされている場合には、証拠収集の処分をすることができる
処分の性質はいずれも裁判所の裁判(決定)である

い バリエーション

処分の申立てが不適法であるときは申立却下の決定、処分の要件を満たさないときは申立棄却の決定がされる
複数の申立てが併合されている場合にその一部のみを認める場合には、一部認容・一部棄却(却下)の決定がされる

(2)証拠収集処分の裁量棄却

証拠収集処分の裁量棄却

あ 基本

裁判所は手続裁量に基づき証拠収集処分の申立てを棄却することができる
これは一種の裁量棄却の制度である

い 申立棄却決定がされる典型例

ア 当該証拠の収集に要すべき時間が不相当なものとなる 外国に所在する文書の送付の嘱託が求められた場合
高度な専門的知見に基づく意見を述べるについて様々な調査・検討の作業が必要となる結果、時間を要する場合
イ 嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなる かなりの過去に作成された大量の文書の送付の嘱託が求められた場合
嘱託を受けた調査をするについて多額の費用がかかる場合
ウ その他の事情 提訴の可能性、請求の内容、証拠の必要性などを総合的に考慮して、裁判所が当該証拠収集処分をすることが相当でないと判断した場合

4 提訴前証拠収集処分の効力→応じる義務あり・制裁なし

提訴前証拠収集処分の効力→応じる義務あり・制裁なし

あ 相手方が予告通知返答の相手方であるケース

処分に応じる訴訟法上の義務が認められるが、それに応じなかった場合の固有の制裁はない
提訴後の事実認定の際に間接事実として考慮されたり、代理人弁護士の倫理上の問題を発生させたりする可能性がある

い 相手方が第三者(予告通知返答の相手方以外)であるケース

裁判所からの嘱託・命令であることから公法上の義務は認められると解される
制裁や強制手段はない

5 決定に対する不服申立→不可

決定に対する不服申立→不可

提訴前証拠収集処分の決定(認める、却下、棄却のいずれも)に対する不服申立はできない
※民事訴訟法132条の8

6 提訴前証拠収集処分の取消

提訴前証拠収集処分の取消

あ 規定

裁判所は、一旦証拠収集処分をした後においても、当該処分が相当でないと認められるに至ったときは、それを取り消すことができる
※民事訴訟法132条の4第4項

い 特徴→決定の自縛力の例外

証拠収集処分は決定によってされるため、一般に自縄力(自己拘束力)があるが、法定の棄却事由が存する場合には例外的に自縄力が解除される

う 「認められるに至ったとき」の内容→原始的+事後的

「認められるに至ったとき」には、次の両方が含まれる
ア 原始的不相当 当該証拠収集処分がもともと(処分をした時点で)相当でなかったことが後に判明した場合
イ 事後的不相当 処分の時点では相当であったものが事後的に相当でなくなった場合
例=嘱託の時点ではそれほどの調査を要しないものであったのに、その後の事情の変化により、手間のかかる調査が必要になった

7 参考情報

参考情報

秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第3版』日本評論社2022年p678〜685

本記事では、提訴前証拠収集処分の裁判所の審理について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にまだ訴訟を提起する前の段階での証拠集めに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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